一人の女性が、端正な顔立ちと太陽を反射する金色に目を奪われて、はっと振り返る。だがそのときにはその姿は人ごみのどこにもいなかった。およそ目立つであろうあの容姿と身長。視線でずっと追っていたはずなのにそれでも気づけば視界のどこにもいなくなっていた。不思議に思いながら、女性が改めて正面を向き直ると、今度は赤い髪の少年が目に入った。今日はやけに綺麗な人と出会う日だ、と思いながらその女性は少年を見送った。
人通りの多い町中で、シャルナークは早足に人ごみの間を抜けていく。人にぶつからないようにして進んでいく彼に何人もの女性が振り返ったが、シャルナークが振り返ることはなかった。彼はただ、手元の少しばかり古い型の携帯をいじるばかりで、周囲には目もくれない。
シャルナークは人ごみにまぎれたままふいに絶をして、気配をたった。そのまま立ち止まることもなく、誰にも気づかれぬままにさらに人の間を進んでから、路地裏に抜ける。表通りの人の多さとは逆に路地裏は静まり返っていて人の喧騒がどこか遠くに聞こえていた。誰もシャルナークがそこにいることに気づいてすらいない。だがそれでもシャルナークは険しい表情のままさらに奥へと進んでいく。
ハルシャと分かれてもう半月になる。あれから本格的にヨークシンの大仕事に関する情報収集に当たっていたのだが、本日ふと視線を感じてこの数日引きこもっていたカフェを出た。まだ太陽の日差しがまぶしいこの時間帯に表に出るのは久々で、風が気持ちよかったがそんなものを全身で感じている場合ではない。相手はひどく達者な絶の使い手で、こちらへの視線を隠そうとはしないものの距離がまったくつかめない。見られている、ことだけがわかる気持ち悪さがずっと体中にへばりついている。
賞金稼ぎのハンターか、と思いながらシャルナークはポケットの中のアンテナに咄嗟に手を伸ばし、それから少しばかり落ち着いた表情で店を出た。それから町中を一気に駆け抜けて、死角の多い路地裏まで抜けたのである。
シャルナークのアンテナはそれを相手に突き刺しさえすれば勝ち、である。特に一対一のときはそれで勝負が決まるし、一対多にしても敵の一人を手中に収めればシャルナークほどの実力者であれば十分勝機が見える。できる限り死角が多い場所にもぐりこむのは、相手の隙を狙いたいからだ。フィンクスやウボォーギンと違って肉体派ではないシャルナークは面と向き合っての戦闘は好まない。じっと息を潜めて相手を待っていると、シャルナークが隠れた路地裏に姿を現したのが見知った相手でシャルナークは息を詰めた。
赤い髪と白い肌。けだるげな視線がしばし路地裏を見渡してそれからまっすぐにシャルナークが隠れている場所を見た。
「出て来い。絶はまともになったようだが、円を使えばわかる」
「・・・久しぶりだね、サソリ。
ハルシャが探してたよ」
「ふん」
シャルナークが最後にサソリと会ってから、それなりに時間が経っているというのにも関わらずサソリには一片の変化の見られない。服装ばかりは変わっているものの、髪の長さも毛先の跳ね方さえも記憶の中とまったく同じであるように思える。
シャルナークは静かな路地で、サソリと向き合うと彼はふんと鼻を鳴らした。その癖もまた昔からのものだ。
「オレのこと追ってきて何の用?悪いけど身代金要求なんて意味ないよ」
「次のヨークシンオークションで問題を起こすのはてめぇらか」
「何それ」
冗談半分に言った言葉をサソリは鼻で笑ってから、唐突に話に入った。サソリの言葉に思い当たる節がありすぎるシャルナークはほんの一瞬焦ったものの、表情には出さずにただ疑問を返す。サソリは問題を起こすのが幻影旅団であるのか、とも何をするのかとも言っていない。肯定は勿論下手な否定も口にするのは危ない。
シャルナークにとってサソリは見知った人物であるものの、サソリと付き合った年月は短く、ベネットや
ハルシャが全面的に信頼を置くほどシャルナークがサソリのことを信用しているわけではない。
さて、どう答えよう、とシャルナークはサソリと向き合いながらじっと考えていた。サソリの意図は、一体なんなのだ。
「9月のヨークシンのオークションで一つ面倒ごとが起こると聞いた。それが、旅団の起こすことなのかどうかと聞いている」
「サソリはオレが旅団に居ることは知っているんだろうけど、その前の情報に関してはよくわからないな。大体「起こると聞いた」なんて曖昧な話を信じる根拠は何?それは一体何から流れてきた情報なわけ」
太陽をさえぎるビルの隙間で、お互いにらみ合ったまま会話に進展はない。だがサソリは明らかに苛立っていた。サソリはいつだって、自分の思うとおりに会話が進まないとすぐに苛立つのだ。およそ人間と社会的に付き合うには向かない。他人の事情を考えずに勝手に振舞いすぎる。それは自分らもかな、とシャルナークは思いながら相変わらずアンテナを手に隠し持ったまま、サソリと対峙していた。
「オレが旅団の一員であることは別に隠さないけど、サソリが何を持って旅団と関わりたいのかは知りたい。それがわかれば団長に話をしてみるぐらいは別に構わないけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
シャルナークは、過去のサソリとの接点と今回の話とをつなげて少なからずサソリが幻影旅団に興味を持っていると思っていた。今サソリから引き出すべきは、旅団と接触したい目的である。
サソリは殺気までとは言わずともひどく剣呑な空気を纏っていた。路地に入ってこようとした犬がぞわりと毛を逆立てて逃げ出すのが視界の端に見えた。二人揃って絶をしているから、誰も気づかないはずなのに、この路地だけひどく空気が思い。
サソリはたっぷりを間と置いてから、それからいくつかの言葉をゆっくりと口にした。
「一つ、オレ自身の目的がヨークシンのオークションにある。二つ、ヨークシンのオークションで問題を起こすのが旅団ならば面倒だ。三つ、問題を起こすのが旅団ならば旅団と先に接触をしておけば後が楽だ」
シャルナークはそれだけ聞いて幾分楽になった。サソリの目的が旅団そのものでないのならば、気を張る必要もあまりない。
「・・・・オーケイそれなら納得。悪いけどオレは旅団のことに関しては何を聞かれても、肯定することも否定することもしないよ。でもサソリが団長と話をしたいってのなら、団長に連絡することぐらいはできる。オレがするのはそれだけ。旅団に興味があるなら、なんにせよ団長と話をしてくれないと、オレにはどうしようもない」
「・・・・ふん」
サソリはシャルナークの提案を良し、としたのか「三日後」とだけ告げてすぐに路地から姿を消した。サソリが路地を出て行けばすぐに重たく全身を締め付けるような空気も消えて、シャルナークはようやっと息を吐く。過去に何度も死にそうな目にはあってきたし、これまでだと思ったときもあった。そんな中には自分より上の念能力者と出会ったための出来事も多かったが、そのうちの一つがサソリだ。そしてできるなら二度と追い掛け回されたくないのも、サソリだ。
(ってかそれなら普通に話しかけろよ)
心の奥底でサソリに向けて愚痴をはきながら、シャルナークは若干汗ばんだ携帯の番号をプッシュしてクロロの電話に繋げる。3コールでクロロが出たのは奇跡だったが、サソリ並みに捕まらないクロロがもしも三日後までに捕まえられなかったらサソリはどうする気だったのだろうとシャルナークは思う。
「・・・・あっ団長?ちょっと変なのが釣れちゃった。・・・うん、そう。あの"赤砂"のサソリ」
2014.04.27
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