空から降ってきた爆弾魔

「芸術は爆発なのだァァ!!!うん!!」

「おめェ誰だよい」


その日モビーディック号に侵入した不審者を一番初めに見つけたのはマルコだった。
うっすらと空が白み始めた頃、ふと高くまで飛んでいってしまいたい気分になって自ら鮮やかな炎を纏う不死鳥へと姿を変えると、空と海の青い世界へ飛び出した。モビーディック号が見えないほど遠くへ行くことはないが、静かな朝の空気を切って、どこまでも続く世界へ思いを馳せる。時折こうしてたった一人になりたいときがある。白ひげ海賊団という家族に囲まれて賑やかな毎日を過ごすのも楽しい、でもこうして静かな空にたった一人きりでいると自らと世界との境界線があやふやになって、世界に比べるとあまりにちっぽけな自分がひどく安定する気がしたのだ。
やがて太陽が昇り、空と海との境界線がはっきりする頃、マルコはモビーディック号へと降り立った。だがそのとき視界に何か金色が輝いた気がして、白い鯨の船首の方へ顔を向けたとき、侵入者の青い片目と視線があった。
侵入者は突然マルコに向かって怒鳴ると、何に満足したのかは知らないが「うん!!」と盛大に頷いた。金色の長い髪は後ろで一つに結ばれ、左目は髪が邪魔して見えない。那由多が着ているとの同じような裾の短い着物に同じ色のズボン。その男の額には一本線が入った奇妙な模様のプレートがあった。
明るくなったとはいえまだ静かなモビーディック号の甲板で、マルコが男にそう問えば「おいらはデイダラだ、うん」という答えが返ってくる。どうやら「うん」というのは頷いたわけではなくデイダラという男の口癖らしかった。


「どうしたんだァマルコ」

「親父、いや奇妙な侵入者が」

「お邪魔してます、うん」

「そうか、ゆっくりしてけ。グララララ」


マルコの態度から白ひげをこの船の主と見たのだろうか、デイダラは丁寧に頭を下げて一言。白ひげはそんな奇妙な侵入者を笑って許した。


「にしてもこの船は芸術的だな、うん。鯨さんだ」


鯨さん、その言い方にマルコはなんとなく違和感を覚えたが、本人は決して間違えたわけではないらしい。白ひげがいつもの低位置に用意された椅子に腰掛けるとデイダラは船首の上を器用にバランスをとって近づいてきてぺたんとあぐらを掻いて座ったのだった。


「おめェどっから来た」

「空からだぞ、おいら落ちてきたからな・・・うん。飛んできた」


全く脈絡のない言葉にマルコもそして白ひげも首を傾げたが、デイダラの表現はどこかで聞き覚えがあるものだった。そうそれはつい最近のことで、まさに那由多とサソリの話の唐突さと同じものだったのだ。


「親父、こりゃァもしかして・・・確かあいつらどこぞの組織の構成員っつってたよい」

「かもしれねェなァ・・・ここ最近は面白いことばかり起きやがるぜ」

「何がだ?うん。それより芸術は爆発だと思うかい?」

「はァ?」

「おいらの芸術は爆発なんだ。究極の存在が一瞬で散ることこそに美があるとおいらは思う、・・・うん」


突如自らの芸術論を語りだしたデイダラにマルコは半ば呆れ半ば意味がわからないといった表情で聞き返した。デイダラはそんなマルコの反応に慣れているのか、それとも単に自分が語りたいだけなのかやけに楽しそうな表情でどこに美を見出すのかについて語る。だがそんなデイダラの意味不明な話をマルコと白ひげがそう長く聞くことはなかった。


「・・・・デイダラお前なにしてんの」

「うん?那由多!!お前一体ここで何してんだ!?」

「そりゃ、こっちの、台詞だって、ばよッ!!」


最後に会った九尾の人柱力の口真似をしながら、那由多は広い甲板を一、二の、三で駆け抜けると最後の感嘆符と共に床を強く蹴ってデイダラに飛び掛る。てっきり二人仲良く海にダイブかとマルコは思ったのだが、那由多は器用に空中で一回転し、そのままデイダラに見事な回し蹴りを食らわしたために結局海に落ちたのはデイダラだけだった。どぼんと水音。だっせぇと腹をかかえて笑う那由多


「やっぱりお前の知り合いかよい」

「おーう。暁メンバーだっ。なんだよあいつも死んだのか」

「そういやお前ら死んだんだったっけか」


あっけらかんと言うものだからうっかり流しそうになったが、かろうじてマルコは那由多の言葉でサソリも那由多も一度死んだ身であるということを思い出した。


「で、いいのかよい。盛大に蹴り落としたな」

「いーのいーの。こんなんで死なねーって。何せおれだって昔殺されかけたんだかんな!!あ、おはよう親父」

「いい朝だな」


ぴっと片手を上げて挨拶した那由多は白ひげの返事に嬉しそうに笑った。
白んだ空はすでに海と同じ青に輝き始めていて今日も快晴、いい一日になりそうだ。
だがどんなに素晴らしい一日の始まりだったとしても、一応一番隊隊長としてこの船のまとめ役をやっているマルコとしてはあの意味のわからない侵入者の処遇を決める必要があった。正直デイダラが何を言っているのかわからないため彼のことをおそらくよく知っているだろう那由多がいてくれるのはありがたい。白ひげはデイダラを船に乗せることを拒むことはないだろうし、問題は彼の意思だけなのだ。


