「というわけで、だ」
「ギャハハハ那由多だっせェ!!」
「そう思うんだったら刀の一本くらい持たせろォォォ!!!!」
それもこれも一体何が原因かと言えば、それは昨日の晩にさかのぼる。
白ひげ海賊団は敵も多いが、かといって毎日毎日が戦闘となるわけではなかった。海軍だって白ひげ海賊団と一戦やりあうには戦争覚悟で挑まなければならないので、お互い触らぬ神に祟りなしといった感じでそれなりに距離を置いた関係が続いているので海軍との戦いもそうそうあるものではない。
というこれらのことが一体何を指し示しているのかと言えばようするに海賊達は暇であるということだった。特に海の上にいる間はやることもなく人数も多いため掃除だって当番制。詰まるところ掃除をして体を動かすこともできないというわけなのだ。結果海賊達がすることといえばマストの天辺で遠い海の果てを眺めるか、はたまた仲間との無駄な会話に時間を費やすか、何かゲームにでも興じるかのどれかになってしまうわけだ。
その理由はよくわからないが死んだと思ったらあらびっくり、なんと生きてました暁連中もまた暇をしていてその日の晩はエースやマルコを交えてのカードゲームに興じていたのだ。
暁メンバーは那由多、デイダラ、飛段、イタチである。サソリは傀儡の整備で部屋に篭っているため不参加。飛段があちらの世界で死んだということは角都もいるはずなのだが、あいにくまだ誰も角都とあってはいなかった。もしかしたら角都はこの世界に来ていないのかもしれなかったし、この世界のどこかでまた金集めをしているかもしれない。
「げっ」
「那由多お前表情に出すぎ」
「すっげーわかりやすいな」
な、と飛段が言えばおう、とエースに返事を返される。飛段もエースもポーカーフェイスというものが苦手そうなくせにしてすべて笑顔の裏に隠してしまうため、想像している以上にカードゲームは強かった。デイダラはさすが忍といったところか見事なまでに表情を隠しているし、イタチは日常的に感情が読み取り辛いのでこの際無視しておこう。そしてそんなイタチと同じくらい感情の読めないマルコは一足先に上がり、酒を片手に勝負の行く末を見守っているが結論はとうに出ている気がする。
カードを引くたびに一喜一憂する那由多は最初は演技かとも思ったが、単に感情が表に出てしまうだけだった。イタチにいたっては那由多の表情だけで彼のカード全てを当てることも出来てしまうので最早これはある種那由多いじめでしかなかった。
そんなわけで今日も今日とて大負けをした那由多はひらひらとカードを降ってから捨てた飛段にウゼー!!と怒鳴り声を上げて甲板に倒れこむ。そのまま得体の知れぬうめき声を上げながら悶絶する那由多を他所にデイダラと飛段とイタチは本日も大負けの那由多の罰ゲームを何にするか話し合っていた。
こういうゲームの時は大抵少量の金でも賭けるのだが、あいにくこの忍連中、賭けるものは命しかねェぜ!なんてふざけたことを言い出しかねないので暁と名乗る連中とゲームをやるときは賭け事をしないのがある種暗黙の了解になっていた。だからその代わりに負けた奴には罰ゲームというペナルティが課されることになっているのだ。
「なァ今回はどうすんだ?」
エースが飛段の肩越しに三人の輪の中を覗けば、三人はまだ特に何も決めていないらしい。
「那由多が負けんのは日常茶飯事だからなァ・・・もうネタねェんだけど」
飛段が言えばイタチも頷いて、那由多はそれを聞いてさらに悶絶した。
「あ、じゃあれにしね?うん」
「あれ?」
「あれあれ。リーダーに怒られたけど那由多城崩し」
「ああ悪くはない」
「なんだよ那由多城崩しって」
「今日はできねェよ、うん。まァ近いうち見れると思うぜ!!なァマルコ!!罰ゲームってことで次の海賊船討伐おいらたちでやっていい?」
「・・・?別に構わねェよい」
デイダラの言葉にマルコは特に否定する理由もなく頷いた。
