崩壊した古い遺跡が所狭しとならんでおり、太陽と風雨にさらされてぼろぼろに崩れている。もともとは居住区だったことが予想されるその入りくんだ遺跡群に足を踏み入れると、一瞬で方向感覚を奪われてしまった。
上下左右に広がった遺跡群は、あちらこちらに行き来するための梯子がかけられている。だがその梯子も、錆び付き今にも崩壊しそうだ。元々は緑色だったのだろうか? 塗装は剥げ、錆びついた芯がむき出しになっている。りんどうは手袋をはめて、けがをしないように細心の注意を払いながら梯子を上った。上った先にはまた梯子がある。今度は下って、そして階段を上って、また梯子を下りて、と繰り返しているうちに自分がどちらに進んでいるのかすっかりわからなくなってしまう。ルミナスメイズの森もそうだが、ガラル地方には複雑に入り組んだ地形が多い。慣れていないとすぐに方向感覚を失ってしまう、遺跡の中でりんどうはふうと大きくため息を吐いた。相棒のデンリュウはモンスターボールの中にいてもらっている。デンリュウの手足ではとても梯子の上り下りは難しいからだ。
遺跡の壁にはツタが這いまわっていた。しっかりと根を下ろしたツタは、軽く体重をかけたぐらいでは引き抜けそうにない。ちょうどいいとリンドウはツタに手をかけ足をかけて遺跡の上に上る。遺跡の上は不安定だったが、それでも十分にりんどうの体重を支えてくれた。上にまたがって、向こう側の様子を確認して、りんどうは遺跡から飛び降りる。一瞬の浮遊感、そして硬い地面。どさっと重たい音と共に地面に着地すると足がじんじんとしびれた。荷物を先に投げておくべきだったなと思いながら、りんどうは立ち上がり、膝についた砂を払う。ここはどこもかしこも砂だらけだ。ほとんどは遺跡が崩れた結果の石や岩に、吹き寄せられた砂が溜まったのだろう。遺跡の隅っこには砂の山ができている。
いつの間にか空はどんよりとした曇り空になっている。ふ、と空を見上げると雫がりんどうの頬を打つ。ぽつり、ぽつりと降り出した雨はやがてバケツをひっくり返したような土砂降りになり、りんどうは慌てて遺跡に空いた穴の中に体を滑り込ませる。いくつもの穴が洞窟のようになっているこの遺跡には幸い隠れるところは山のようにある。りんどうは穴の中を少し上って、雨が振り込まない位置にまでくるとようやく一息ついた。少しばかり体は濡れたが許容範囲だ。荷物の中から、こんなときのためにビニールに包んでおいたタオルを取り出してまずは体を拭き、それから濡れた鞄を拭く。どれも防水仕様なので水は鞄の中にまでは入らなかったようだ。
かたかたと腰に下げたボールホルダーが揺れている。りんどうはボールホルダーに下げたボールのうち一つを取り出すとカチ、とボタンを押した。その瞬間光とともに現れたのはデンリュウだ。ジョウト地方からの相棒は狭いボールの中が嫌いでいつもこうして外に出たがる。デンリュウは周りの匂いをくんくんと嗅いで地面の砂をパッパッと払うとそこにどしんと座り込んだ。
「しばらくは動けなさそうだし、ココアでも入れようか。ね、メリー」
「Ruuuuuu」
デンリュウは賛成するように嬉しそうに泣く。りんどうは荷物の中から三脚と鍋を取り出し、遺跡の隙間から伸びている木の根っこを燃料にパパッと即席の調理場をこしらえた。粉末のココアとミルクを引っ張り出して沸騰したお湯の中に溶かしていく。ココアには初めから砂糖が混じっているので、混ぜれば簡単に温かな飲み物の完成だ。二つのコップに慎重に鍋の中のものを移して、そのうちの一つをデンリュウに渡した。温かなココアを飲むと、自然と長旅で疲れた体が安らいでいく。ココアはデンリュウのお気に入りの飲み物なのでデンリュウはとても嬉しそうにコップの中の温かなココアを舌で舐めていた。
雨はまだ止まない。ポケモンたちもこの雨に追われるかのようにして穴の中に飛び込んできたが、中にりんどうとデンリュウがいるのを見ると慌てて外へ飛び出していった。タイレーツの列がぞろぞろと穴の中に入ってきたが、彼らもりんどうを見るやいなや慌ててもう一つの穴の中に飛び込んでいく。小さな穴はタイレーツにはぴったりだがあいにくりんどうには入れそうにもなかった。
遺跡の隙間から水が垂れている。ピチョンポチョンと雫が地面に当たってはじける音が耳に気持ちいい。水の雫はやがて水たまりを作り、水たまりはそのうちにさらさらと小さな流れになった。りんどうはお尻を濡らさないよう流れを避けて砂の上に座り直す。
「雨止まないねぇ」
ザアザアと音を立てている雨は当分の間止みそうにない。今晩はもしかしたらここで過ごすことになるかもしれないなと思いながら、りんどうはスマホロトムを引っ張り出してタウンマップを開いた。この遺跡を抜けてしまえばキルクスタウンはすぐそこだ。雪の降る温泉の町、キルクスタウン。たまにはホテルに泊まってゆっくりとするのも悪くないかもしれないとりんどうは思いながら、ザアザアと降る雨をのんびりと見つめていた。
20210928