その日は分厚い雲が垂れ込めて、モビー・ディック号の船首の上であぐらをかいてうんうん唸っていたデイダラは自分の周りにぐるりと粘土の奇妙な置物を並べて、そいつらをひっくり返してはこね回し、また並び順を変えては、くっつけて、とせわしなく手を動かし続けていたのだった。
そもそも奇妙な暁連中の中でも、時々暴走するデイダラの奇行に誰も特につっこむこともなく、通り過ぎる中、サッチだけは「よお何してんだ?」と話しかけたらしい。その結果は言わずもがな、長ったらしいデイダラの「一瞬の芸術」に関する講義をみっちり二時間受けてつい先ほど帰ってきたばかりだった。
「うおおおおう・・・・」
疲れた表情を隠しもせずに、食堂の椅子に崩れ落ちるように座り込んで唸り声を上げる。机に突っ伏したまま、しばらくの間サッチはポップがなんとかやらスーパークールやら呟いていたが、やがてぐるりと隣に座った那由多に顔を向けたのであった。
「おい」
「なんだよ」
機械的なその動きに虚をつかれた那由多は若干しどろもどろになりながらサッチの言葉に答えた。
「あいつ、なんなんだよ・・・!大体芸術は爆発ってなんだぁぁぁ!!!なにかスーパークールだポップアートだ!!!おれにはわからん!!」
「あー・・・・いいんじゃねーの?別に理解する必要もねぇだろ」
「冷てぇな!!お前らが理解してやんないからデイダラがあんなんなるんだろ!?」
「どっちの見方だよ!?」
うるせっおれは疲れたんだっと唇を突き出して言うサッチはまるで子供ようだった。その姿に呆れたように、那由多は皿の上の残りのものをかきこむ。
理解するだのしないだの以前にデイダラの芸術は単なる殺戮兵器でしかない。兵器としてあの爆発を認められようとも、決して芸術として認められるはずがないのだ。サッチは多分それも全部わかった上で言っているのだ。デイダラは岩隠れの里に居たころから、作り出す全てのものを殺戮兵器としか呼ばれなかった。彼は忍であったから、忍としての技術を求められただけのことだ。芸術作品など食えもしない、里を守れもしない。生きるか死ぬかの世界において、デイダラの芸術は存在価値などどこにもなかった。
彼の今の性格、つまるところ自分の芸術にケチつけるものに対し激しく反発する激情型の性格が構築されたのはそのせいかもしれなかった。勿論、全ては那由多の憶測でしかなかったし、その憶測は偏見に基づいていたから正しさなどどこにもない。だが、所詮忍などそんなものだろうと思った。
デイダラはサソリと仲が悪いように見えたが、実のところそこまで悪くも無い。顔を合わせるたびに芸術は一瞬の美だ永遠の美だと言い合っているが、それでも「芸術」感という一点において二人は同じ立場にいた。自らの殺戮兵器を芸術として扱う、その精神は二人とも共通のものだったから結局のところお互いの根っこの存在まで拒否するわけではないのだ。そういう意味でデイダラと相性が悪いのはイタチだった。彼はどこか達観しているところがあったから、殺戮兵器を芸術などと決して呼ばなかった。彼の過去が起因しているのかもしれないし、元から忍の世界においてもっとも忍らしい存在なのかもしれない。どちらにせよデイダラはそうして根本からデイダラの存在を否定するイタチが嫌いだった。サソリは、イタチより歳を食っている分、そうしたイタチの存在を鼻で笑って受け止めた。サソリにとってはデイダラもイタチも言っていることは大して変わらないらしい。
とにもかくにも、デイダラは自分の芸術を認めてもらいたがっていたから、自分の芸術に興味を示すものに対しうっとおしいまでに懐く。懐くというのは聞こえがいい表現だ。実際のところまとわり付いて、最後には多分爆破する。それが多分彼なりの愛情表現で、それ以外の表現をデイダラは知らないのだ。
那由多は正直な話そこまで深く誰と付き合う気もなかったから、そこまで懐かれるギリギリのラインでいつも付き合っている。結局のところ忍連中など適当に付き合うぐらいがちょうどよいのかもしれない。
「ま、てきとーが一番なんだよ。あんまり関わりすぎると後々面倒だぜ」
「・・・馬鹿だなお前、関わりすぎて、それで面倒ごとまで一緒にしょいこんでやるのが家族だろうが」
サッチの言葉に那由多は肩をすくませる。それは、わからないのだ。理解できない。もしかしたら理解しようとしていないのかもしれなかった。
空を割らんとする勢いの爆発が、上空の雲を蹴散らした。低く垂れ込めていた雲はデイダラのC3爆弾によって吹き飛ばされ、その隙間からかすかに青空を覗かせる。
名も知らぬ海賊団の襲撃はデイダラ曰く芸術作品、によってあっけなく退けられた。
大きな竜を模した起爆粘土はぐるぐるとモビーディック号の上を旋回している。最初はいつ落ちてきやしないかと心配したが、風を受け、安定した飛行を見せるそれは見方についている間はさほど恐ろしいものではない。デイダラは遠距離攻撃型だと聞いていたが、ここまで活用範囲の広い遠距離攻撃型だとは知らなかったので、マルコはデイダラよりさらにその上空で驚いたように目を丸くした。
「どうだい!オイラの芸術は!?うん!!」
誇らしげに両手を挙げる彼は、自分の芸術に圧倒的な自信を持っていた。デイダラの起爆粘土の上に着地すると存外、そこは安定している。
「驚いたな、こりゃ落ちないのか」
「まぁな、うん。構造は秘密だが結構軽いからな、そんなに羽ばたかなくても勝手に風の乗れるんだ!」
ぼこん、という音と共に竜の尾に連なっている丸っこい塊が一つ無くなった。それからすぐに竜の口が膨らんで、そこから非常に機動性が高く素早い鳥型の爆弾が飛び出す。
「今度のは速いぜ!?うん!!」
鳥型は一瞬でモビーディックと敵船の距離を詰めると、船倉に潜り込み爆発を引き起こした。向こうの船では今大騒ぎになっているだろう。原因不明の爆発が船の幾箇所で引き起こされているのだ。マルコは心底、今こいつが味方でよかったと思った。
「お前の起爆粘土って奴は、結局なんなんだい?」
「うん?さぁな。オイラも詳しいことは知らねぇし、たとえ知ってても教えるつもりはねぇよ、うん。オイラのこれは芸術だ!オイラはこれを世界中に知らしめてやるんだ!!うん!!」
その思想はまるでいっぱしの海賊のようで、マルコはふとこいつは一番海賊に近いのかもしれないと、思った。
2014/02/07