「で、で、で、で、で!!!おれらってば何すればいい!?」
「お前うるせェなァ!」
エースの耳元で怒鳴った那由多に対しエースは笑いながらそう言った。お互いこういった人間は嫌いではないのだろう、その言葉には嫌悪感など一欠けらも含まれていないのだ。
「うっひゃーおれ船とか乗るの初めてなんだよなー!!!な、あれ何?あのでっけー布切れ!!」
「帆だ帆!あれで風受けて進むんだよ。マストの上登ってみるか?」
「上る上る!!」
「サソリはどうする?」
「おれはいい。というかそろそろ整備したい」
「整備?よっしゃ行くぞ那由多!!」
「おうよ!!」
「・・・あいつら元気だな・・・」
マルコがそう呟くとサソリがまァ餓鬼だからな、と投げやりに答える。
「餓鬼?お前、那由多の方が年上だろい」
「はァ?どう考えてもおれの方が年上だろ」
マルコは自分より低い身長のサソリを見下ろした。そしてもう一度那由多を見て首をかしげる。
「那由多の奴いくつなんだ?」
「あいつは十九・・・ぐらいか?正直よく年齢がわからねェ。あいつが五歳ごろおれが拾ったからな」
「は?」
イゾウが変な顔をした。それもそのはず、確かに那由多の年齢は十九から二十程度に見える。それに対してサソリは精々十五ぐらいなものではないだろうか。五歳の頃那由多を拾いかつ那由多の年齢が十九だとすると十四年サソリの隣に居たことになるのだが・・・・・そうすると五歳の那由多を拾ったときサソリは一歳というとんでもないお歳となるわけだ。
「お前いくつだよい」
「おれァ・・・・あー・・・三十五くらいか?」
マルコとイゾウはほぼ同時に噴出した。
そのころモビーディック号のどでかいマストを見上げる位置まで来ていた二人はマストの周りをぐるぐると回っていた。
「おーすっげー!こんなでっけー木があんだな!」
「ああ!それにうちの船大工は優秀だかんな、整備だって完璧だ!」
「・・・お前すんげーこの船のこと好きだろ」
「そりゃそうだろ、親父はすげェんだ」
「それは認めるぜ」
歳の近い同性。まして性格も似通うところがあるのだから気もあうのだろう。ついさっき始めてであったばかりだというのにすっかりお互い仲良くなった二人は顔を見合わせて笑う。
「よっしゃ上るぞォ!!!」
「おまっどっから上るつもりだ?」
「このままだッ!」
那由多はそういうと木登り(ここでいう木登りとは忍のよくやる足だけで登るものである)の要領で一気に駆け出し、そのまま上りきる予定だった。
「あべぶッ!!!!!」
ところが那由多がマストに足をかけた途端、ものすごい衝撃が足に走って、那由多は勢いよく吹き飛ばされた。
「・・・・何やってんのお前」
「いっ・・・・てェェェェェェ!!!!なんだよコンチクショウ!!!何が起こった!?」
「おれが聞きてェよ」
盛大に額を打ちつけじんじんするそこを手で押さえながら、那由多は若干の涙目できっとマストを睨みつける。
「クソッ・・・ソォラァもう一度!・・・あぶっぐぼォッ!」
威勢が良いのは声だけ。今度は助走付きで走り再び一気にマストを駆け上ろうとするがやはり同じように足がマストから弾かれてしまう。
幸いエースが襟首をつかんでくれたおかげでもう一度甲板に顔からダイブしないですんだはすんだのだが、いつもならできることが一切合切できないという奇妙な感覚に那由多は目を白黒させた。
「大丈夫か?お前さっきから何やってんだよ」
「いや登ろうと」
「いやおかしいだろ。なんで駆け上るんだよ」
「忍ってのはそういうもんなんだっちゅーに!くっそーよし一度旦那のとこに戻るぞ!!!」
「はァ?」
那由多はそれこそエースが気付かぬ間に手の中から逃げ出すと猛然とダッシュした。
エースはと言えば先ほどから続く那由多のとんちんかんな行動に額に皺を寄せていたのだが、彼がサソリの元に戻ってしまったのだから仕方ない。風を受けて大きく膨らんだ帆を一度だけ眺めてすぐに那由多の後を追う。
一方一足早くサソリの元へたどり着いた那由多はサソリの背中に勢いよく飛びついた。
「旦那ァァァァ!!やっべェおれチャクラ全然使えねーんだけど!!」
「うるせェよ!糞餓鬼!!!大体てめェは元からチャクラが練れねェじゃねェか!!」
「うるせェよクソジジー!!」
