「そろそろ行くか」
それからしばらく念のことやあんまり関係のないこと話していたが、私が何度か時計を確認しているのを見てフィンクスが先に立ち上がった。言い出しにくかった、というよりもすっかり忘れていたのだ。気づけば随分と遅い時間になっていて、じいちゃんにもばあちゃんにも何にも言ってないから心配しているだろうと思うと少しだけ胸が痛んだ。
いつの間にか床で転がっていた男はいなくなっていて、血だけが固まりつつあった。わたしが血を踏まないように避けている間、フィンクスは金を払ったのかすたすたと出口に向かっていく。慌てて後を追って、外に出ると、繁華街はよりいっそう賑やかさを増していた。
「あんま離れんなよ」
フィンクスに一言言われてジャージを裾をつかむと、やっぱりフィンクスは少し慌てた。店では平気な顔をしていたくせになんで私だとダメなのか。やっぱり純情なんだろうか。
それからフィンクスは繁華街の一人の男をひっ捕まえて、半分脅すような格好で地図と中央区のど真ん中まで行く道を聞いていた。住所は言わなかったのは多分彼なりの配慮だ。男に教えられたバスに乗って、30分。思えば随分遠くまで着ている。確かにバスは遠回りするから時間がかかるけど、と思いながら隣のフィンクスを見るとすでに寝ていた。この短い時間の中でよく眠れる。わたしは相変わらずまだ緊張しているようで、疲れているものの眠気はなく、誰もいないバスの中、背もたれに寄りかかってぼーっとしていた。30分などあっという間にすぎてしまった。
「フィン・・・クス、あの最寄・・・」
そういうとフィンクスはゆっくりと目を開いて、運賃を二人分払ってバスを降りる。ここから先はよく知っている道だ。ありがとう、というべきなのかよくわからないが、頭を下げようとしたら「家、どこだ」と言われた。どうやら送っていってくれるらしい。随分とフィンクスに色々な情報を与えてしまった気がして、今更ながらに腹の底が冷える気分だ。だが、春になって変質者も増えている。わたし自身もフィンクスとはまったく違う変質者になんどかストーカーされ(当然走って逃げた)さすがにこの暗い道を、近いとはいえ家まで一人で歩くのは嫌だった。
「こっち」
まだフィンクスの方がマシだ、と見当はずれのことを思いながら指差せばフィンクスは黙って歩き始めた。
家に帰るまでの間は、沈黙だったけど、それまでのことはとても楽しかった気もする。半月前とそれから今日の夕方追いかけられたのは怖かった。怖くて怖くて、ぎりぎりの踏切を越えるほど怖かった。でもその後ひかれそうになって、助けてもらって話をして、なんとなく打ち解けた気がして、今は怖いというよりも楽しかった、と素直に感じている。我ながらなんと単純な思考回路なんだろうか!!わたしは、ほんの少しだけにやけた頬にきゅっと力を入れて引き締める。これじゃただの変態だ。
外観は、他の家と代わりがない。でも実はちょっとずつ違うから慣れれば見えてくる自分の家の明かりにすごくほっとして力が抜けた。思わずずり落ちたバッグを元の位置に正す。ところで、じいちゃんとばあちゃんにはフィンクスのことをなんと言えばいいんだろうか。でも考えてみたら家の前で別れればいいんじゃん、と思ったがそれは玄関でうろうろとしているじいちゃんを見つけて終わったな、と思った。
「レンリ!!!!お前どこほっつきあるってた!!!」
どん、と腹に響く怒鳴り声にわたしは思わずきゅっと身をちぢこめる。だがじいちゃんの目には涙が浮かんでいて「ごめん!」と言ってじいちゃんに抱きついた。
「半月前にお前さんが泣きながら帰ってきてたからまた、何かあったんじゃないかと___」
あ、それ間違ってない。全部元凶後ろの男だなと思って、色々と説明をどうしようかと思っていると、じいちゃんがふと顔を上げて、わたしの少し後ろでじいちゃんとわたしの邂逅を眺めていたフィンクスを見る。そして、さっと顔を青ざめた。
「きっ・・・」
「おっ、やべっ」
フィンクスは口調の割りに全然あせってない。だがじいちゃんは青くなった顔を今度は真っ赤にして、突然家の中に向かって叫んだ。
「アマンダァ!!!!!オレの銃を持ってこぉぉい!!!!蜘蛛じゃああ!!!!」
アマンダ、はばあちゃんの名前だ。突然耳元で怒鳴られたかと思ってびっくりしていると、そのままぽんと玄関に押し込められる。それとほぼ同時にばあちゃんがじいちゃんの声を聞いてやっぱりとんでもない形相をして、どこにあったのか知らない散弾銃を持ってきたのだ。それからぴしゃりと戸を閉めて、わたしはフィンクスに何も言うこともできずに部屋の奥に連れて行かれた。その後は色々大変だった。散弾銃のはじける音と、隣近所が置きだして騒ぎ出して、さらには警察までもやってきて。何がなんだかわからないうちにわたしは警察まで連れて行かれた。そして色々事情聴取をされて、フィンクスとのことを色々と聞かれたが、わたしはなんとなく話してはいけない気がして、ただつれまわされた、との一点張り。名前も知らない振りをした。
そうして騒ぎになったのは家の周りだけじゃなくて学校でもで、気づけばオスナベルガには随分と警察の数が増えていた。何が騒ぎになっているのかも中学生の耳には届かない。わたし自身は単純に怪しい男に誘拐されかけたからかと思っていたのだ。でもじいちゃんが散弾銃を持っているのが気になって、それとなく聞いてみるとなんとじいちゃんとばあちゃんはハンターはハンターでもブラックリストハンターだったのだ。世界中を飛び回り、いろんな犯罪者を捕まえていた、二つ星のハンターで表彰までされていた。
そしてフィンクスはあのA級犯罪者集団、幻影旅団の一員だったらしい。