VS.鷹の目

「リーダーァーおれどうすりゃいいのコレ何これどういう状況?ってかあれなんだよマジで人か」

「全く・・・貴様どこで何をやっていた」

「インペルダウンで捕まってましたぁ」

「馬鹿か貴様。さっさと抜け出して来い」

「しっかたねーじゃん。エースと一緒に捕まってたんだよ。おれ一人だったらよかったけど二人同時に抜けるのはきついぜ」


突然落ちてきた海軍の船に乗っていた那由多はあれだけの高さから落下したのにも関わらず悠々と歩いて白ひげの隣にいた長門・・・いやサソリの傀儡を元に作った天道のところまでやってきた。完全に凍りついた海。その真ん中で凍り付いていたモビーディックは恐らくもう海に出ることはできないだろう。那由多はしばし戦場を眺めて大方のことは理解した。とりあえず理解し難いのはあの人外の大きさの連中のみである。


「七武海だ。とりあえず貴様はつっこめ。おれとサソリが配置につくまで死傷者を出来るだけ少なく抑えろ。七武海は任せたぞ」

「七人まとめて?」

「いや、貴様は鷹の目と呼ばれるあの剣士とモリアだけでいい」

「残りは」

「あの女帝は厄介な能力者だ。小南の紙分身を当てる。フラミンゴは畜生道にやらせよう。まだ能力が不明だ、貴様は近づくな。残りは状況に応じて、・・・・ジンベエはこちらの仲間と言うことで問題ないな?」

「ないんじゃね、いざとなったらおれが止める。でも海に逃げ込まれると厄介だから鬼鮫呼んでよ」

「できたらな・・・・連絡が取れん」

「・・・那由多、疑いたくはないがこれだけの数だ。密通者に気をつけろ」

「んなこと知ってる・・・」


海賊達はきっと仲間を疑うことを知らない。那由多はペインとのそんな会話の中で、仲間に背後から切りつけられるあの感覚をマルコやエースは果たして知っているのだろうかと思った。長らくこうして海賊の中に身を置いた那由多たちにとってこの規模の戦争は久しぶりのものだったが、戦場にたったときのこのひどく落ち着いた心は相変わらずのようだった。問題ない、と自分に言い聞かせて那由多は白ひげ海賊団対海軍の戦争の最前線に立つと仲間と呼ぶべき彼らの全員に背を向ける。視線は前を、海軍を睨みつけるも背後への気配りを決して忘れない。仲間を信頼し背を預けるなんて下らないことは生まれたときから一度足りとてやったことがない。故にできるはずもない。


「おいルフィ!どいてろ!!」

「!?」


一瞬ルフィの麦わら帽子が風に煽られて彼の前髪が揺れた。「わっ」と思わず蹈鞴を踏んだルフィが目を開けると、いつの間にか目の前に居た海兵が全員氷上に伏し、誰一人としてピクリとも動かない。


「ははっ、死んじゃいないぜ。お前そういうの好きそうじゃねーもんな」

「・・・・那由多・・・?、今、これ・・・」

「おれ以外、誰かいると思うか。しっかしまー・・・・忍ってのは隠密活動がモットーじゃねーのかね」


ぽかんと口を開けたままのルフィに背を向けて那由多はぶつくさと文句を言っている。いくら戦争だとはいえ随分と忍らしくない戦い方だ、せめてここは背後から本部に忍び込むなりなんなりやりようはいくらでもあっただろうにと思わざる得ない。が、現在暁が所属するのは白ひげ海賊団で、海賊達は忍ほど姑息な手を好んで使おうとはしなかった。特に今回のような戦争ではまさに力と力のぶつかり合い。海賊達がそれを望むなら白ひげ海賊団に所属する暁も自然とその戦略に従わざる得ないのだ。
無茶は元より承知、任務なら仕方ねーなー、の一言と同時に那由多は一気に踏み出した。まず目指すは七武海。だがその前に立ちはだかる海兵は後々の邪魔になるため片付けた方が楽だ。


「ぐあアッ!!」

「ギャッ、!」

「うわあああ!」


那由多は踏み込んだその先で目に付いた海兵の足を三本の刀で同時に貫いた。本来跡形もなく消す方が楽なことも多いのだが、そもそも今回の任務は趣旨が違う。できるだけ多くの人間を動けなくし、戦意喪失させた方が勝ち。何も殺して死体を増やすよりかは怪我人を増やしてその手当てに当てる人間を作った方が遥かに効果的だ。といってもこれは捨て身戦法の相手(特に飛段などなど)には効かないのだが、少なくとも殺されるのではなく痛みを与えられるという恐怖は確かに人の動きを鈍らせる。
那由多の一撃は効果覿面だった。三人がその場に崩れ落ちればその背後にいた海兵たちは知らず知らずのうちに身を固めた。これでもう柔軟な動きと正確な対処は望めないだろう。海軍とはいえ実戦経験がまるでゼロだな・・・と那由多は思いながら軽くなった手をひらひらを振った。


