生涯にあるかないか、影を抜かれたなんて経験

恐ろしく無駄のない一つ一つの動作は、先読みも難しい。イタチはそこそこの距離を那由多(のゾンビ)と空け、手裏剣とクナイで牽制をしながらもいまいち効果のほどを実感できなかった。
イタチの手裏剣術は正確無比、かつ非常に威力も高い。さらに手裏剣と手裏剣をぶつけることでその軌道を変え、本来なら死角である的にも命中させることができる。飛び道具の便利なところは、絶妙なタイミングのズレによって相手を追い込むことができることである。しかも接近戦と違って距離をとって全体を確認できる分、ミスや怪我も少ない。イタチほどの手裏剣術の使い手になれば、十二十の手数さえあれば確実に最後の一投をしとめられる場所へ追い込めるはずだった。だが、那由多の体術はそれを上回る。
那由多自身は決して自分の動きを考えているわけではないのだ。ただ直感と条件反射によって、もっとも合理的な無駄のない動きを選択していくのである。その場その場で動きを選択していくというのにも関わらず、先読みの得意なイタチですらしとめ切れないのは、那由多の動きがイタチを凌駕するからである。イタチがいくら先読みが得意であるといっても、己の知る限界以上のことをできるはずもない。那由多の動きはイタチよりもさらに無駄がなく、イタチはその那由多との微妙な動きの差を思考で埋めきれないのである。
放たれた手裏剣は数にして五十。それらは全て那由多に避けられるか、はじかれるかして終わった。わずか刀一本で、絶妙なタイミングのずれとともに飛んでくる全ての手裏剣を避けはじき返すのは並大抵の努力で到達できる域ではないだろう。最後の一投を那由多は刀ではじき返す。キィィンという金属音と共に手裏剣は大きな回転と共に、すぐ近くの地面にぐっさりと刺さった。だがそれで二人の動きが止まるわけではない。イタチと那由多はほぼ同時に前へ踏み込んだ。
刀が交わって一度、次にクナイと刀で二度、そして最後に十の手裏剣が那由多を襲うもそれら全てはやはりたった一本の刀で防がれてしまう。一連の攻防の中でほぼ全ての武器を投げ出したイタチは、最後に迫る那由多の刀を防ぐ術はない。だが、それを知っていながらイタチは那由多の刃が目前に迫るぎりぎりまでその場を動かなかったのである。彼がふっと横にずれた。那由多のイタチに向けられた刃先はさすがに切り返しのしようもなく、彼の前髪をかすっただけに終わったが、那由多(のゾンビ)はそこでようやっとイタチの体に隠れて見えなかったクナイに気づいたのである。イタチも、そしてそれを放ったサソリもタイミングを誤れば自陣の戦力を削るとわかっていながらも迷いはなかった。イタチにもサソリにも同じ暁としてその人格を信頼しておらずとも、その技術に対する信用はある。その場であわせろといわれればあわせられる程度にお互いの手の内を知っており、そしてその正確さもまた実感していた。

「ありゃすげぇな」

那由多とイタチの攻防をほぼ真横から見ていたイゾウはサソリの放った一投も勿論見ている。だがそのタイミングのよさには感服せざるえない。自らも海兵の一撃を避けながら笑ったイゾウは、それから続けて「それも避けるのか」と呟いた。
サソリの一投は那由多からはイタチが死角になっていたはずであり、那由多がその存在に気づいたのはイタチの頭部の厚さ分つまりは30cmもない距離に迫ってからだったのである。さらに那由多自身の前方へ進む速度もあいまって、避ける時間などほぼゼロに等しいはずだった。
クナイは那由多の頬をかすることもなく、彼の後方へすっ飛んでいく。前方からの那由多と後方からのサソリの攻撃を同時に避けたイタチが体勢を崩しているのに対し、那由多はそれでも一瞬のうちに攻撃に転じた。重い蹴りがイタチの胴にぶつかり、海兵を巻き込んでイタチが数メートル押し戻される。イタチは口の中の血を吐き出したものの、すぐに周囲への攻撃に転じた。正確無比な手裏剣が海兵の手と足に突き刺さり、その場に居ながら数十のけが人の山が出来上がる。

