「どうだ、イタチ」
「・・・・チャクラの絶対量の不足か、経絡系の乱れか、どちらにせよ以前のようにチャクラは使えないと考えていいな」
「原因は」
「一度死んだからな。死体は違うんじゃないのか」
そこのところどうなんだ、と問いかけたイタチは写輪眼を解くと同時に両目を手で覆う。
「死体も経絡系はさして変わらないが・・・まぁ死後の処理が重要だからな。おれらの場合はそれがなかったことを考えると経絡系がおかしくなっていても不思議じゃねぇが」
「那由多はさして変わらない」
「あれは元から使えねぇよ」
サソリはイタチの言葉に一つため息をついて手元の傀儡をぐるぐると動かしてみた。彼らがこの大航海時代と呼ばれる世界に来て随分とたつが、その間訓練を怠らなかったせいか初めてこちらの世界で傀儡を動かしたときのような違和感はもうなかった。サソリがこちらの世界へ来て初めて傀儡を動かそうとしたときは本当にひどかったのだ。まず第一に口寄せに使うチャクラすらコントロールできず、口寄せの術式は崩壊するし、いざ傀儡を動かそうにも指先から放出するチャクラは一向に安定しない。那由多はそもそもあまりチャクラを使った術を使っていないためそう実質的な損害はなかったようだが、絶対的なチャクラコントロールが必要な傀儡師にはあれは手痛い損失だった。だから数日の鍛錬でチャクラコントロールは単に感覚が乱れているだけだとわかったとき、ほっとしたのも事実である。
とはいえサソリはチャクラコントロールはかなり精密でも、チャクラそのものを見る目は持っていなかったため今の今までサソリや那由多を含めこちらの世界に来た忍たちがチャクラコントロールを狂わせた理由を追求することはできなかったのだが、こうして写輪眼を持つイタチのお陰でその理由と状況が少しずつではあるが解明されつつあった。
「とにかくチャクラの絶対量は確実に減っている。下手に大技を使うと自滅するな」
「もしくは経絡系に負担がかかりすぎるか」
「ああ・・・・体内を巡るチャクラが大分乱れている・・・特に最近来た連中は特に、だ。サソリは・・・もう問題なさそうだが」
「大分長いからな。それよりイタチ、お前目はどうだ。視力はどうなった」
「・・・・万華鏡開眼当初と同じくらいか。万華鏡も使えるようだが、チャクラ不足になりそうだ」
イタチはふーっ、と息を吐く。そして目を開くがそのときにはもう瞳の中に写輪眼独特の模様はなかった。
「チャクラコントロールが乱れているのは、そのチャクラの絶対量の違いから練れるチャクラ量が自然と減少したせい、もしくは経絡系が乱れたせいで直接的にチャクラを練れなくなったせいだと考えたほうがいいな。あまりチャクラを使う術は使用しない方がいい」
「チャクラの絶対量は増えそうなのか」
「なんとも言えん。可能性はあるが・・・・経過次第だろう」
経過次第、か。と呟くと同時にサソリの傀儡の腕が折れて中から千本が飛び出した。暗闇の中、イタチがあまりに視界に頼りすぎていたら眼球を抉られていただろうが、彼はかすかな物音に飛びのいた。
「・・・・感覚器は狂っちゃいねぇな」
「・・・・おれを実験台にするな・・!」
若干・・・どころかかなり怒っているような口調なのは、まぁ当然だろう。那由多はともかくこういったサソリの気まぐれな実験に慣れていないイタチは、いつもサソリといる那由多の気が知れないとぼやいた。
さて、その一方で当人の那由多が何をしているか、というと。
「・・・兄ちゃん誰よ・・・」
得体の知れない他人に絡まれていたのだった。
「那由多、お前知り合いか?」
「いや、こんなやつ知らねー」
「・・・デイダラのことも知ってるみたいだけどな」
「おいらも知らないぜ、うん」
「なっ・・・・」
赤い髪は肩口で切りそろえられ、目の中にはまるで渦のような模様があった。着ている服は那由多やイゾウが着ているそれに似ていて、ひどく細い男だった。齢はいくつぐらいなのだろうか、少なくとも那由多やデイダラそして自分より上に思えるが、サソリの例もあり判然としない。
「那由多、デイダラ!貴様らおれのことを忘れたのか!?」
「ま、それでもいいよ。あんたはおれのこと知っててもおれはあんたのこと知らない。じゃーなー達者ですごせよ」
すげぇ棒読みだなとエースが笑うと赤い髪の男にぎっと睨まれた。
「・・・っ大体なんでお前達勝手に死んだんだ!」
「・・・・おいデイダラ、こいつ元の世界の奴?」
「・・・らしいな・・・うん」
男はそれからしばらく記憶喪失だの、なぜ自分のことを覚えていないだのぶつぶつと言っていたが、突然何かを思い出したかのように那由多の肩を掴むとそう怒鳴ったのだった。元の世界ではともかくこっちへ来てからはなるべく殺意がない一般人の行動には無闇に反応しないようにしていたので、その男にあっさりと肩をつかまれた那由多はがくがくと頭を揺すられてうえっと言って何歩か後ろに下がる。デイダラの髪を引っ張って小声で聞くとデイダラも若干首を傾げながらそんな風に答えたのだった。