「来いよ。どうせ固まってたって同じになるだけだぜ」


那由多の挑発に乗ったのか、海兵たちはほぼ全員が一斉に動き出した。自らを鼓舞するためとはいえ自分の居場所を教えるように騒々しい声を立てて突っかかってきたのでは何の意味もなかろうに・・・と思うのは恐らく那由多が忍であるからなのだろう。軽い動作で次から次へと振り下ろされる刀や向けられた銃を避けていけば、乱戦の中倒れていくのは海兵たちだ。そもそも海兵の数に対し最前線に出てる白ひげ側の人間はまだ圧倒的に少ない。円になって囲めば当然相打ちの可能性のほうが遥かに高くなり、正直なところ那由多は何もせずにただ避ければそれだけで海兵たちは勝手に倒れていく。真正面から馬鹿正直に向かってきた海兵の足を軽く突っかけると那由多の後ろで叫び声が上がる。飛んできた銃弾を軽く頭を下げるだけで避ければ視界の端で血の赤がはじけた。
くい、と腕を動かせば両袖から鎖の一端が飛び出す。腕を交差させるようにその鎖を握り、ひねれば鎖はまるで蛇のように宙を舞って複数の方向から迫る全ての弾丸を弾き返した。チュイン、と激しく金属がぶつかり合い火花を散らす。先についた分銅を軽く回転させ那由多は一気に手を離した。風を切って飛んでいく分銅は大きく円を描くように飛び、おかげでその円の中にいた海兵たちは鎖に引きずられてまとめて足を掬われた。


「先に行け」

「りょうかーい。ルフィ!着いて来いよ!!」


ぽかんとアホ面をぶら下げていたルフィは那由多の言葉にはっとして慌てて彼の背を追った。背を向ける直前にちらりとイタチのほうを見れば彼はなにやら目を瞑って不思議な印を組んでおり、ルフィにはそれが何かはわからない。だが那由多に「もう後ろは絶対振り向くなよ。お前、おれと同じで幻術苦手そうだから」と声をかけられ疑問符を頭に浮かべつつも力強く頷いた。こういうところで疑問を挟まず迷いもしないのはルフィの良い所でもあってだまされやすいところでもあるといったところだろう。インペルダウンで初めてであった那由多をすでに信じきっている、という事実はなんとなく那由多をむずがゆいような気分にさせたのだった。
押し合いへしあいで崩れ落ちた海兵たちは数多く密集していたためどうにもこうにも身動きが取れず、あっちにこっちにとわらわら動いているうちに那由多とルフィは先陣を切って一気に海兵たちの間をすり抜けた。氷上の一群を抜けてしまえばその先はすでにオリス広場が広がっている。信じられないほどのスピードの進軍にセンゴクはしばし苦い気持ちを噛み締めていたが、そうそう悩んでいられないのが戦場だ。那由多を第一陣とし、続く白ひげ海賊団零番隊、さらには本隊が次から次へと進軍を始め戦場は一気に動き始めた。


「おいルフィ!」

「なんだ!」

「おれが今から七武海こじ開けてやるからお前そのまま突っ切れ。三大将は・・・おれらが行くまで頑張れ」

「お前一人で七人相手にする気か!?あいつらすっげェ強ェんだぞ!!」

「そうか、おれには五人しか見えないなー。大丈夫だっておれも強いし」


ジンベエと黒ひげの欠けた七武海をにやつきながら眺めた那由多は、ルフィの足を刀の鞘で引っ掛け彼がバランスを崩した隙にぽんと飛び出した。海兵たちの肩を借りながら彼は誰にも傷つけられることなく器用に氷上を渡っていく。そして、