これだけ暇をしていると身体を動かす口実ならなんでもよくなって、大抵海賊船との戦闘では誰か出るかでもめるのが普通なのだが、それ以上に暁連中の戦いを見たい、という船員が多いのだ。那由多、サソリに始まり順繰りに空から降ってきてなんやかんやと白ひげの船にいついてしまった本人達曰くS級犯罪者。本人達の世界ではトップオブトップの実力者揃いらしいのだが、あいにく白ひげの船員達は彼らの実力を目の当たりにしたことがない。とはいえ訓練ならともかく相手に大怪我を負わせるような船員同士の戦いは禁止されているから、敵船でも現れない限り忍の真の実力というものを見る機会がなかったのだ。
その機会は運のいいことにその次の日に訪れた。
「グララララ那由多、今日はお前が出るんだってなァ!」
「親父〜なんだよ見に来てくれんの?おれ頑張っちゃう!」
やたらハイテンションな那由多は甲板に現れた白ひげの前でぐるぐる回って回って回りすぎた挙句ぶっ倒れた。こんな奴が敵船を制圧できるのか、あまり暁の連中と近しくない船員達が疑りぶかい視線を送るのも仕方がないだろう。
「イタチィ!!あったぜ!!うん!!」
「よし。那由多、昨日の罰ゲームということで今日はお前単独で武器はこれ一本だ」
初陣だというのに一体何処に行っていたのか、姿の見えなかったデイダラは何か長い棒を持って船室から甲板へ飛び出してきた。
「・・・・・おいマルコ」
「・・・・・・・」
「あれって物干し竿じゃね?」
「ギャハハハそうだぜ!物干し竿だな!!」
「あれが武器!?」
エース以上に悲鳴を上げたのは那由多だった。デイダラから投げ渡されたのは那由多の身長の倍程度の物干し竿。中心が空洞の鉄製のそれを持つ那由多は滑稽他ならない。
「他の武器はすべてここに置いていけよ」
「なんだおれらは出ねェのか?」
「あったりまえだぜ旦那!!これ那由多の罰ゲームだからな!うん!!単身物干し竿で敵船撃破!だ!うん!」
「ああ」
「ああって・・・おいサソリ!お前あれ止めなくていいのかよ!?」
「問題ない。以前にもやらせたことがある」
「はァ!?」
サソリの言葉に驚いたのは近くで彼の言葉を聞いたエースだけで、最早那由多は驚くどころか物干し竿一本での戦闘となり完全に無気力状態のようだった。
そして那由多が物干し竿でしか闘わないということに対し不満を持っているのは、恐らく那由多本人だけではないだろう。S級犯罪者暁が果たして一体どんな戦いを見せてくれるのか、楽しみにしていた連中は白ひげ海賊団の船員の中にも多くいたし、エースもそのうちの一人だったのだ。今にもグランドラインを舐めているのか、という声が飛んできそうな雰囲気の中、戦闘は開始された。
すでに砲弾を撃ち込める距離にまで近づいていた敵船三隻は、白ひげ海賊団がなにやら揉めているのをいいことに先手必勝とばかりに大砲を撃ってきたのだ。
ドンッドンドンドンッ、
連続した轟音が鳴り響き、あっと思ったときにはすでに砲弾が目の前にまで迫っている。一番隊隊長を任せられている身としてはうかつだったとしか言いようがなく、しかし例え間に合わずとも身体が動くのは当然で、マルコは一歩を踏み出そうとしたのだがその一歩は動きを読んでいたイタチに遮られた。
「何すんだよい!!」
「今回は那由多単独だ」
「だからって物干し竿一本で__」
カァン
その音に気付いたときには全員が那由多の姿を見失っていただろう。モビーディック号を狙った全ての砲弾はたった一本の物干し竿によって防がれた。
「ちょっ、マジ物干し竿使いにくッ!!なー三節昆ぐらいいーだろォー!?」
「だーめーだー!!そんなに使いたけりゃ昨日一勝でもすればよかっただろうが!うん!!!」
「デイダラうぜー!!!だけどおれ親父が見てるなら頑張るゥ!!!」
ひゅんと那由多が物干し竿を回転させれば風を切る音がエースの立つ場所まで聞こえてきた。一寸の隙もなく、乱れもなく、那由多はただ突っ立っているだけだというのにその後姿から敗北と言う文字は見えてこなかった。