「なぁなぁあんた名前はなんて言うんだ?名前さえわかれば那由多とデイダラにも通じるんじゃねぇの?」
「・・・悪くはないな、露出狂」
「・・・一遍燃えておくか?」
「どーどー」
男の言葉にぷっつんきたエースはすでに手首から先が炎に包まれている。那由多はげらげら笑いながらエースを羽交い絞めにして路地に投げ込んだ。(その際積んであった可燃ごみに火が燃え移ってしまったが、まぁゴミを回収しに来た奴らの手間を省いてやったのだと考えよう)
「で、あんた名前は?」
「・・・長門、だ。いやお前らにはペインと名乗っていたな」
「・・・・・ぷっ・・・」
那由多が噴出した。その次は、デイダラだった。
二人の少年(年齢的には青年という表現がベストだろうが、精神年齢はクソガキなので少年という表現にしておこうと思う)は街のど真ん中で腹を抱えて笑い転げる。男は何を笑われているのか理解できないとばかりに目を白黒とさせ、最終的には、当然だが怒った。とはいえ相手が怒ろうが怒鳴ろうが、何かのツボに入ってしまったらしい二人はそれはもう楽しそうに笑うもので、エースもつられて噴出してしまう。通りを行く人々の何人かも二人に釣られて笑ったものがいたが、長門だかペインだかと名乗った男に睨まれてそそくさとどこかへ行ってしまった。
「嘘こけ」
一通り笑い終えた那由多は唐突に笑いを引っ込めて真顔で、正面きって言い切った。
「おれはお前なんか知らねーよ。暁のクソリーダーはクソだがまぁ・・・うんあれだ」
何が言いたいんだか。多分何か褒め言葉を入れようとして失敗したらしい。それにデイダラは一度噴出しつつも納得した。
「そうだぜ!うん!!あのリーダーはセンスねぇピアス顔面に貼り付けて、おいらの芸術を理解しようともしないんだ!うん!!」
「いやデイの芸術理解するのなんて旦那ぐらいじゃん」
「てめぇは黙ってろ、うん。でもまぁともかくあれだ、リーダーはお前みたいなほそっこい奴じゃなくて、もっと・・・もっと・・・・こいつと大して変わんねぇ気がしてきた、うん」
結局それか、と端から見ていたエースは笑いを必死で耐えている。もうこちらに顔を向けられもしないのか、背を向けて何もないふりをしているが、その背中が震えているものでいっそ堂々と笑ってくれたほうが笑われたほうも気が楽だろう。
ともかくも、言われたい放題の長門(ペイン・・なのか、那由多やデイダラの話を聞く限りは暁のリーダーらしいが、まだ実際のところはわからない)はしばし口を開け閉めしていたが、ようやく何かの矛盾に気付いたらしい。顔をぺたぺたと触って、唐突に「わかった」と口にする。
「那由多、デイダラ、貴様らが覚えているペインの特徴を言ってみろ」
「リーダーの特徴ぅ?あれだろ、なんか影みたいので近寄ってくる」
「幻灯身の術だ・・・うん。輪廻眼だろ、あとピアスとつんつんした髪。お前みてぇな赤じゃねぇうん」
「んーあのぐるぐるにつんつんにおれより体術が強い」
「あ、そうだ、うん。どんなに遠距離でもおいらより強かった」
「へぇ、お前らより強い奴っているんだ」
「そりゃいるぜ、うん」
デイダラは肩をすくめてそう言う。
「おいらはかなり特殊な術を使うけど、チャクラコントロールは旦那の方が上だし、あっちのほうが場数踏んでるからな・・・旦那には勝てねぇよ」
「それにデイはイタチとも相性悪いよなー」
「あいつの話は出すんじゃねぇよ、うん」
目に見えて不機嫌になるデイダラはさておいて、長門はしばし考え込んだ。そして、唐突にこういった。
「よし、わかった。貴様らが知っている暁のリーダーは輪廻眼を使って、那由多よりも体術が強くってデイダラよりも遠距離が強いな。あとは神羅天征も使える」
「あー・・・シンラテンセイって何?」
「斥力のあれだ・・・うん。那由多もしょっちゅうやられただろ・・・うん。あんた詳しいな」
「本人だからな、とりあえず二人とも、おれと勝負しろ」
「え゛・・・・っとぉ!!」
那由多は長門の言葉に一瞬反応が遅れるも、そこはサソリ仕込の体術の使い手。長門の拳を軸に空中へ飛び上がる。
「うおっと。どうする?」
「エース!てめぇ周りの奴ら退けとけ!!うん!」
「おうよ。おーい観客の皆様あぶないぜーっと・・・炎上網!」
ゴオッと激しい熱が那由多とデイダラと長門を取り囲む。街の中心、通りの真ん中に出来た火の網に遮られて、人の波が大きく乱れ、誰もが混乱しているが、徐々に広がりつつあるその熱に人々は慌てて屋内、ないし別の場所へと逃げていったのだった。
エースは立ち上げた火柱にのって二階建ての建物の上に飛び上がった。
「おーい!!どうせすぐ海軍がくるから五分くらいで片つけろよ!」
那由多とデイダラに声をかけた、が返事がない。エースは顔をしかめて勝負の行方を見守った。
突き出された手と、彼の周りの何かにデイダラの起爆粘土も那由多の飛び道具も悉く弾き返される。
(インターバルは五秒・・・!うん・・・これじゃまるでリーダーじゃねぇか!!)
