三番道路

ガラル地方を旅する物語



 エンジンシティを駆け抜けて、三番道路へと出ると、そこは草原と低い岩山の連なる明るい道路だった。
 荷物を背負いなおして、草むらへと足を踏み入れる。ザクザクと草を踏む音、ちぎれた草から香る植物の香り、時折その中に花の麗しい香りが混ざり込んでいて、ポケモンが近くにいることを思わせた。
「しっ」
 りんどうは後ろを歩いてくるデンリュウに手で合図する。デンリュウはりんどうと同じように少し体をかがめて前を見た。そこにはジグザグマがいて、こちらを見つめている。じっと、目と目が合って、見つめあうこと数分、ジグザグマは見ているのに飽きたのか、はたまた別の理由か、草の中に走り込んで消えた。ふぅとため息を吐いて、りんどうは体を起こす。そして再び腰の高さほどもある道を進んでいく。
 ざくざくざく、ぱきっ、と時折枝を踏み、時々飛び出してきたポケモンとバトルになり、そしてようやっと草場を抜けたかと思うと、また草が続いている。
 靴の中に土が入った。手近な岩場に腰掛けて靴をひっくり返す。ころころと小さな小石が転がって靴の中からでてきた。中敷を引っ張り出して、靴の中に溜まった石を全部追い出してしまうともう一度中敷をしまう。ブラッシータウンで新しくした靴はさすがポケモントレーナー御用達の会社が作っているだけあって、履き心地は最高だ。靴擦れを起こすこともなく、頑丈で歩きやすい。特に靴底がしっかり作られているため、砂利道でも歩くのをさほど困難としないのもりんどうが気に入った点であった。
 少し休憩だ、と岩場に腰掛けたまま遠くを眺める。広々と開けた空には雲が揺蕩い、遠くにはエンジンシティの蒸気がもうもうと上がっているのが見える。エンジンシティから出て外観を眺めると、一大工場地帯という気がするほど、大きく頑丈な町だ。ワイルドエリアの入り口ともなっているエンジンシティでの滞在は悪くなかった。特にホテル・スボミーインは毎年多くのジムチャレンジャーを受け入れているのであろう。来客への対応も、クレーム対応も一流のそれで、見ていて感心するほどである。
 ガラル地方の面白いところはチャンピオンを決めるチャンピオンカップが年に一度の祭典になっていることだ。一年に一度、リーグチャンピオンをかけたバトルが開催されることになっており、それに参加するため、推薦を貰ってまずは八つのジムをめぐるのだ。ジムチャレンジはそれぞれのジムの風土に合わせジムリーダーが独自にデザインしたチャレンジミッションを用意しており、それをクリアしたものだけがジムリーダーとバトルすることができる。
 りんどうは様々な地方を歩いてきた。その中でもガラルのジムは独特なイベントとして成り立っているように思う。まずジムにチャレンジするのに推薦状がいるなんてことは知らず、急遽なじみのあった、ジョウト地方キキョウシティのジムリーダーを務めるハヤトに連絡をして推薦状を用意してもらったのだ。キキョウシティで生まれたリンドウにとってハヤトは馴染みの深い人物であった。ジムチャレンジの形式は違うとはいえジョウト地方のジムリーダーを務めるハヤトの推薦状はガラルでも有効で、つい一昨日申請を済ませ、ジムチャレンジャーとして顔見せとなったばかりだ。これから八つのジムを回ってジムバッジを集め、チャンピオンカップを目指しているというわけである。
 りんどうは今まさにその第一のジムを目指してターフタウンへと歩を進めているのだった。
「そろそろ行こうか、メリーさん」
「Ruuuuuu」
 メリーさんと呼ばれたデンリュウは嬉しそうにしっぽを振って歩きだした。ジョウト地方から出発してから、様々な地方を巡った。その間に手持ちは変わったが、デンリュウだけはいつまでも変わらない、大切な相棒だ。デンリュウの後をついてりんどうも歩き出す。
 空は青く輝き、遠くの蒸気は宙に消えていく。ところどころに大きな木が生えた三番道路にはポケモンはもちろん、ポケモントレーナーたちもたくさんいる。見慣れないポケモンをゲットして、図鑑に登録しながら進んでいくと、歩みは自然と遅くなる。
 トレーナーやポケモンを素通りして五日ほどでガラル鉱山にたどり着く、とエンジンシティで言われたので、実際には十日ほどになるだろうか、と今までの経験から検討をつけ、食料などを買い込んである。ゆっくりと草むらを進んでいけばいいだろうとガラル地方に来て新しくしたスマホロトムの情報を見ながらりんどうは考えた。
 木陰でポケモンが休んでいる。ぷうぷうと鼻提灯を膨らませているが、りんどうが近づくとぱっと体を翻して木を駆け上り、枝葉の中に逃げ込んでしまった。草むらにはポケモンがあちらこちらと歩き回っている。その風景は今や見慣れたものだが、初めてのバトルは足が震えたのを覚えていた。懐かしい記憶だ。
 背丈より高い草むらに入ると果たしてまっすぐ進めているのかもわからなくなる。りんどうは首にぶら下げていた方位磁針付きの時計を引っ張り出して、地図と方位磁針で方向を確認しながら進む。草は根元で絡み合い、何度か転びかけた。大きく踏みならすように草をかき分け方向を確認しながら進むこと一時間、ようやっと背の丈より高い草むらを出ることができて、りんどうとデンリュウはほっとした。
 遠くにキャンパーがいる。キャンプと漂ってくる料理の香りを嗅ぎながら、りんどうたちもその日のキャンプにちょうどいい場所を探すことにした。道はまだまだ長い。


20210928
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