敵船はなお砲弾を撃ち込むがそれらは全て那由多に叩き落される。時にいなして、時に真っ二つに叩き割って。通常ならば洗濯物を干すという目的がために使われるそれは、今那由多が手にすることでとてつもない破壊力を持った一つの武器に変わってしまったのだ。
「那由多!お前全部武器捨ててけよ!!」
「うっせ黙れ飛段!おれァ武器の重みがねーと生きてける気がしねーの!使わないからそれは勘弁」
那由多はそう言うと大分距離の近づいた敵船に一跳びで飛び移った。あのときの敵船の船員の顔はきっと死んでも忘れないだろう。全員が飛び乗ってきた那由多に驚く以前に、その手の武器にあっけに取られていた。せめて槍、それがだめでもせめて三節昆なら話はわかるのだが、彼が手に持っているのは明らかにただの物干し竿だったのだから当然と言えば当然だろう。開いた口が塞がらずぽかんとした男達を見て、敵船の中一人のはずなのに那由多は思い切り噴出していた。
「・・・・なァあいつ一体何なの?」
「うん?那由多の奴か?まぁ武器のスペシャリストってところだな、うん」
足元を薙げば男達は避ける間もなく甲板に伏した。那由多はそんな連中見向きもせず、手に刀を持ち彼の首を狙った男の額を一瞬で突いた。その正確無比な狙いは那由多の腕力とその男が突っ込んでくるスピードとあわせてとてつもない衝撃を生み、刀を持った男は一瞬で昏倒する。だが那由多は男が完全に気絶したときにはすでにその場におらずひゅっ、と別の男が耳元で風を聞いたときには目の前がブラックアウトしていた。彼の身長より長い物干し竿を那由多は中央を持つことでバランスをとり前後左右どちらの敵にも対応する。突き、払い、薙ぎ、叩き下ろす。たった一本の棒で一体どこまで使えるのか、棒高跳びの要領でひょいと那由多が高く飛べばその下を銃弾が通過した。
たった数秒のうちに行われたそれらの一連の動作に白ひげ海賊団の全員が釘付けとなった。一瞬でも目を離せば那由多はどこかへ行ってしまうし、何よりその洗練された動作から目を逸らすと言う方が難しい。
「武器のスペシャリスト?」
エースもまた那由多の動きに目を奪われながらもデイダラに聞き返す。デイダラにとっては那由多の動きは最早見慣れたものなのだろう。暢気にあくびをしながら、精々物干し竿以外の武器を使わないか見張っている程度の心持らしい。
「おいら達は"歩く武器庫"って呼んでるぜ。那由多の奴おいら達が使うような一般の術はからっきしだけど、体術と暗器だけは暁内トップだ、うん。古今東西武器ならその場で手渡してもなんでも使いこなせるし、今みたいに物干し竿一本、もっと極端いやその場で切り取ってきた枝一本でも全く問題なく戦える奴だ。武器を使ったら言わずもがなってな、うん!まさしく芸術だと思わないか?うん?おいらは永久の美なんて認めねェがそれでも旦那の育てたあれはまさしく人間の極限であり芸術だ」
デイダラの最後の言葉は何が言いたいのかさっぱりだったエースも、少なくとも人間の極限と言う言葉だけは理解できた。那由多は体術のために生き、武器を使うことこそが彼の人生でそれは生涯変わることのないものなのだろう。
「へっへーん。兄ちゃんたちおっそいぜ!」
「このッ・・・!!糞餓鬼がァァァ!!!」
「うっせおれ二十歳だっつーの!!ソォラァ!!!」
移動式迫撃砲の砲弾を那由多は軽くいなして、その砲身にすぐ右にいた男から奪った銃を突っ込んだ。那由多のタイミングがよいというべきか、それとも狙撃手のタイミングが悪いと言うべきかはわからないが、とにかく銃を突っ込まれて同時に火薬に点火したものだから砲身は爆発、周囲にいた男共をまとめて巻き込んで自滅したが、そのころには那由多はすでにマストの上に移動していた。
ひゅん、と物干し竿が風を切る音が聞こえてくる。
「あーだっりー・・・やっべ手裏剣で一掃したい気分。なーイタチー頼むっ手裏剣十本追加してちょ」
「だめだ。使いたければ勝て」
