首なしほういち

くあ・・・と大きく口を開けてあくびをすれば隣にいたエースも同じようにあくびをした。そんなわけで二人はさらに隣に居たイタチを期待を込めた目で見つめてみるも怪訝な表情で返されて、那由多とエースは「空気読めよ」とイタチをなじった。
そんな平和な昼下がり。上陸したその島は正直治安はよくなかったが、弱肉強食という言葉がまさにぴったりの世界で力さえあれば恐れるものは何もなかった。現にクソうるさいレストランで食事をとっていた那由多とエースとイタチに一度叩きのめされてから絡むものは誰一人としてなく、三人は実に平穏な昼食を満喫する。


「平穏っつーかここまでくると暇だよなー一度死んだっつってもさァなんか変な気分」


なっ、と話をイタチに振れば全くだといわんばかりにイタチも首を縦に振った。忍だった頃からは考えられないほどのこの暇すぎる日常は慣れるまではどうも調子がおかしくなる。次の瞬間には暗殺だ、情報収集だ、の任務でも入ってくるのではないかと那由多は人が近づいてくるたびに思うのだが、それはいつものあのピアスをつけたリーダーではなくサッチや、マルコで用件を聞けば本当になんでもないものばかりだった。カードゲームをやらないかと誘われたり、ここいらは大きな魚が釣れるぞ、といわれたり。那由多は昔から順応性が高く大抵どこでも簡単に馴染むことができたが、やはり忍の世界と海賊の世界と言うものは根本から違うようだ。突然現れた彼らを深く疑うこともなく簡単に受け入れた海賊達は良く言えばきっと懐が深いのだろう。ジェネレーションギャップではないが、自分達とエース達との間に横たわる溝というものは埋めるにも飛び越えるにも難しいもので、でも結局その溝なんてものは那由多たちが勝手に作り上げているものに過ぎなかったのだった。
那由多は手に持った箸をくるくると器用に手の上で回転させてしばらくすると飽きたのか、タン、と軽い音と共にその箸をエースの座っている椅子の背もたれに突き刺した。行儀が悪い、とイタチが言うが那由多は特に反省した様子もなく「すんまっせーん」と謝る。
イタチと那由多が並ぶとどうしてもやはり品格の差、と言うのだろうか品の良し悪しといったものがひどく明確に現れた。食事の礼儀一つから果ては人と会うときのマナーのようなものまで含めて、いつだって完璧にこなすのはイタチでいつだってぶち壊すのは那由多である。片や木の葉の名家出身、片や戦争孤児。育つ環境って大切だよなー・・・とどこか人事のように思っているのはその当の本人の那由多だったりする。
エースは突き刺さった箸を背もたれから引き抜いたが、双方木であるため箸はすでにぼろぼろだった。「よく突き刺さるよな」と礼儀以前のところで感動しているエースに那由多は「やっぱおれお前のこと好きだわ」と笑いながら言った。


「じゃ、そろそろ行くか」


三人は店員に代金を渡すと品のない喧騒の中へ足を踏み出した。









三人がそいつを見つけたのは昼飯を食べ終わって二時間ぐらいした頃だったろう。イタチにも那由多にも基本的に必要物資なんてものはなかったし、エースもそもそも物をあまり持ったりしない性質だったので彼らは買い物をするわけでもなくただぼんやりと話をしながら町を巡っていた。時折賞金稼ぎだと名乗る連中に襲われもしたが食後の運動にもならず、ぼーっとした時間がただ過ぎ去っていく。


