ガラル鉱山の入り口は石レンガのアーチになっていた。入り口から差し込む光で、数メートル先までは見えるものの、その先は真っ暗なように思える。どことなく冷たい風が吹いてきた。ごおおおお、と入り口で風が鳴っている。吹き込む風に背中を押されるようにしながら、りんどうはガラル鉱山へ一歩、また一歩と足を進めた。
ガラル鉱山までの途中で仲間にしたロコンとヌオーがいれば、鉱山もそう怖くはない。
しっかりとした坑木が鉱山の中を支えている。入り口からみると暗く見えた鉱山の中は、思っていたよりも明るかった。ランタンがあちらこちらに取り付けられており、暗いはずの鉱山の中を明るく照らし出している。柔らかなランタンの光は、暗い鉱山の中では救いのように心を落ち着かせてくれる。
狭い坑道をしばらく進んでいくと少し開けた場所に出た。鉱山のポケモンたちが、あちらこちらを動き回っている。
静かかと思う鉱山の中は、実はいろいろな音で満ち溢れていた。タンドンの歩く足音はどす、どすとかすかに鉱山を震わせているようだ。コロモリの羽根は空を切ってもほとんど音がしない。だが時折鳴く声が聞こえて、暗くて光の届かない天井付近にコロモリが溜まっているのだろうと思えるのだった。カーンカーンと石を叩く音もする。まだ鉱山を開拓する作業は続いているのだろう。トロッコには石炭が山のように積まれ、ランタンの光にきらきらと輝いていた。ゴロゴロゴロと岩ポケモンが動く音が遠くでする。いくつもある道の中、どこかの行き先に巣でも作っているのだろう。
壁面を飾るのはきらきらと輝く鉱石たちだ。赤、緑、青と露出した鉱石はランタンの明かりを受けてきらきらと光を反射している。星空のように、チカッチカッとランタンの中の炎を受けて反射を変える鉱石たちは、掘り出される日を静かに待っている。もし道具があるのなら、掘り出してもいいかと思ったが、あいにくとりんどうの手には鉱山で使えそうな道具はなかった。
もう使われていない古い線路は、さび付いて、土や石が降り積もり、倒れたトロッコが積み上げられた中身を外に吐き出している。線路を上を歩くのは不思議な感覚だ。普段なら絶対に歩けない場所、歩いてはいけない場所を歩くのは少し気が引けたが、もう使われていないと言うことなら問題はないだろう。線路の枕木も腐ってぐずぐずになっている。
立ち入り禁止ロープの向こう側を覗き込むと、そこは深い深い穴になっていた。どこまでも続くような暗闇、ランタンの明かりも届かない深淵の向こう側に何があるのかはわからない。もしそこへ訪れたいと思ったのならそれなりの装備が必要だ。水の音がする。ぽちょん、ぴちゃん、ぽちょん、ぴちょん、鉱山の壁面からにじみ出た水は、暗闇の中へと落ちていき、水たまりを作ってそこで水を跳ね返しているのだ。水たまりができるまで一体何年かかったのだろうか? 長い時間をかけて作られた水たまりはきっと透明に透き通っているのだろう。そこに本当にあるのかわからないぐらい透明に。
すこし線路から外れた道を行く。ごつごつとした冷たい岩肌から露出する鉱石、なにものかもわからない石。アーチ状になったトンネルの向こうにも道が続いているが、りんどうが立っているところより先はランタンが一つもなく真っ暗だった。
岩ポケモンが動く音がする。硬い体と地面がこすれあって独特な音を出すのだ。これ以上先には進めない。残念に思いながら再び線路のところへ戻ると、コロモリが慌てて天上高くに舞い上がっていった。
再び線路に沿って歩いていく。錆びたシャベル、放置された手押し車、砂の入った重そうな袋が線路わきに放置されている。いつか誰かが放置していったこれを片付ける日がくるのだろうか。
ふと耳を澄ませると、さび付いた線路の上を何者かが走ってくる音がする。りんどうは慌てて線路から飛びのいて後ろから聞こえてくる音に耳を澄ました。ゴトンゴトンと響く音はだんだんと近づいてくる。そして結構なスピードでさび付いた線路の上を走り抜けていった。トロッゴンだ。その形態が完全に鉱山に適している。カーブをぎりぎりで曲がりながら、トロッゴンは鉱山の暗闇に姿を消した。
トロッゴンを追いかけるようにりんどうもまた線路の上を歩いていく。デンリュウは枕木を一歩ずつまたいで歩くのが気に入ったようで、慎重に歩みを進めている。りんどうはトロッゴンの音に注意しながら、歩いていくとついに線路の終着点にたどり着く。トロッゴンはどこに行ってしまったのだろうか。それはわからなかったが、ともかくもりんどうは新しい道を探す必要ができたのだった。
ランタンに導かれるように歩いていく。締め付けられるような閉塞感と圧迫感がりんどうを今にも押しつぶしそうだった。鉱山に入ってもうずいぶん長い時間が経った。新しいポケモンを見るのも、ゲットするのも楽しかったがそろそろ日の光が恋しくなってくるころだ。キャンプの中で明かりをつけても感じる圧迫感は、重苦しい岩の塊が頭上にあるからだろうか。
しばらくランタンに沿って道を進んでいくと、急に大きく開けた場所に出た。天井が見えないほど大きな空間は、下にも続いている。複雑に入り組んだ地形はマップがなければすぐに迷ってしまいそうだ。
橋がかけられている。木でつくられた手すりもなにもないシンプルな橋。落ちないように気を付けながらそろりと下を覗き込むと、そこにも線路がひかれており、たくさんの石炭や石が詰め込まれたトロッコが佇んでいた。歩くたびにみしみしと音がする木の橋は本当にわたって大丈夫なのだろうか? という疑念をわかせる。りんどうは少し速足気味になってわたりきるとほっと息をついた。
ふと前を見るとランタンの明かりではない、日の光が差し込んでいるのが見えた。ガラル鉱山に入って四日、なかなかに楽しい時間ではあったが、そろそろ出てもいいだろう。めぼしいポケモンはゲットすることができたし、これ以上長居をしていると気が滅入ってしまいそうだ。
りんどうは駆け足に、ガラル鉱山を出て四番道路へと歩を進めた。
20210928