「うっぜー。まじうっぜー。イタチの奴ちょっと記憶力がいいくらいでいい気になるなよばーか!!」
実際のところイタチはちょっと記憶力がいい程度のレベルではないのだが、今の那由多にとってはとりあえず罵倒する対象があればなんでもいいのだ。まァ記憶力が良いことを馬鹿にするというのも奇妙な話だが、イタチはその那由多の言葉を聞いてふん、と鼻で笑うとこう一言言い切った。
「そうかおれはちょっと記憶力がいいのか、ならおれにすら勝てないお前の記憶力は鶏以下ということだな」
「くっそあいつの目玉抉りたい」
「抉る場合はおれに言え。写輪眼を傀儡にしてみてェと思ってた」
「抉るの前提かお前ら!!」
エースは思わず突っ込んでしまったが、イタチは特に何も感じていないのだろう。どこからともなく取り出した団子を銜えて再び動き出した那由多の動きを観察していた。
「さってそろそろラストスパートといくかー」
長い物干し竿で甲板を軽く叩き那由多は駆け出した。膝を打ち、弁慶を泣き所に一撃を与えれば男達は悲鳴を上げて甲板を転がった。
「そいやっ」
まるで前転をするように武器を持った男達の足の隙間を転がって背後から叩き落した物差し竿の一撃は重かった。
直に敵船の上で立つ男は那由多ただ一人となり、那由多はそれを確認した上で火薬庫の火薬に陽をつけるとさっさと海に飛び出してしまう。彼が海水面に着地したと同時に背後で馬鹿でかい爆発が起こり、那由多は危うくそれに巻き込まれそうになりながら、でも彼の今回のパートナーであった物干し竿をしっかり握ってついにモビーディック号に帰還した。
彼を迎えたのは歓声だった。「那由多お前すげェじゃねェか!!」「大した動きだなァ!今度教えてくれよ!!」「物干し竿一本であんだけ動けるたァ半端ねェなお前ら!!」那由多が甲板に戻るや否や、白ひげ海賊団の船員達は彼を取り囲み頭を撫でるやら背中を叩くやら好きなように彼をもみくちゃにした。
「おいおいおい!やめろっておれってば褒められるの慣れてねーの!ちょっまじ照れるっ」
那由多は頭を撫でようとする手をなんとかかんとか払いのけぎゃーぎゃーと騒がしくなった甲板の人ごみの中からようやく脱出した。勿論物干し竿はまだ手に持ったままで、もうここまでずっと一緒にいるとなんだか離れがたい相棒に見えてきて那由多はこの物干し竿を自分の三節昆の代わりに貰おうかとまで考えていたのだ。だがあいにく三節昆では洗濯物が干しにくそうなのでナース連中に嫌われそうだ。
「やるじゃァねェか那由多。たいしたもんだぜ」
「親父・・・やめろっておれってば___あり?」
すでに宴が始まろうとしている甲板でようやく座り込んだ那由多は白ひげの大きな手に頭を撫でられて、やはり同じように照れてみせようとした。が、突然歪んだ視界に那由多は頭を抑え、そしてせり上がる吐き気についに物干し竿すら手から離す。
「那由多どうした?」
「・・・すんげー気持ち悪い・・・・何これ何これ、ちょっ、これあれなんだけど、昔昔のそのまた昔に竈にいた白蛇殺したとき死に際の奴に毒喰らったときの感覚」
「お前一体何やってんだよ。でもホントに顔色わりーな。ナース呼んでくるか?」
「いやナースより旦那で頼む。おれの身体のことは旦那の方がよっくわかってっから」
今にも吐きそうな顔をして那由多はそう言った。先ほどまでの威勢のよさはどこへやら、本気で気分が悪いらしく座ったまま立ち上がろうともしない那由多は、ふらふらと視線を彷徨わせている。
「急かすなエース」
「いやでも那由多の奴が、」
「ああ?この程度で死ぬような奴弟子にした覚えなんざ・・・・・」
白ひげの足元で座り込んだまま動かない那由多のところへ、エースはすぐにサソリを引っ張ってきた。サソリは恐らく傀儡の整備中だったのだろう、いきなり呼び出されてひどく不機嫌にぶつくさと何かを呟いていたが、那由多の様子を見るなり態度が急変する。顔を合わせればお互いくたばれしか言わない師弟だが、やはりそれなりに弟子に対する愛情、愛着というものはあるのだろう。サソリはしばし沈黙したまま那由多をじっと見つめていた。
