四番手/飛段-人攫いの話-

※グロ要素有り※

















































「なぁ、ジャシン教に入らねぇ?」

「ああ、あれうまいよな」

「おい」


どこか遠いところを見つめながらそんな風に、明らかに適当に返事をした那由多に対してサッチは光の速さで突っ込みを入れたが、那由多はしらっと受け流して飛段の足を引っ掛けた。


「おいいいいい!!」


がごん、という音と共に生ゴミの中に不本意にも踏み込んだ飛段がぎゃあぎゃあと騒いでいたが、サッチは平手の一撃と共にもう一度那由多に突っ込んで・・・・・飛段にフォローはない。


「お前らってさっ、ホント仲良いのか悪いのかさっぱりわからねぇよ」

「いや仲良くはねーだろどう考えても」


上を見上げればずっと遠くに鉛色の空が見えた。切り立った崖に必死でへばりつくように建てられた建物は概観は子供の作った積み木のお城のよう。重ねられるところに四角を重ねて、重ねて、鉄の枠組みで固定して、そうやって住居がどんどんと増えていったせいで、この街はまるで迷路のように入り組んでいた。細い路地に突然窓が突き出していてつい先ほどそこの住民と頭をごっつんこしたばかりのサッチは、今度は気をつけよう、と思っていたら今度は真上から空っぽの鉢植えに直撃される。那由多は上から鉢植えが降ってくることもわかっていただろうに、あえて黙っているから性質が悪いのだ。
どうせ電気も通っていないというのにかつての名残でぶらりとぶら下がった電線をサッチは軽く手でつまんで向こうの方へ放り投げた。この町は少し昔は風景画で有名だったというのに、大海賊時代に入ってから自衛手段を持たぬ町の慣れの果てなどこのようなものだ。とはいえ島の裏側のもう少しましな居住区域はここよか幾許か生活空間としてはマシである。だけれども金持ちと欲望の固まりになってしまったそこで金を持たぬ奴は用無し。結局この辺鄙で住みにくい場所に集まってくるのは貧乏人ばかりで、いまやスラムと言っても過言ではない。
そんな迷路のようなところを何故那由多とサッチと飛段が探検しているのか、と言えば気がついたら居なくなっていたデイダラを探すためである。こんな島でもログが溜まるまで半日ほどかかり、その間芸術的なこの島を見て回りたいというデイダラきっての願いに付き合うことになった三人だったが、気付けばその当の本人はいなくなっていた。芸術は爆発だ!を信念とする彼のことだから、きっと爆発させるに違いないと踏んでこうしてお守りとして着いてきたというのに、どこへ行ってしまったのやら。


「お守り・・・っつーかおれは本当は旦那についてきたんだけどな」

「そういやお前、サソリは何処言ったんだよ」

「あー・・・・旦那って買い物は一人でいつもするからなー。後ろでちょろちょろされると迷惑なんだと」


那由多は顔の横に流した髪をぐりぐりと指に巻きつけながら言う。
そう、今回デイダラと一緒に島に入ったのはサッチなのだ。那由多は本当は珍しく船の外へ出たサソリのあとをついてきたはずなのに、邪魔だの一言で一人町中に放り出され儀式をしていた飛段を見つけ、デイダラとはぐれたサッチに拾われ今に至る。奇妙な三人の一向はその異様な風体から遠巻きに見ているものの方が多かったが、だがその中の視線のうちいくつかはやけにねっとりと気持ち悪いほどに三人の体に絡み付いてきた。


「・・・・おい那由多、飛段」

「ああ?」


サッチは相変わらずのにやけた顔で前を向いたまま、声だけはやけに慎重に二人に話しかけた。


「わかってると思うが、こういうところは」

「わかってると思うなら言うなってーの。おれらの職業なんだと思ってんだよ」

「わかってねぇな。ジャシン様の教えは絶対だぜ」

「飛段、お前な・・・・・」


見当ハズレな回答に那由多がくるりと振り向くと、そこには半殺しのネズミを加えた猫に説教をしている飛段の姿があった。いつも通りはだけた胸に二度弾いたクナイをまっすぐに叩き込んでやると「気持ちイイ」などと抜かしてその場にぶっ倒れるから、那由多はそんな飛段の足を引っつかんでずるずると引きずっていく。