「那由多!あいつが弾き返すと同時に手裏剣回せ!!」
「おうよっ!ソォラァッ!!」
思ったとおり、五十を超える四方からの手裏剣を律儀に避けず長門は全てまた弾き返す。だがデイダラの読み通り、その後の五秒間は同じように弾き返すことは出来ず、死角を狙った那由多の手裏剣は確実に長門の急所を貫く・・・はずだった。
「イタチの死角を狙う手裏剣術だな?悪くはない、が手元は隠せ」
車返しの術だ。まさか手裏剣術で那由多を上回る奴が、リーダー以外にいようとは・・・というかこいつ本当にリーダーなのか?という疑念がようやっとデイダラの中で持ち上がった。だが考えている間にぐっと体を引き寄せる何かがあって、反射的に起爆粘土を放つ。
ドドドドンッ
連続した爆発は結局長門にかすり傷も負わせなかったようだ。
だがその爆風に紛れて那由多が接近戦に持ち込み、デイダラはその隙に宙高く舞い上がったのだった。
「・・・あいつ強いな・・・」
「強いなんてもんじゃねぇよ!うん!!・・・まじでリーダーかも」
「・・・まじで?」
那由多の体術と長門の体術はほぼ互角、いや若干那由多の方が押されている節すらある。
キン、と那由多のクナイが弾かれて、同時に袖から飛び出た日本刀もあっさりへし折られた。
「いいっ!?」
「どうした?そろそろ体力の限界か?」
「さぁ・・・ねっ!!」
那由多の戦闘スタイルは引かない。押されれば押されるほど、あえて相手の懐に飛び込み逆にそうすることで隙を作るのだ。だからこのときも那由多は目の前に迫ったクナイを背後に避けるのではなくあえて前に飛び込み、カウンターで避けて長門の手を蹴り上げたのだった。
「痛ッ・・・」
蹴り上げられた長門の手にはすでに那由多の鎖鎌の鎖が幾重にも巻きつけられている。鎖は放たれた手裏剣によって街路樹に縫いとめられ、一瞬長門の懐ががら空きになった。そこを那由多が見逃すはずがない。手に構えたのは千本だが、どこに急所があるか知っている那由多からすれば、むしろモーションが少なくてすむ千本はこうして相手の懐に飛び込んだ時にはうってつけの武器だ。距離あとわずか数cm、だがその瞬間那由多は見えない何かに弾き飛ばされる。
「物理攻撃は効かないぞ、那由多」
レンガ造りの壁を破壊してどこかの家の中に飛び込んだ那由多は、げぇえとうめき声を上げて、ふらふらと立ち上がった。
「那由多!!」
「酸欠・・・」
あれだけ激しく動いていればそうもなる。何せあの一連の動作の中で那由多も息継ぎをする暇がないのだ。
「さて、もうこれくらいでいいだろう。一つ向こうの通りでは海軍が喚いている。撤退するぞ」
「ちっ・・・・デイダラァ!」
「仕方ねぇな・・・うん。エースお前も乗れ。・・・あとリーダーあんたもな」
「ようやく認めたか」
「那由多相手に体術でサシで遣り合えるなんてリーダーと認めるほかねぇよ・・・うん」
デイダラは少々ふてくされた顔をして三人を拾うと停泊しているモビーディック号へと逃げ帰ったのだった。
その後、ペイン改め長門と改めて顔を合わせたメンバーの反応は意外と大したことはなかった。イタチは輪廻眼と彼自身の説明で大方理解したし、サソリはサソリでかつてペインと呼んでいたものが死体だったことを知っていたらしく、「そうか」の一言で終りだった。飛段はと言えばそもそもペインと呼んでいた人物のことを碌に覚えておらず、長門が試しに「こういう顔だっただろう?」と聞けば「そういやそうだったのかもなぁ・・・」とあっさり認知したとか。
2012/02/22