「まだ三十五だふざけんな」
サソリの背に泣きついた那由多を遠慮容赦なく放り投げたサソリはイゾウと目が合った。
「・・・・お前・・・目玉落ちるぞ」
「はァ!!!おまっ三十五!?」
「うそだろい」
露骨に表情に出たイゾウ、驚いているのか驚いていないのかいまいちわかりにくいマルコ。ちなみにエースは前者で、サソリの言葉を聞くや否や素っ頓狂な声を張り上げた。
「なんだよ何かびっくり?」
「だっ・・・おまッ三十五!?」
「ああ旦那?うんそんぐらいだろ。おれが始めてあったときえーっと・・・二十歳ぐらい?そんときから容姿このまんまだし」
「赤髪もそんくらいだぞ、サソリ、お前どう考えても十五ぐらいだよい」
「おれァ自分を傀儡にしたからな」
「へー・・・は?」
「あーもう話し進まねーよ!!旦那一からちゃんと説明しろって!!」
「おれは人傀儡だ。以上」
「わっかんねーよ!!!」
すぱんと那由多がサソリの頭を叩くとそれはもう手痛い逆襲が待っていたわけだが、とりあえず甲板で悶絶する那由多は置いておこう。
サソリはわくわくとした目でこちらを見るエースとイゾウの視線にハァと一度ため息をつくと、懐から巻物を取り出した。
「おっ巻物だ」
「ああ、なんだ知ってるのか」
「いや、おれァワノクニの出身でな。お前らとはちょいと系統は違うが忍って奴もみたことあるぜ」
「そうか。まァいいさっき傀儡の話はしたな」
「ああ人形だっけか」
「そうだ。通常は金属やらなんやらの材料で作る」
そう言うとサソリは取り出した巻物を甲板に広げた。
ぼっとエースの指に火がつき、日が落ちて暗くなった甲板を照らし出す。サソリに促されるままに先ほどから話をずっと聞いていた三人、エースとマルコとイゾウは甲板に腰を下ろす。白ひげは相変わらずその場に座ったまま息子らが興味深げにサソリの話を聞くのを眺めていた。
サソリが広げた巻物には墨で描かれた絵が描いてあった。それ自体はなんら変哲のない普通の傀儡の設計書で、これは昔サソリがまだ人傀儡を作っていなかった頃のある種思い出の品なのである。こんなものを取っておいたことがバレればデイダラに何を言われるか知れたことではないが、幸いあの爆弾魔は近くにいない。とにかくそれを一つ一つ指差しながらサソリは簡単な、しかし先ほど話に出てきたものより詳しく傀儡の説明をしていく。
「これは忍具の一種だ」
「忍具ってのは忍の使う道具な。これとか」
サソリの一撃から復活したらしい那由多はサソリの肩越しに巻物を覗き込む。そして袖からクナイを取り出してくるりと一回転させて見せた。
「器用なもんだな。で」
「おれはさっき言ったチャクラでこいつを操って戦う。それを傀儡師という」
「おう。・・・おれはってことは那由多は違うのか?」
「おう。おれァチャクラコントロール苦手だからな」
「傀儡師の中には人から傀儡を作り出せる奴がいる。といってもおれだけか。チャクラには・・・・そうだな・・・性質の違いがあってな。それで使える術って奴が変わってくるんだが、その説明は長くなるからまた別の時だ。とにかく人から傀儡を作るということはそのチャクラの性質を傀儡に宿せるということになって、本来おれのチャクラの性質からは使えない術も傀儡を通して使えるようになる」
「・・・・旦那、エースの奴寝たぜ」
「ほっとけよい。それがサソリとなんの関係があるんだ?」
鼻提灯をぶら下げて肩に寄りかかってきたエースを甲板に叩き落したマルコはサソリに先を促した。
「人傀儡ってのは本来死体から作るもんだ。何度でも修復可能、痛んだパーツは取り替えればいい」
「ってェことはもしかしてサソリ自身もそれにしちゃったとか」
「・・・話の途中で寝た割りに察しがいいなエース」
甲板に頭をぶつけると同時に目が覚めたエースは最後の最後で正解を言い当てた。感心しているのか感心していないのか、サソリの表情はいまいち何を考えているのか読み取りづらい。
「おれは人傀儡だ。痛みもなく歳も取るわけがない」
「・・・しっかしよォお前らって考えれば考えるほどめちゃくちゃだよな」
「そうかァ?おれらからすりゃ能力者なんてもっとめちゃくちゃだと思うんだけどなーだって身体が火になるとか反則じゃん」