「・・・・・やっぱ・・・仲・・・・良いのか・・・?」

「だからちげーってば。それよりそろそろ・・・・」


那由多がそういいかけたとき、どん、と不意に彼の体にぶつかってくる何かがあって二人の視線が那由多に集まる。


「・・・・・?・・・・おい」


ぼろぼろの布地から白い手足が覗いていた。


「・・・・ッ!!助けて!!お願いお願い助けて!!体ならいくらでも売るから!!」


サッチは「いやん那由多モテモテ★」と言おうとした言葉を即座に飲み込んで、那由多にしがみついて彼の服にすがりついたその少女の頭に手を伸ばす。


「おい嬢ちゃん、一体何が・・・・」


全く状況を理解していない那由多だったが、特に驚く様子もなく黙ってサッチがどうするのかを見守っていた。サッチがその少女の頭に触れた瞬間、彼女が振り向き同時にジャラリという鎖の音が聞こえて彼は即座に状況を理解したのだった。


「ッ!!」


少女の首元を覆うほどにぼさぼさと伸びていた髪をかき分けると明らかに栄養失調気味の細い首には不釣合いの太い鉄の首輪がついている。


「おいサッチ」

「嬢ちゃん、下手に動いちゃだめだ。どっから来た?」

「お願い助けて!!」


少女(といっても恐らく成長不良なため幼く見えるだけで実際は16ぐらいなのだろう)は半狂乱になって叫び、サッチの言うことなど欠片も聞いちゃいない。後ろでようやく飛段が胸に深々と刺さったクナイを抜いて立ち上がったのだが、タイミング悪くそれを見た少女は甲高い悲鳴をあげた。


「おいうるせぇよ」

「お前のせいだろ」


耳につくその悲鳴に若干顔をしかめて那由多が言う。ちょっと茶化して言って笑いのひとつでもとるつもりだったのだが、真剣な表情を崩さないサッチと恐怖を瞳に滲ませた少女に対してどういう反応をしていいか那由多にはさっぱり分からなかった。
ぎゃあ、という悲鳴がひとつふたつ向こうの建物の方から聞こえた。血の匂いが滲んで那由多と飛段の表情が変わる。また同時に少女はさらなる恐怖に体を震わせて、ぎゅっと那由多の体にしがみつく。


「離れろ」

那由多


ちり、と那由多が手にした刀の鞘と刃がかすかにぶつかって小さな音を立てる。だが少女は動かない。


「はな「那由多待て!!」・・・・・」


今度は明らかに殺気を滲ませた那由多にサッチが怒鳴り声を上げる。荒い息をする少女の頭を優しくなでながらも、厳しい表情のまま那由多を牽制する。


「・・・・・狭い。この場じゃ刀が振るえねーんだよ。先に仕掛ける」


完全に開いた瞳孔が那由多よりもさらに身長の高いサッチの目を真っ向から見据えた。口元が笑っているから、余計に不気味なのだ。
サッチはひとつため息をつき改めて神妙な顔つきをすると那由多を威圧するように上からねめつける。


「そうじゃない。お前らはそれでいいのかもしれねぇが、それで助かるのはおれらだk」

「飛段の奴もう行ったぞ」

「止めろ馬鹿野郎オォォォ!!!!」


くわっと目を向いて那由多に怒鳴れば、那由多も緊張に欠けるこの場面に那由多も戦うのが馬鹿馬鹿しくなったのか、刀を抜き去ったもののそれは振るわれることなくまっすぐ飛段のふくらはぎに突き刺さった。バランスを崩した飛段は大きく振った鎌に振り回されるように積み上げられた木箱の山に激突してゲボォ、だがウゲェだかおよそ上品とはいえない悲鳴をあげる。そんなことをしている間に、恐らくはこの少女を追ってきただろう男たちが四人(ただし一人は崩れた木箱の下)の目の前に現れ、四人は男たちの言うがままにどことも知れぬ場所へ連れて行かれたのだった。