「よう!鷹の目!!お前の相手おれだって!」


那由多は抜き身の刀を鷹の目の黒刀にぶち当てた。


「む、」

「おおう、やっぱ剣士だよなー・・・まっさかこの一撃でやれるとはおれも思ってなかったけどさ」


こっちの刃が欠けるのは想定外、と那由多は口の中で呟く。黒刀の何相応しく刀身まで真っ黒なその刀は並大抵の刀では触れ合っただけで刃が崩れ落ちる。ゾロが鷹の目と刃を交えてなお刀が無事であったのは、一重に彼の力量によるところが大きいだろう。剣士としての誇りを持たず、正規の剣術も学んだことのない那由多では鷹の目と正面からやりあうには刀が何本合ったところで足りないのは確かだった。
武器は武器。ゾロのように刀にこだわりのない那由多は刃の欠けたそれをあっさりと捨てた。ついでにただの荷物となった空の鞘も放り投げて懐に手を入れたまましばし鷹の目とにらみ合う。ひどくざわついていた空気が一瞬で消えた。二人を取り囲んでいた海兵たちはひどく重い殺気に当てられて全員が口を噤み、誰もが気配までも消し去ろうと必死になっている。そんな沈黙が果たして一体どれほどの間続いたのだろうか。ふと気がつくとすでに那由多と鷹の目は二度目の討ち合いを始めていた。


「そいつァ立派な刀だなぁおい!!!どこで見つけた!?」

「・・・口の多い男だ。貴様、剣士ではないな」

「そりゃそーだ。てめーらと違ってあいにく誇りもなんも持ち合わせちゃいない忍だぜ。だからおれはてめーと真正面から討ち合うような馬鹿はしねーよ」


常の笑顔で真意を隠すのもまた戦略の一つになる。にやにやと笑ったままの那由多は今だ鷹の目の前に居たが、唐突に一歩退いた瞬間身体を小さく縮めて大きく振り抜いた鷹の目の懐に踏み込む。
(速い)
鷹の目ですら一瞬でも気を抜けば置いていかれるほど那由多の動きは速かった。そしてそれは直線的なスピードだけでなく柔軟で先が見えない動きを含んでいて、那由多は鷹の目の予測を悉く裏切って死角から幾度もの攻撃を仕掛けてきた。
捕まえた、と思いきやそこにあるのは手裏剣一枚。キィィンという音にまぎれて鷹の目は一瞬、那由多の鎌が風を切る音を聞き逃した。まずいと思ったときにはすでに遅く辛うじて避けるも頬には一本の赤い筋が走る。


「惜しかったな、その刀重たいだろ。腕一本おれが貰ってやろうか?」

「あいにく、これほど軽い刀は持っていない」

「おっ、なーんだいっちょまえに冗談は言えるんだな。しっかしまー剣士も大変だなー刀一本に拘るってそれ不利だろ」


これらの会話は決して戦闘の合間に交わされたものではない。いや、それは確かに戦闘の合間だが、その一言一言は二人が動きを止めない一瞬一瞬の間に放たれたものだ。傍から聞けばただ金属がぶつかり合う音しかしないが、戦闘中の本人達にはいやと言うほどお互いの声が鮮明に聞こえていた。


「貴様こそ手馴れた武器を片端から壊されてはさぞやりにくかろう」

「チッ・・・これ旦那から貰った奴なんだけどさー。ホントお前のせいでぐっちゃぐちゃだぜ」


そういって那由多は宙ぶらりんの鎖をぶら下げた鎌を顔の横で振った。かつては鋭い刃を持っていたはずのそれもいつの間にか凹凸の激しいなまくらになっており、切れ味の悪い刃物は逆に危険なので那由多は再び足元に捨てる。


「貴様とて真剣に剣を学べば久しく見ぬ強者にもなれたものを」

「んなめんどくさい生き方ごめんだな」


放たれた千本はあっさり真っ二つにされたが別段気にするほどのことでもない。那由多はそもそも全方位からの飛び道具を接近戦の次に得意としているため、このときもまたすでに鷹の目の背後には複数の手裏剣が弧を描いて迫ってきている。だが鷹の目とて繰り返されるその戦闘の中ですでに那由多の戦略を見抜いていたから、振り返るまでもなく手裏剣の全てを弾き落とした。


「そろそろ決着つかなくなってきたな」


体力に自信がないわけではないのだが、ほぼお互いの手の内が見えきったこの状況の中ではそう容易く決着は着かない。たとえ決着がついたとしてもお互い、その後の戦闘に加わるにはもう十分すぎるダメージを受けているだろう。
ほぼ同時にそのことを察したか、鷹の目は思っていた以上にあっさりと那由多から手を引いた。そこは海軍に属さぬあくまで海賊らしい行動だ。自らに利益がないとなれば相手が敵に値しようともなんの執着も見せない。ここで互いに足をひっぱりあうよりはもっと効率の良い相手と戦う方がマシだということなのだろう。
那由多と鷹の目はすぐに互いに背を向けた。











2011/04/22