蜘蛛が召集をかけられたのはイヴァンとクロロが奇妙な傷を負ってからふた月後のことだった。マチはその日以来拭いきれないイヴァンへの不信感が胸の中を占有し続けて、落ち着かなかった。彼はもしかしてクロロに近づくために自分を利用したのだろうか。だが無駄口を利いた覚えはない。繋がりそうで繋がらない二人の関係に悶々としながら、過ごす間、珍しいことにイヴァンから一切の連絡がなかった。いつもなら半月に一度はなんでもないメールをよこしてくる男が、あの傷を治して以来連絡をよこさない。ということはやはり・・・とつい考え込んでしまう。しかしイヴァンがクロロに対し何を狙っているのかさっぱりわからない。
もう一度会ったとき、クロロの怪我は感知していて、その傷口がうっすらと分かる程度になっていた。相変わらずオーラのコントロールが上手い男である。


「団長、今回の狙いは何だ?」


珍しくほぼ全員が揃った旅団の中央に座るクロロは相変わらず本を片手にしている。古書好きは昔から変わらなかった。


「国立美術館、イアン・レ・マーレの絵がターゲットだが、他にも貴重な物品があるからな。全て盗る」


ほとんど名前もないような国でありながら、この国の美術館は世界に名を馳せるものであった。むしろ美術館しかないような国だ。唯一の観光の目玉である美術館はさぞ警備も厳しいに違いない。


「一番楽な侵入ルートは一点、かな。それでも警備員の数は多いけど。みんな何処から行く?」


シャルナークが用意した紙には美術館とその周辺の地図が細かく記載されていた。赤丸は大方警備員の配置と言ったところだろう。その中で一点、ただ赤丸の配置から考えるとやけに警備が手薄な箇所があった。だがシャルナークが最も楽とする経路とは全く別の場所だ、ということはつまりこの警備員が一般人ではないことを示している。


「こいつは?」

「ん?ああ。こいつちょっと面倒っぽいんだよねー。今までの経歴を見てる限り、こいつのいる経路だけは絶対侵入なし。話によると念能力者らしいけど、具体的に調べても本当に何も出てこないんだよな。流星街出身みたい」

「・・・名前は?」

「イヴァン。苗字はないよ」


その時のマチとクロロの表情の変化に気付いたのはシャルナークだけだ。


「・・・それじゃそこは私が行くよ」

「相手の念がどんなものかよくわかんないから気をつけなよ」


マチはその後のシャルナークの話をほとんど聞いていなかった。聞いていなかったところで困ることではない。最終的には目的に向かって団員は勝手気ままに動くことが多いからだ。
マチはただシャルナークが用意したイヴァンの経歴をじっと見つめていた。警備員として登録された顔写真は正しくマチが見慣れたそれだ。製薬会社に勤めてもう5年。身分証明書はあるが、その前の経歴はシャルナークをもってしても空白である。それはつまり蜘蛛の多くのメンバーと同じ、存在しない人であるということだ。
マチの表情が険しくなった。














「さて、とクロロはどう思う?」

「イヴァンか?ああ、あいつの方が上だな」

「昔っから頭良かったしねぇ」


からからとシャルナークは全員がいなくなったアジトでパソコンと向き合いながらクロロの言葉に笑った。


「まさかクロロが負けるとは思わなかった。あいつの念ってどんなの?」

「・・・・気付いたら酸でズタボロになっていた。少なくとも変化系だろうな。それと俺は負けてはいない」

「わかったわかった。でもそっかー・・・・イヴァンが蜘蛛に入ればいいのになー」

「無理だろうな。あいつが興味があるのはマチだけだ」










2013/04/30 →

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