「お前一体何匹雛鳥を量産したら気がすむんだよい」
「っうるせェェェ!!おれが鳥を口寄せできるようになったらだっ!」
「雛鳥も鳥だよい」
「だっまっれっこの鳥め!」
那由多が言った瞬間、ごっというものすごい音と共に那由多の頭にマルコのかかと落しが直撃した。「ただの鳥じゃねェ、不死鳥と呼べ」「はげ鳥・・・」もう一発。
エースが甲板に出て来たときにはぴよぴよぴよという可愛らしい声がそこかしこから響いていた。はて、誰か雛鳥なんて買ってきたのだろうかと思って泣き声の方を見れば何故か大量の雛鳥に纏わりつかれているマルコ。エースは思わず噴出してマルコの肩にとまっている雛鳥を一匹手に取った。
「どうしたんだよこれ。随分懐かれてんなァ」
手の中の雛鳥はマルコから引き離されると一際甲高い声でぴーぴーと鳴いて騒がしいことこの上ない。ぱっと手を離してやれば雛鳥はエースの腕伝いにマルコの肩へと上って行く。落ち着きのない雛鳥たちはマルコの足元をちょこちょこと動き回り、エースは彼らを踏みつけないように気をつけながら那由多の手元を覗き込んだ。
「むー!!!」
「むー、じゃない。そんな風に力んだところでチャクラは出ないぞ」
「ぬおおおおおお!!!!」
「頭を打ち付けても練れないものは練れない」
イタチの冷ややかな声に悶絶しながら那由多は再び口寄せの印を結んだ。
「ソォラァ!」
ぼふん、ぴよっ
那由多の掛け声と共に立ち上がる煙。そしてその煙の中から現れたのはマルコの周りにいるのと大差ないそれはそれは可愛らしい雛鳥だった。
「お前ホント何してんの?」
「おおおおおエーズゥゥゥゥ!!!」
もうおれだめだァァァ!と叫びながらエースに抱きついた那由多は鼻水をだらだらと垂らしている上涙までぼろぼろとこぼして汚いことこの上ない。もうだめなのはお前だろ!と思い切り海に投げ捨ててやりたい衝動にかられもしたがエースはなんとか踏みとどまってみせた。何せ那由多の手のひらには今可愛い雛鳥がいて、彼を海に放り込んだら雛鳥がどうなるか。・・・・つまるところ雛鳥さえ居なければエースは那由多を海に叩き込んでいたということである。
とりあえず引っ付いてきた那由多を引き剥がして雛鳥を彼の手から奪い取ると(勿論マルコの肩に置いた)、顔を洗って来いとばかりに海の中へ見事な一本背負いで投げ落とした。とはいえ水音もなく、下を覗き込めば海に落ちるぎりぎりで那由多は張り出したロープにしがみついている。
「で、あいつ何やってたんだ?」
「所謂口寄せの術と言う奴だ」
「クチヨセ?」
あまり細かい原理は聞くなよ、と先に釘を刺されたものだからエースはとりあえず口をつぐんだ。別にエースとてなにやら小難しい話をされて理解できるわけではないのだが、やはりそれでも一度は聞きたくなってしまうというのが心情だ。イタチがそんなエースの心のうちを読んだのかは知らないが、とにかく彼は「時空間忍術の一種らしい」とそれだけ言うとそれきりだった。
「つまりだ」
「おう」
全然わからねェよと思っていたところでちょうどよいタイミングで口を挟んできたのは那由多である。一気に船の側面を駆け上がった彼は手すりに肘をついたまま体を支えた。彼はまだ甲板には足を下ろしていなく宙ぶらりんのままだったのだが、それでも平気な顔をして体を支えるというのは並大抵の腕力ではない。那由多自身の体重はそう重くはないのだが、日本刀やら鎖鎌やらといったそのあたりの武器を含めるとかなりの重量があるのだ。
「おれの飛び道具なんかもそうだけど違う場所からお呼び出しするってわけよ。ただチャクラを使うもんだからおれ上手くいかねーんだよな」
「忍ってのはクチヨセっての皆できんの?」
「基本できる。でもする奴としない奴がいるって感じ?」
「でお前は出来ない奴か」
「よーくわかってんじゃん」
那由多は甲板に足を下ろした。
すっかりあきれ返った表情のイタチはいい加減那由多の相手をするのも疲れたのかマルコに群がっている雛鳥と遊び始めていた。ふわふわとしたそれらは鶏の雛ではない。大きな丸い目は確かにまだあどけなさが残っているがどこか鋭く大きくなったら単に可愛いだけの鳥ではすまないだろう。