那由多はどうした、サソリ」

「おれは知らん」


ぶっきらぼうに言い捨てたサソリに対してデイダラとエースからも声がかかる。


「旦那ぁ、サッチの奴知らないか?うん。おいらに着いてくるって行ったくせにあいつはぐれたんだ」

「それと飛段もだ。ったく・・・・出航だってのに何やってんだ」


サソリはそんな二人を横目で見て、ふいに何かを思い出したようだった。ほんの少しの間を置いて、ゆっくりと顔を上げてニヤリと笑う。


「そういや、この島は人攫いが闊歩するようなところだってな。おれが行った店にはいくつか生身のパーツもあったようだな」


己が生身の人間から傀儡を作ることを生業としているせいか、淡々とそんなことを言ったサソリだったが言っている内容はこの場の空気を凍りつかせるのに十分なものだった。


「・・・・那由多と、飛段と、・・・・」

「サッチを」

「攫ったわけか?」


デイダラとイタチとエースが顔を見合わせる。「気の毒な奴らだ」とぽつりと呟いたのは団子を片手にしたイタチだった。























「つまり状況説明、はいスタート」

「あー・・・・・言わせて貰いますとこの少女は人攫いにあって奴隷の身分であってだな。現状首輪をつけられたおれらも同じ身分になったわけで」

「どう考えてもてめェのせいじゃねぇかおい!!おれにやらせときゃ全員ジャシン様に捧げ奉ってやったってのによォ!!」


ヒック、ヒックと小さな泣き声が暗い牢の中に木霊している。上階は恐らく居住地なのだろうか、時折ドスン、バタンというドアを開け閉めする音が聞こえた。
ここは地上と似ていながらももっと暗く薄暗い空間が広がった、地下である。まるで蟻の巣の中のようにぐねぐねとあちらこちらに曲がりながら作られたもう一つの居住地はオモテよりもさらに問題のある連中が塒にしているところのようだ。


「だからこの首輪見てみろよ!!これ爆発するの!!お前らが下手に手出したらこの子が死ぬんだぞ!!?」


そういった瞬間少女の身体が大きく震える。まだ生きることに絶望して死を望んでいないあたり助ける希望は多いにある。だが、これは奴隷として売ろうとしているような人間を閉じ込めておくにはあまりに乱雑すぎる牢で、こんなものに閉じ込めたきりでは牢から出した際にとても奴隷として売れるものではないだろう。ということは、つまり。


「奴隷の身分っつーよりは、こりゃ臓器売買の方だろ」

「やっぱ那由多もそう思う?この島そういう噂が耐えねぇところだからなぁ」


サッチもそんなことを言いながら焦った風がないのは逃げ出す自信があるからなのだろうが、少女の方は那由多の言葉にいっそう激しく泣き始めた。それならまだ奴隷で生きている方がましだと、叫ぶ。臓器売買となれば、鮮度を保つために生命維持に関係ないところから生きたまま器官を抉り取られていく。麻酔があるならまだましだが、こんな世界にそんな良心的なものを期待する方が間違っている。


「いや・・・・お前詳しすぎるし、ってかこんなところでそういうことを言うな」

「おれ経験あるし」


ま、実際に取られる前に旦那に助けられたんだけどな、とあっけらかんという那由多にもやはりサッチと同じように恐怖は見られない。それも当然だろうか、何せここの男たちは常に生死の狭間で生きているような忍相手にあまりに粗雑過ぎる拘束具で彼らを閉じ込めているのだから。逃げようと思えば逃げられる、が精々厄介なのはこの首輪程度というわけである。那由多の一言に最早何を言っていいのかわからなくなったサッチは「ご愁傷様」と少々的外れな返答をしてぽんぽんと少女の頭を撫でる。


「ま、兄ちゃん達に任せとけ。それよりそろそろ脱出考えるぞ那由多、飛段」

「買い手が来たら殺す、逃げる、終りでよくね」

「おい那由多いつもので行こうぜ」

「いや、おれお前のいつも知らねーし。角都に言えよ」


ところでよ、とふいに那由多がサッチの方を向いた。


「この首輪の爆弾の解除方法は?」

「解除するより鍵見つけた方が早い、し確実だ」

「んじゃ・・・・もう飛段お前行けよ。一人で突っ込んで爆発して死ねば完璧だろ」


投げやりどころの話ではない。仲間を仲間とも思っていないような発言だが、飛段が怒ったのは首が取れるだろうが、というところだったからつくづく呆れる。だがそんな騒ぎをかぎつけてか、それとも単に買い手が見つかったからか、牢の目の前の通路の突き当たりから人の気配がして、那由多と飛段は鉄格子越しに通路を覗き込んだ。


「いい素材が手に入ったな」

「でしょう?あの黒髪は骨格が非常に美しいんで、引っこ抜いて綺麗に塗装すればそりゃ素晴らしい成人男性の骨格標本になりますぜ」


随分昔にサソリに言われたそのままのことを言われるからなんだか気分が悪い。標本なんぞより傀儡の方がよっぽどマシだ。今となっては多少現状のままサソリの隣に居たい願望もあるが、所詮己は彼の傀儡人形であることを認識している。いずれ傀儡になるのは分かっているしソレに対してなんの感想もないが、はっきり言って骨格標本にされるのは虫唾が走る。
買い手はがいくらかの額を提示すれば、にやにやと笑って男はその額を承諾した。それと同時に背後に控えていた屈強な男たちが牢の鍵を開け、那由多の腕を掴もうとする。