「・・・・イタチ」
「・・・・・大したことはないだろう」
イタチは何故今呼ばれたのか、すでに理解しているらしかった。その目はいつもの黒ではなく紅い血の色に染まっている。
「那由多の奴どうしたんだよ」
「チャクラ切れだ」
「・・・・んじゃァ単なる疲れ?」
「そんなところだろう。全身のチャクラの流れが低下している。根本でチャクラを作り出せなくなっているからだろうな」
「・・・おェ、じゃなんだよこの吐き気」
「つわりじゃね?」
「エースお前馬鹿だろ。お前超馬鹿だろ」
「だって子供産むときなるって言うじゃねェか」
「男は子供産まねーよ」
「まじでか」
「おい誰かエースにまともな教育しろよ!」
エースの認識の低さはともかくとして那由多は本当に単なるチャクラ切れだった。
前世(と言うのもおかしいが、とにかく死ぬ前に生きていた世界)と今生きている世界ではそもそものチャクラ現存量が違うということはイタチがこちらに来た時点でわかったことだったのだが、どうやらチャクラの消費量も随分と上がっているようだ。特に那由多はチャクラコントロールが苦手なため、ただ単純に水面を歩いたり、または壁面にへばりついたりといった程度のことで通常よりも余計に多くチャクラの消費をしてしまったのだろう。さらに銜えてしばらくなかった近接戦闘で全身を動かしたために平穏に慣れていた身体に衝撃が大きすぎたと見える。
エースの腕に掴まって那由多は立ち上がろうとしたが、その足に力が入っていないことは明らかで、サソリが足払いをかけるとあっさり甲板に倒れこんだ。
「うえー・・・何すんだよ旦那」
「うるせェてめェのせいで傀儡の整備が中断されたんだ、ふざけんな」
「旦那ひでェ」
那由多はそう言いながらも笑っている。
「おーい那由多ー・・・ってお前どうした。怪我でもしたのか?今からお前主役の宴がはじまんだぜ?」
「まーじでかーでもおれちょっち参加無理かも。今すんげー気持ち悪いからここにいるわ」
「そうかそりゃ仕方ねェな」
サッチは甲板に仰向けにねっころがったままの那由多を上から見下ろして苦笑した。寝ていると楽なのか、先ほどより那由多の顔色はよくへらへらと馬鹿みたいに笑って見せる様子はいつもの通りだ。
「仕方ねェなァ、なんか食いたいもんあるか?持ってきてやるよ」
「エースやっさしー。ちょおれ惚れそう。イタチの奴も親友なのにこんなときはいっつも幻術の実験台にすんだぜーひどくね?」
「おーそうか。でもおれこっちなんだけど」
「まじで?でもそっちは骸骨しかいねェんだけど」
「お前もう幻術に引っかかってるよな」
一度イタチの目を見たのが悪かったのだろう。那由多はあらぬ方向を向いて、どこにもいないエースに対し話しかけていた。エース本人は那由多が向いている方のちょうど反対側にいて、あっちを向いたままの那由多のほっぺたをぷにぷにとつついている最中である。イタチはと言えばそんな那由多を見ながら勝ち誇ったように口の端を吊り上げて笑っていた。
「イタチもいちいち好きだよなァ」
「ああこれほど幻術のかけがいのある奴はそうそういないからな」
「やめろよエース〜お前まじでコウノトリが赤ん坊運んでくると思ってんのか?」
「ちげェのか?」
「・・・・思っているのかエース」
幻術にかかったままの那由多の言葉に反応したエースに対しイタチはピタリと笑うのをやめて本気でエースに問いかけた。那由多が今話しているのは幻術の中のエースで、イタチは少々冗談のつもりだったのだが本人真面目に聞き返したものだから笑えない。
「フン、てめェは馬鹿か、赤ん坊はキャベツ畑で産まれんだ覚えとけ」
「へェサソリ、お前よく知ってんだな」
「おい誰か真面目にエースの教育を考えたらどうだ」
「旦那も真顔で嘘つくなよな!うん!おいら一瞬信じちゃったじゃねーか!」
2010/11/21