「なーエース、あれ何?」

「あれ?・・・・ああ見世物小屋か何かだろ」

「ミセモノゴヤ?」

「どういったものだそれは」

「なんだイタチも知らねェの?あー・・・ま色々非合法とかとなると話はめんどくせェけど大抵珍しい動物とか曲芸とか見せてくれるところだよ」

「ふぅん。曲芸ねェ・・・・」

「そうか、お前らがそもそも曲芸やってるみてェな人間だからな。んなもん必要ねェか」

「おれらって曲芸なの?」


エースの言葉に那由多はイタチに話を振ったがさァ、という返事しか返ってこなかった。


「今なにやってんのあれ」

「・・・・・ありゃ非合法だぜ」

「つまり?」

「・・・・多分雰囲気からすると人を見世物にしてるってことだ」

「へー」


エースは見世物小屋に張り巡らされた弾幕と看板を見て、少し顔をしかめて言った。イタチは薄々感付いていたのか特に何も言わなかったが、那由多は人が見世物にされようとなんであろうとさほど興味はないらしい。とはいえ見世物小屋そのものには多少興味があるようで彼は動かないエースを置き去りにぴょんと軽く跳ねて人ごみの中へ消えた。


那由多の奴物好きだなァ」

「好奇心が強いだけと言ってやれ」


二人がそんなことを少し距離を置いて話していると、突如那由多がつい先ほど駆け込んだ人ごみが騒がしくなる。そして次の瞬間、ひゅっと人の頭を飛び越えて何かがまっすぐに飛んでくるとそれはエースの目の前にちょうど来て、エースは思わずそれを受け取って瞬間顔が青ざめた。


「生首ィッ!?」


だらだらとまだ血が滴るそれを受け取ってびびらない方がおかしいだろう。イタチも思わず一歩後ずさったが、だがその生首、妙に親近感がある奴である。


「ぬおおおおおおおッ!!!エース!イタチ!!逃げるぞォォォ!!!」


気持ち悪いそれをまじまじと見つめていたら、今度は人の間から首のない死体を抱えた那由多が駆け出してきて、後ろからはその見世物小屋の警備兵らしき人間が駆け出してくるものだから二人も反射的に走り出した。


「なァ!なァ!おいおいおい!!これ捨てていいのかァ!?」

「ちょっ捨てんなよエース!!だいったい飛段お前こんなとこで何してんだよ!?お前不死身じゃなかったっけェェ!!?」

「ゲハハハハァ那由多ちゃん愛してるぜェ!!!」


生首の気持ち悪い愛の言葉に全身が泡だったのはどうやら那由多だけではなかったようだ、パス!と怒鳴ってエースはその生首をイタチに投げ渡し、彼はひどく気分悪そうにそれを出来る限り体から離して手にぶら下げた。


「おいおいイタチちゃんお前この持ち方はねェんじゃねェの!?せめてきっちり頭を支えてよォ・・・」

「勝手に首だけでしゃべっている貴様に言われたくない」


というかしゃべるな気色悪い、とイタチは言って、飛段の体を抱えているせいで一歩遅れている那由多を振り返る。


「一体何事だ!?」

「いっやーおれも驚いたんだって!!あそこ覗いたらなんか見慣れた首があってさーなんだと思ったらそいつこっちみて「よォ那由多」なんていうんだもんよ!!そりゃ持ってこないほうがおかしいって」

「なんでもかんでも拾ってくるな!」

「お前はおれの母さんかッ!!」

「そうだぜェイタチちゃんよォ、捨てる神がありゃ拾う神があるってもんだろォ?」

「なんだよおい那由多、イタチ!!こいつらお前らの仲間なのか!?」

「んなとこー。っと後ろがうるさいからエース任せた!」


生首と首のない体を運ぶ三人は今や完全に騒動のど真ん中にいた。道行く人々は皆イタチが手にぶら下げている生首を見て悲鳴をあげ、そしてさらに首のない体を運んでいる那由多を見て泣き叫ぶ。無法者の町なのだからこれくらいそう騒ぎ立てることのものでもないだろうが、やはり死体を持って走りまわるというのは異様であることに違いない。
炎上網、とエースが叫んだ瞬間、三人のすぐ後ろに高い炎の壁が立ち上がり、その騒動にいっそう拍車をかけたのだった。