口寄せの術はまず第一に動物との血の契約がなければならない。通常は一族により契約は受け継がれていくため契約そのものを必要としない場合もあるが、例えば那由多のように一代限りで口寄せの契約をする場合は誰かに契約の仲立ちをしてもらう必要があるのだった。那由多の場合移動の利便性などを含め長門を仲立ちに大鷲との契約をしたのだが、彼の場合問題なのは契約そのものよりも口寄せの術の方だった。そもそもチャクラの絶対量が少なすぎる那由多は口寄せの術に必要なだけのチャクラを練ることが出来ず、結果雛の量産という馬鹿馬鹿しいことを繰り返しているわけだが、こればかりはどうしようもない。彼のチャクラの少なさは経絡系が未発達なところから来ており、ロック・リーが体術しか使わないのとはまた異なるものである。リーの場合八門遁甲を使うに十分なチャクラを練ることができるが、那由多の場合はそれすらもできず精々木の幹や水の上に立つといった程度のレベルしかチャクラを作り出せないのだ。彼の体術は主に人間のごく普通の反応を極限まで鍛えたものであり、イタチや長門の使う体術とも実は少し異なっている。
そんな那由多が何故口寄せの術などという無謀な術に挑戦しようとしているのか、といったことは聞かないで欲しい。暁と言う並外れた忍が集まる組織に居て、チャクラが練れないという劣等感は少なからず那由多にはあった。それがたとえ彼のせいではなかったとしても、だ。
だから那由多は時折こうしてイタチに教わりながら術を見よう見真似で使ってみようとする。(ちなみにサソリは一度彼がチャクラを練れないと知って以降一度も教えてくれたためしがない)大抵は失敗で何も起こらないことが普通だったが、それなりに体が成長した今では雛を口寄せできるくらいにはなんとか形が出来ているようではあった。
「・・・・というよりおい那由多!!お前こいつらどうすんだよい!!」
「・・・懐かれたなァマルコ。いっそお母さんになっちまえよ」
「黙れ」
笑うエースと那由多につられたのか、イタチも手に雛を抱えたままくつくつと顔を背けて笑っている。それがまた癪に障ってマルコは頭の上によじ登ろうと苦心していた雛を数羽まとめて手で掴むとイタチの黒い髪の上に乗せてやった。イタチはなんのためらいもなくそれを払い落とすと、その雛たちは突如煙を上げて霧散する。
「・・・・お前、」
「別に殺してはいない。口寄せの動物は口寄せしたおれらの意思で返すことも出来るが機嫌を損ねれば勝手に帰るからな。こいつらはまだ意思も碌にない、ちょっとした刺激があればそれですぐに母親の元に帰る」
驚いたマルコの言葉を全てわかっての上なのだろう。イタチは説明口調でそんなことを呟くと手のひらの上の雛をきゅっと軽く握り締めた。ぼふん。煙がたって、風に消えればそこには何もない。「殺さない程度にな」と言われるがままにマルコは雛をちょっとだけ力を入れてつついてみる。一度目、失敗。二度目、もう少し力を入れると煙と共に消えた。それからしばらくうるさい雛の鳴き声を少しずつ母親の元に返して、全員がいなくなったころには那由多もいい加減口寄せを使うことに飽きてきたようだった。というよりも大分疲れているように見える。
「あー・・・だめだ。おれホントなんもできねー」
「いいじゃねェかお前体術強いし」
「だァッて考えてもみろよ・・・イタチの奴は忍術幻術ついでに体術まで万能なのにおれ、体術オンリーとか一芸に秀でてるにしても秀ですぎだろ。おれだってせめて忍術の一つや二つだなァ」
愚痴る那由多は言うほど悔しそうではないが、いつものようなあの奇妙な明るさはないところをみる限りそれなりに彼自身気にしているのだろう。
エースからしてみれば那由多の体術で十分だとも思うのだが、世界が違えば価値観も違う。エースからすれば天才だが、忍たちからすれば那由多は落ちこぼれなのだった。
「・・・なーんでおれだけチャクラ使えねーんだろ」
ぽつりと那由多は呟いた。少々感傷的な雰囲気に甲板は包まれるが、その空気を読めなかったのかそれとも最初から読むつもりもなかったのか、「気色悪いな貴様」というイタチの一言でぶち壊しである。那由多の大鎌が唸りを上げてイタチの黒い髪が数本、舞った。
「ま、あっちの方が那由多らしいわな」
「確かに」
笑う二人の足元で、一匹だけまだ残っていた雛がぴよ、と鳴いた。
2011/02/11