ハンター試験が終了し講習の際に渡されたちっぽけなカードはそれだけで本人の身分を証明するというのだから恐れ入る。しかしこれさえ持っていれば一般人では入れないようなところにも入れる、サソリ一人であれば行けるような場所へこれでハルシャもついて行けるのだ。
早速サソリを探し始めよう、だけどその前に諸経費を集めなければならない。何をするにも先立つものが必要と言うわけだ。
イルミは一旦家に帰るというので最終試験会場で別れを告げた。いずれまたゾルディックとは関わることになるだろうという予感を持ちながら、ハルシャはゴンたちとも別れを告げてまず最初の行き先を決めるため情報集めに入ろうとした。が、どうもこの変態は徹底的にハルシャに付きまとう気のようで、彼女は思い切り嫌な顔をして近づいてきたヒソカを威嚇した。


「そんな顔しないでよ♥ボクだって傷つくんだけどなぁ」

「大いに傷ついて」

「それよりもハルシャ。君、お父さんを探すためにお金が必要なんだろう?」


ヒソカの口からお父さんと言う言葉が出てくるとは思わなかった。なんだか薄気味悪くて背筋がぞっとする。


「ちょうどいいところを知っているから、一緒に来ないかい♣」

「・・・・ちょうどいいところ?」

「うん♠天空闘技場って知ってる?」

「・・・・・もしかしてあの・・・格闘技のメッカの?」

「そう♥」


遠距離戦一本の君にとってはちょっと不利になるかもしれないけど、むしろいい修行になるんじゃないというヒソカの言葉には裏があるようで素直に乗る気にはなれなかった。だが事実、ヒソカやイルミと対峙して近接戦闘に持ち込まれてしまえばそこから逃げることすら適わない状況はどうにかしなければならないのも事実だ。そこでしばらく格闘技の極意を学ぶのも悪くないかもしれない、と思い直したハルシャはしばし考え三日後に「天空闘技場へ行く」旨をヒソカに連絡したのだった。











出会った当初は気味の悪い男だと思っていたのに一体いつからこんな関係になったのだろうか、とヒソカと待ち合わせた場所でハルシャは一人思案していた。イルミとはゾルディック家に出入りしていた頃毎日のように修行と称して殺し合いをしていた仲だが、どうもヒソカとの関係がわからない。うっかり近づけば貞操といわずありとあらゆるものの危機な気がするのだが、それでも今は昔ほどの嫌悪感は感じなくなっていた。


「慣れ、か・・・・」

「何が♣」

「ヒソカの気持ち悪さに対する」

「相変わらず酷いなぁ♣」


ぽつりと呟いた言葉には思いがけないところから返事が返ってきたのだが、ハルシャはそこは大方予測していたのであろうさほど驚きもせずに、後ろから近づいてきたヒソカにドストレートな感想をぶちまけた。
普通本人の目の前でそれを言う?と少し可愛らしく首を傾げて(あくまでその動作に対する感想であり、ヒソカがやるとどうも演技臭い)ヒソカが言うと、ハルシャは「父さんの教育の賜物」と言った。サソリもまた思ったことを素直に口に出すというか、とりあえず口が悪いのでそれが全てハルシャに映らなかっただけマシといったところだろう。ヒソカはサソリと直接会ったことがないのでクツクツと笑ってハルシャの前を歩き始めた。


「でも私天空闘技場の場所知ってるからわざわざ待ち合わせる必要なんてないんじゃない?」

「ボクはすでに200階にいるからね。話をすれば受付に長い時間をかけなくて済むよ♣」


それはありがたいが、それでもわざわざハルシャに案内を買って出るほどマメな男なのだろうか。思うに普通であれば勝手に来れば、と言う対応であろうし強い者に興味があるにしてもハルシャが上がってくるのを待っていればいいだけのはずなのだ。ハンター試験から思っていたことだが、なぜわざわざ自分に付きまとうように行動するのか意味がわからない、とハルシャは前々から思っていたことをヒソカに告げた。


「・・・・・君、人からの好意に相当疎いんだね」


ヒソカが驚いたように目を見開いたのは多分これが始めてなのではないだろうか。ハルシャは少なくともそんなヒソカの表情は初めて見たから少なからず驚いた。


「ボクが君に付きまとうのは君のことが好きだからだよ♣君は言うなればまだ熟れきってない、あと一歩の未成熟な果実。それを自分の手元で自分好みの色に育ててみたいと思わないかい♠」

「・・・・・つまり素敵な死体を自分好みの人形に作り変えたいって気分かしら」

「クククッ君の人形と一緒にされてもちょっと心外だけどね♣君は強い。本気の本気で遠距離戦をやったらボクでもイルミでも適わないだろう。でもまだ成長の余地がある、だからボクは君が完成されたところで・・・・」


壊したい、と言ったヒソカにはサソリが人形に執着するのと同じ狂気があった。己の芸術感に対する狂気とでも言い換えようか。ヒソカの細められた目がじっとハルシャの目を覗きこんでそっとその頬に触れた。


「あんた碌な死に方しないわね」

ハルシャのそういうところもいいね♣」


さて、行こうかと言ったヒソカからはもう先ほどの狂気は感じられない。
そろそろ二人の周囲はいかにも、と言った男たちで溢れるようになってハルシャのような細身の女性の姿はほとんど見かけなくなっていった。
周囲を見回しながら歩いたところで、奇抜なヒソカの姿を見失うことはない。だがヒソカの方はとにもかくにもハルシャを近くにおいておきたいようで、危うく人混みに紛れかけたハルシャの腕に伸縮自在の愛【バンジーガム】をつけて引き寄せる。


「ところでハルシャ、一つ聞きたいことがあるんだけど♣」

「何?」

「君はなんでサソリを追いかけているんだい?それは君の意思?それとも、今までそうだったから?」


不意にヒソカに尋ねられてハルシャはきょとんとした。うっかりとんでもない隙をヒソカに見せてしまったが、彼はここで彼女に何をする気もないらしく純粋にハルシャの答えを待っている。


「・・・・私が、父さんを追いかける理由?」


置いていかれて追いかけなくちゃ、と思った理由は私自身が追いかけたいと思っているから、だと少なくともヒソカに言われるまで信じていた。だが習慣だからサソリと一緒にいるのと自分がいたいから一緒にいるのとではまるで意味が違ってくる。前者は意思がなく後者は意思によるものだ。
問われて何故だろうと純粋に自分に問い返した。その疑問の答えをヒソカに求めるほどハルシャは子供ではなかったから、立ち止まったままじっと地面を見つめて己の中で納得のいく答えを必死で探してみる。だが、わからない。


「・・・・わからないわ。私は少なくとも追いかけたいのだと思ってたけど、習慣なのかもしれない」


ずっと小さい頃からサソリと一緒にいたから、とハルシャは言う。


「自分が他に何をしたいのかもよくわからないけど、でももう一度会いたい。会って少なくとも話をしてそれからもう一度サソリを追いかけるか独り立ちするか決めたい・・・のかも」


中途半端にわかれちゃったし、と続いた曖昧な答えは要領を得ない。


「そう♥」


だがヒソカはそれで満足したようで、ただ目を細めて笑っただけだった。







2013/01/19

S.D.Sランキング参加中