「行くぞ!!那由多、イタチ・・・・と・・・えっと生首!」

「おれァ飛段だっつーんだよこのボケナス!!」


とある昼日中の出来事である。















「・・・・んで・・・しゃべるしゃれこうべを持ってきたってわけかよい」

「おいおい失礼なパイナップルだな、おれァまだ白骨化してねェだろォ」


モビーディックに帰って早々、なにやら血まみれで帰ってきた三人を迎えたマルコは呆れ顔でイタチと那由多の持っているそれを眺めた。驚かないところがさすがと言おうか、ちょいと昔話に引っ掛けた言葉を本気で言い返した飛段にマルコはぶちきれ、踵落しを喰らわせようとするがさすがにそれをやられると治すのが大変だと那由多が引き止める。


「大体治すってなんだよい。こいつァこれで生きてんのか?」

「んー・・・ま本人曰く不死身なんだと。おれも飛段の術についてはよく知らねーんだよ。でも血管とかきちんとあわせて縫えばちゃんと体も動けるようになるんだって」

「お前の仲間も大抵変だよなァ」

「いや体が火の方がずっと変だろ」


しみじみと言ったエースの言葉に言い返す那由多の言葉は妙に説得力があって、イタチは口の端を少しだけ上げて笑った。


「てかさ、お前不死身じゃなかったっけ?ここ死後の世界だぜ」

「まじで!?」

「いやちげェよ」



勝手にこのグランドラインを天国だか地獄だかにされてはたまらないエースが即座に那由多の頭をはたいたが彼はいささか気にした様子もなく言葉を改めるつもりは毛頭ない。飛段は死後の世界だろうと変なところに来たのだろうとどっちでもいいのか、げらげらと笑っておれの体どこ?と目だけ動かして胴体を捜している。


「おい那由多、こいつ・・・飛段だっけ?どうすんだよ、このままにしとくわけにもいかねェだろ?」

「さっすがわかってんじゃねェか半裸!!それ露出狂だぜゲハハハハァ!!!」

「てめーが言うな、うん」


すぱーんとデイダラが飛段の頭を蹴っ飛ばせばそれは血を撒き散らしながらごろごろと甲板の上を転がってようやく止まった。これだけのシーンを見るとどう考えてもスプラッタなホラー映画のワンシーンにしか見えないのだが、本人達はそこまで深刻に受け止めては居ないところがどうもシリアス味にかけていた。「いってェよデイダラちゃん!!」飛段は叫ぶが、そもそも首と胴体がばらばらという時点で頭を蹴っ飛ばされて痛い方を強調するのも奇妙な話だ。


「旦那に繋いでもらうよ。ホントはさァ角都って奴がこいつの首つなげるお役目なんだけど、どうせそいついないし。あ、そういや角都死んだ?」

「さァなァ、おれと角都はバラッバラで戦ってたからあいつのことはよくわかんねェや」

「へー」


那由多は飛段を胴体を抱え、転がった頭を拾い上げる。造血幹細胞は確か骨髄にあったと思うのだがはて飛段の頭から流れ落ちる血がどこからやってくるのか、といったことはきっと聞いてはいけないお約束という奴だろう。


「あ、その前に親父んとこ行こうぜ飛段」

「親父ィ?つか行こうぜっつーよりお前が勝手に連れてくだけだろ」

「ま、そうともいうな。どうせお前も行くとこねーんだろー」

「あったらあんなところで見世物になんざなんてねェよ」

「おい那由多、お前まさかそいつ仲間にするつもりか?」

「え・・・だめ?」


男がそんな顔しても可愛くねェよい、とマルコがため息と共に言えば那由多と飛段はげらげらと笑っていーじゃん、と気楽に言ってくれる。エースも親父に頼むの手伝ってくれよ、と那由多が言えばエースは二つ返事で了承した。











2010/01/23