「あれではキリがないな」

長門はぽつりと呟くとマルコのそばに移動する。

「あのゾンビを倒すには他に方法はないのか」
「おれだって知らねぇよい。おれァモリアの能力を見るのはこれが初めてだ。エースの弟に聞け」

二人の間を銃弾が通り抜けたが、二人とも顔をしかめることすらしない。長門は幾分顔色の悪い表情でわかったと呟くと一瞬のうちに姿を消した。瞬身の術、と言うらしいがマルコはいまだに慣れない。それはルフィも同じようで、突如隣に現れた長門に「うわぁッ!」とやけに大きなリアクションを返した。あまりそういう反応をされることに慣れていない長門も少し驚いたような表情を浮かべたのでお互い様だろう。
長門の放ったクナイが周囲の海兵を牽制し、戦場にはわずかであるが空白ができた。長門はルフィに近づき即座に現在の状況を説明する。

「モリアのゾンビを倒す方法は?」
「あの影入れられた奴か?・・・ハァッ・・・!モリアぶっとばすんだ!」
「実に単純明快な答えだ」

長門はため息をつく。モリアを倒せばいいのはおおよそ予測がつくものの、今回最大の問題は那由多の影を入れられたゾンビなのだ。そうやすやすとモリアに近づけるものならば最初からそうしている。
長門の飛び道具を警戒した海兵たちは射撃部隊を即時に配置した。人数はそう多くないが精鋭揃いの部隊は、周囲の喧騒などものともせずに正確に銃を構える。ここは戦場だ、長く立ち止まって話し込むわけにもいかない。

「あのゾンビに弱点はないのか?」

ルフィの腕をかわし、代わりにルフィの背後の海兵に拳を叩き込む。今の長門の体は、長門本人のものではなくサソリの傀儡を借り受けそこにチャクラを伝道する杭を差し込んでいる。生前彼がペイン六道として動かしていた死体と同じように、輪廻眼を持ち六道の視界は本体に通ずる。天道として動く今の弥彦は神羅天征を持ち一切の攻撃を受け付けないため海兵が四方より銃を撃ちこもうと基本的に死角は存在しない。弱点としては一度術を発動してから五秒の間を空けなければならないというものがあるものの、ペインの身体能力をもってすれば大きな問題はなかった。

「ッハァッ・・・!!ゾンビの弱点!?あいつら塩に弱ぇぞ!!」
「塩?」
「悪魔の実の能力なんだ!塩で倒せる!」
「理由が全く理解できないが、あいにくと塩の手持ちはない」
「じゃあ海に突き落としてもいける!」

荒い息の合間にさらに叫ぶものだから、いつか喉が裂けるのではないかと思うほどにルフィの声はかすれている。
ゲッコー・モリアのカゲカゲの実の能力によって作られたゾンビは悪魔の実の能力の賜物であると言い換えてもいい。それゆえに能力者本人同様海に弱く、また海のエネルギーを凝縮したといっても過言ではない塩にも反応するのである。だが、とペインの姿のまま長門は周囲を見回す。青キジの広範囲にわたる攻撃のせいで、今マリンフォード前は見事に凍り付いていた。それこそ歩いて海を渡れるほどになっている空間で、ゾンビを海に落とすのはあまり現実的ではない。大体那由多がいくら阿呆でも自分が不利になる空間は直感的に避けていく。これでは八方ふさがりだな、と長門が思ったとき、ルフィは思わぬ方向から解決の糸口を口にしたのである。

「あっそうだ!影取られたら日の光にあたっちゃいけねぇんだ!!」
「日の光?」
「そうだ!消えちまうんだ!」

ルフィが叫ぶ。長門が聞き返すともう一度、叫び返した。
突如そのようなことを言われても、長門には何もわからない。だがすでにルフィとは声が届くほどに近くはなく、これ以上詳細を聞くにはルフィは少々説明がヘタだった。
困ったものだな、と長門は小さく呟いた。

2014.12.03