「さっさと爆発しろ」


那由多の変わりに男共と一緒に牢から蹴りだされた飛段は、見た目以上に軽い体で男の腕を捻るとあっけなく脱臼させてしまう。いつもは馬鹿やっているように見えても忍は忍だ、彼とてそれ相応の訓練を受けておりそこいらの海賊相手に引けをとるはずがなかった。
そこかしこに落ちているガラスの破片を握り締めれば掌に幾筋もの傷が出来たが痛みなど感じていないかのように腕を振るうと買い手の頬に傷がつく。それを見て笑うのは飛段と、それから那由多だ。売り手は何かしら叫んでいるがそんなこと知ったことではない。通路の両側から明らかに堅気ではない汚い身なりの男たちがぞろぞろと沸いてきたが、そんなことお構い無しに飛段は己の腹を抉った血で通路のど真ん中に大きな円を描く。


「ッアッ!!」


少女が押し殺したような悲鳴をあげた。
飛段がその円の中に入ったとほぼ同時に、彼の首につけられた首輪が猛烈な爆音と共に爆発したのだ。頚動脈を弾き飛ばし、皮一枚で繋がった状態の首をぶら下げた体は突っ立ったまま。通路と言う通路、天井と言う天井に真っ赤な血を散らして死んだ、銀髪の男の凄惨な有様に今までそういうことばかりやってきた男たちでもさすがに口を塞ぐ。那由多もまた眉をしかめたが、どちらかというと飛段の血を真っ向から浴びたからである。
ぼた・・・・と肉の塊が落ちた。それは飛段の物ではない。
売り手であった男が突如悲鳴をあげて隣に立っていた買い手の男を突き飛ばした。どしゃり、と重い音と共に首のなくなった死体が壁にぶつかりゆっくりと崩れ落ちる。白いスーツは血まみれになり、この灯りの下では最早赤だか黒だかも認識できなかった。
飛段と全く同じ死に方をした男はやはり皮一枚で首が辛うじて繋がっていたが、倒れた衝撃で首は血の海の中を転がっていく。中枢神経を失ったはずのその体はもう二度と動くはずはない。そう、動くはずはないのに・・・・・


「おい、おい、おいおい!!てめぇらこんな物騒なもんで首すっとばされる痛みがわかるかァ!?」


いつの間にか皮膚が黒く変色していた銀髪の男はゆっくりとぶら下がっていた首を己の手で元の位置に戻したのだ。


「おい飛段、これで縛っとけよ」


那由多が牢の中にあった布キレを手渡せば、最早原型がどうなっていたのかもわからない首元に飛段はそれを巻きつける。抉れた肉の間から真っ白な骨が、見えた。


「ジャシン教のモットーは殺戮、だ。めんどくせェから逃げるなよ」


そんなことを言われてその場に佇むものの方がよっぽど少ない。地下は阿鼻叫喚と化したが、はてさてその様子に関してはご想像にお任せしよう。最早足場もないほどに血が飛び散った廊下に平然と足を踏み出した那由多は、同じように血まみれの鍵で己の首の枷を解いた。鍵をサッチに投げて渡せばサッチは首をすくめてそれを拾いまずは少女の枷を解いてやる。ピクリとも動かなくなった少女の瞳には一体何が焼き付いているのだろうか。
サッチは黙って己の首枷もはずすと少女を抱き上げ、先の二人と同じように牢を出た。


「ったくめちゃくちゃやりすぎだお前ら。・・・・帰るか」

「うへぇ血まみれ」


ピチョン、と小さく雫が音を立てて血の海に波紋を広げたが、その後その地下街がどうなったか知っている者は誰一人としていなかった。












後日談になるが、結局あの少女はしばらくの間白ひげ海賊団が預かることになったそうだ。どうやら行く宛てもないらしく、ノリノリな看護婦達は彼女を自分達の仲間に迎え入れるそうだが、そうなればもう二度と彼女はあの恐怖を味わうこともないだろう。
サッチと飛段と那由多はあまりに血まみれで返ってきたためにマルコに散々怒られたが、白ひげに頭を撫でられてそれから海へボチャンした。飛段はそのせいで最後の首の皮一枚が切れてしまい、沈んだ頭を探すのが大変だったのだが、その話はまたいつか別の時にしよう。










2012/10/29
思った以上にグロい話になってすいませんでした。