突然現れた壁とマグマの雨に道をさえぎられる。氷の足場がなくなって海水の中に体を突き落とされたが、那由多は一瞬のうちに水面を突き破って空中へ飛び出した。一度くるりと回転して着地した場所は水面で、近くに居たイゾウが「お前ら本当に便利な奴らだな」と皮肉を言った。
「俺からすりゃ能力者の方が便利だけどなー」
ちょっとでも気を抜くと、チャクラコントロールの下手な那由多はすぐ沈んでしまう。今も、時折足踏みでもしなければ体を支えるの放出が上手くいかずに沈んでいく。そして那由多は他の暁面々のように、長時間水面歩行をすることはできなかった。
(一瞬だけっ、なっ)
地面でも走るように、那由多は水面を駆けてそしてぷかりと浮かんでいた氷の欠片の上に乗った。氷はゆらりゆらりとゆれるものの、那由多が乗ってもかろうじて沈まない。周囲では能力者ではない白ひげのクルーたちがようやっと水面に顔を出し始めたところだった。
「だけどまぁ、海にいるのにおぼれるってのも面倒か」
那由多は自分が立っていた氷の足場を蹴って、もう一度水面に着地・・・いや着水する。そしてそのままもっと大きな氷板に向かって走りながら、途中白ひげの能力者を拾い上げた。
「わ、わりぃ」
「やっぱ俺、能力はいらねーわ」
水を飲んだのか、那由多が顔の知らぬ男は咳き込みながら力なく笑った。白ひげの船はあまりにも大きく、まだ那由多の顔の知らないクルーは山ほどいるのだ。ただ大抵どこか体の見えるところに彫った刺青でそれが海兵なのか白ひげのクルーなのかを認識している。
周囲は壁に囲まれ、逃げ道はオーズが唯一壁を押さえた前方の一箇所、それからマリンフォードの出口に当たる後方の一箇所。だがそのどちらもすでに海兵が道をふさぎ、大砲の咆哮を鳴らし、再度向かってくる海賊たちを待っている。そもそも海軍の本拠地に乗り込むのであるから、白ひげ側が圧倒的に不利なのだ。地の利も海軍に分があるだろう。それは何も地面があるというだけでなく、海軍は青キジの能力でいくらでも海を氷を海に換えられるのだ。そんな大自然の変化にそうやすやすと人間がついていけるはずもなかった。
「イゾウー、おめーもさっさと上がれよ、体冷えるぞ」
「随分気楽だな、那由多。余裕があるなら手ェ貸してくれや」
イゾウが震える手を差し出す。マリンフォードが位置する海域そのものは冬島のように極寒の海ではないものの、青キジの氷によって冷やされた水の中はひどく冷たい。ただの人間が長時間浸かっていればそのまま凍死してしまうだろう。若干震えるイゾウの手を那由多が掴み力任せに氷の上に引き上げるとイゾウもむせこみ、一度体を震わせた。
「くっそ寒ィ!凍死させる気か!」
「そうなんじゃねーの」
那由多は適当に笑いながら返す。ついでに飛んできた砲弾を横に流した。
すぐ脇で耳を劈くような爆発音と、氷が砕ける音が響いた。ドンッ、バキバキバキ・・・・周囲とのつながりをなくした、那由多たちの乗る氷はマリンフォードの湾内で、ゆっくりと回り始める。青キジの氷と赤犬のマグマによってできた水温差のせいで、通常とは異なる奇妙な海流ができていた。見渡せばそこここで、白ひげのクルーの悲鳴が聞こえる。能力者を除いて皆泳ぎの達者な者たちばかりだから、おぼれることはないにせよ、水中では陸地に比べて上手く動けないことは確かだ。白ひげのクルーのうちの何名かは魚人であったから、彼らはまさに地の利を得たとばかりに水中を動き水の中のクルーを氷の上に押し上げていく。ジンベエもまたその一人だ。
この調子なら特に手助けすることもなく、白ひげのクルーたちは氷の上なり船の上なりに押し上げられるだろうと思って那由多とイゾウは壁を見上げた。
「・・・お前ら壁上れるんだろ」
「ああ、上れるな」
「いけるか?」
「この程度なら」
それにデイダラがもう超えてる、と那由多は空を指差した。
上空にはちらほらと雲が見えるがよくよく見るとそこに小さな白い点が見える。すい、すいと雲の中を移動するように見えるそれはデイダラの飛行型起爆粘土である。デイダラは本戦争において基本上空からの奇襲役であり、下に降りてくることはないのだが、今回はまた違う問題になってくるかもしれない。このように明確に海軍と白ひげのクルーと分離された今はデイダラの爆弾を投げ込む方が効率がいい。デイダラは上空より逐一下の様子を確認しているはずだから、この現状にもいち早く気づきそして全体の状況を把握しているはずだ。できれば一度降りてきて壁の向こう側がどうなっているのか知りたい、と思ったがひどく非効率な話だ。いくかぁ、と那由多は息を吐く。
相手が状況を把握しないうちに突っ込んでいくのはいい。相手が全く予期しない状況で奇襲をかけるのも悪くない。だが完全に相手が待ち構えている中に突っ込んでいく、というのは面倒だ。那由多は過去何度かあったそんな経験を思い出しながら、今回はどうなるだろうと思った。イタチもサソリも近くにはいない。リーダーはそこら中を飛び回っているはずだが、基本はあまり前線にでないはずだ。小南は引く際の要因だったから、彼女も前線にはいない。そして飛段は何か聞いても人間離れした答えしか返ってこないだろうから、何か聞く気もおきなかった。忍びの中でもさらに特殊な飛段の経験談は色々と役に立たない。
「那由多、ぎりぎりまで援護してやるよ、行け」
「援護って・・・・イゾウ銃濡れてんじゃん」
「ああ!?おれぁ海賊だぞ、海に落ちた場合でも戦えるようにはしてんだよ」
どういう構造なのか知らないが、イゾウは明らかにぬれた銃身を袖でひと拭きしてから、構え引き金を引く。ガァン、幾分鈍い音がしたものの、確かに銃は鳴り銃弾が飛んだ。それは空中で小さめの砲弾のちょうどど真ん中に当たって爆発を引き起こす。
「おおっ」
「そらいけよ、超えられる奴から壁越えて行け!」
「んじゃ、両脇と後ろな」
那由多は完結にイゾウに伝えるとそのまま走り出した。腰にさした刀の柄に手をかけいつでも引き抜けるようにしながら、平坦な氷の上を駆け抜ける。氷がなくなればそのまま水面に足を下ろし、再び氷を足場にし、イゾウの援護を受けながら何の戦略も持たずにただ高く聳える壁に突っ込んでいった。
2014.12.03