那由多てめェェェェ!!なにしやがんだ!!うん!!」

「だっせ。忍者がそんくらいで海に落ちるとかさァ、ヤバクね?どれくらいヤバイってまじヤバくね?」

「死ね」


ぷぷっと明らかにからかいを意を込めて笑った那由多の頭の上にちょこんと小さな鳥が止まった。粘土細工のようなデフォルメされた造詣。なんだ、とマルコが思う間もなく、それはデイダラの「喝!!」という気合と共に爆発した。
朝早い船の上は幸い人がほとんどいない。デイダラがそれを知って爆発を起こしたのか、それともそういうことなど一切気にしなかったのかは謎だが、もしもこれが騒がしい昼間の甲板で起こったとすれば被害者は那由多一人ではとてもすまなかったろう。いや被害者、というわりに爆弾を喰らった本人は「はげる!」とマルコの後ろで野次を飛ばしていた。


「おっせーよばーか!!んな攻撃かすりもしねーっつーの!!」

「・・・・相変わらずお前らの身体能力には驚かされるよい。それで能力者じゃねぇっつうんだからなぁ」

「ああでも身体酷使しすぎて寿命短いから・・・その辺考えたらなァ?」


同意を求めるように那由多はマルコの顔を覗き込んだ。


「寿命短いって・・・そりゃお前が薬漬けだからだろ、うん」

「うるさい黙れ実験台と呼べ」

「そっちの方が嫌だ・・・うん」


薬漬けって聞くと大蛇丸思い出すんだ死ね、と最後に余計な言葉を引っ付けた那由多は心底嫌そうな顔でデイダラを見た。大蛇丸って誰だ?とマルコが聞けば「変態、蛇、オカマ、ゲイ、イタチが大好きな気持ち悪い奴」ととんでもない評価が返ってくる。別に大蛇丸がイタチの身体を狙う理由はそういうのではないのだが、那由多からしてみれば大して変わらないらしい。「会いたくねェな」と笑いながらマルコが言えば「だろっ!?」と同意を得られて嬉しいらしい那由多がはしゃいだ。


「で、デイダラっつったかおめェ」

「あんたでっけぇな・・・うん」


デイダラはばっちり海水を吸い込んだ服をぎゅーっと絞って、那由多がもろに頭を蹴ったせいで乱れた長い髪を縛る紐を切る。


「なーマルコ。イタチの頭とあわせてあいつの頭刈ろうぜ。主に首から上」

「お前らいつもそんなことしてたのかよい」

「マルコの頭も刈る?でもせっかくのパイナップルが__」


「いってェェェ!!!」と静かな朝の甲板に那由多の悲鳴が響き渡った。ものの見事に踵落しが頭頂部に決まり甲板の上を悶絶しながら転がる那由多を白ひげは笑ってみている。


「誰だ、誰がパイナップルなんざいいやがった」

「げほっ苦しいってば、あれだよあれエースが・・・」

「エースゥゥゥゥ!!!!」


ぎゃはははざまァ!!と笑う那由多にマルコはもう一発くれてやって再び甲板を転がった彼を遥か高みから見下ろした。
ごろごろごろと甲板を転がって、那由多はぴたりとデイダラの足元で止まって下から彼を見上げる。


「で、デイお前の最後はどんなん?」

「芸術は爆発だ、うん」

「自爆か」

「それがおいらの芸術だ」


マルコは多少げんなりした表情を浮かべてそんな二人のやりとりを見守っていた。普通自分の死に様を話すか、そして人が死んだときのことを聞くのか。とはいえ彼らの現状は少々特殊なものであるからあまり関係ないのかもしれないが。
それからしばらく、デイダラと那由多は本当にどうでもいいことを話していた。その内容の半分ほどはサソリとデイダラのどちらの芸術が優れているかだったが、結局決着がつかずいつの間にか自分の死に様の話になって、それからこれからどうするかという話になるのは・・・・果たして自然な流れだったのか初めから聞いていたマルコにもよくわからない。


「グララララ!いいじゃねぇか那由多!今さら一人二人息子が増えようが構わねぇんだ、デイダラァ!てめぇも遠慮なくおれの船に乗れ!!」

「だってよ」


デイダラは片目をくりっと動かしてしばらく白ひげを見つめ、那由多とマルコを見て最終的にはモビーディック号の船首へと視線を動かした。


「芸術は、爆発だァァァ!!」


喝、と一声の元、朝の甲板に再び激しい爆音が響き渡る。その犠牲者は主に那由多だったが、今の爆発がデイダラの喜びの代弁なのか、それとも芸術的な船に対する感嘆なのか、よくわからなかった。











2011/09/29