イゾウはサソリの話を聞いてどこか呆れたようにそう言った。自分を傀儡にしてしまうというのは確かに自由を謳歌して生きる海賊達からすればどこか奇妙な感覚なのかもしれないが、毎日が海賊達以上に死と隣り合わせである忍の世界ではそこまでいってしまう方が普通なのだ。禁術で身体がボロボロになる奴や何かを犠牲にして強大な術に手を出す奴は数多いる。だがそんなことを言っても楽しいことが一番!という彼らにはわかりがたい現象だろうし、サソリ自身永久の美を真に理解するのは自分だけでいいと思っていたから特にそれ以上何も言わなかった。
「"おれ"は三代目と同じとっておきだからな。あいにく見せる予定はねェが傀儡の一つや二つなら見せてやるよ」
「あれ、そういや旦那ババァと小娘と闘って傀儡全部出し切ったんじゃねェの」
「んなこと知らねェよ。だが現におれのコレクションは全部揃ってる」
理屈はわからないが那由多の武器もサソリのコレクションも全てが全て元の位置に戻っていた。サソリは甲板に広げた傀儡の設計図を丁寧に巻き取って懐にしまうともう一つ別の巻物を取り出す。
しゅるりと紐を解いて広げれば巻物には幾千もの文字が連なって一つの模様を描いていた。
「おーなんだこりゃ」
「口寄せの術式だ」
サソリがそこに手を当てればぼん、と白い煙が立ち上り____
「のうわァッ!!!」
「うお!!」
「んだこりゃ!」
サソリの近くに寄っていたエースと那由多は突如として巻物から大量に飛び出してきた傀儡の下敷きとなった。イゾウとマルコはさっと後ろに避けることで辛うじてその難を逃れるが、巻物から飛び出してきたそれに目を見開く。
「すっげ。何これどんな仕組み?」
「これが傀儡人形か」
マルコは手近にあったそれを無造作に摘み上げた。生気のない瞳と目があってぞっとする。そういえばサソリは先ほどこれが死体から作られた人傀儡だと言っていなかっただろうか。マルコはそれを思い出して思わず手を離してしまった。
「お、いおれのコレクションを乱暴に扱うんじゃねェよマルコ!」
「わりぃよい。ちょいと気味が悪かったもんでな・・・無事か?」
「無事に見えるかふざけんな!クソッたれ一体なんだってこんな口寄せが・・・・」
それなりに重量のある傀儡の山に押しつぶされていたサソリは必死の思いでその中からはいずり出て来た。エースは一足先に炎となって傀儡の隙間隙間から飛び出し、マルコの隣に立つ。
サソリはなんとか甲板に立つと思わず手放してしまった巻物を手にとって顔をしかめた。
「どうした?」
「変だな。今ので中身が全部飛び出しやがった」
「中身?」
あれだ、とサソリは甲板に山を作る傀儡を指し示す。こんなかにあれが入ってたのか!と驚くエースとイゾウを尻目にサソリは首を傾げるばかりだ。おかしい、どう考えてもおかしい。サソリは今ので一体だけ口寄せする予定だったのだ。だが想定外に飛び出してきたのは巻物に術式として閉じ込めておいたコレクション15体。傀儡を武器とする傀儡師に最も重要なのはチャクラコントロールの繊細さであって、サソリはその点イタチをすら凌駕する自信はある。だから口寄せをして傀儡を一体呼び出す際にチャクラコントロールを誤るはずもなく、彼からすれば少々信じられない現象だ。だがサソリが驚くのはまだ早かった。すっと手を上げてサソリは指先にチャクラを集中させた。当然そうすれば細いチャクラ糸が傀儡に吸着し彼の思うままに傀儡を動かすはずなのだが、彼の指先から現れたのはあまりに太く安定しないチャクラ。少し手を動かすごとにゆらゆらと波打ち、一応は傀儡を動かせるもののその動きはひどくぎこちない。
「なッ・・・・」
呆然とし最早言葉も出ないサソリに対し、エースは別の意味で驚きのあまり声もでないようだ。
「うおおすっげェ!!おいおいおいマルコ!!動いてる!!」
「ああ・・・驚いたな」
「なァなァサソリ!あれお前が操ってんのか!?」
「は・・・・・」
サソリはエースの言葉に答える余裕すらない。砂の国でも屈指の傀儡師として名を馳せた赤砂のサソリ。それがどうだろうかこの不恰好なチャクラは。
「いってェー・・・・・・・って旦那ァァァァ!!!ちょッ!!何が起こった!?」
「すっげー!」
甲板に那由多とエースの声が木霊した。
2010/11/01