「おおおお?聞いてくれるか?聞いてくれるのかいやァありがてェ」
そういいながら飯を散々食いまくった黒髪の男は訥々と身の上話を語り始めた。
名を那由多とサソリ。話し方から察するにまだ何か話せない裏があるようだったが、まァ人間色々あるものである。白ひげ海賊団の船員とて家族にすら話せないことだってあるのだから(エースも勿論その一人だ)見ず知らずの人間に話せることなんてそうないだろう。
とにかく。彼らの話を簡単に要約するとこうだった。
とある組織に属していた二人は死んで、気付いたら海に落ちたという。
と、そこまで那由多が語って思わずエースは突っ込んだ。
「いやいやいや確かにおれらは簡単に話せっつったけどな簡単すぎるだろォォ!!!」
「そうか?おれァてっきり五十文字以内で的なノリかと」
てへっと成人男性がやっても全く可愛くない仕草でウィンクをした那由多はまァそれなら仕方ないともう少し詳しく説明をすることにしたのだった。
「まー・・・あれだな。おれとサソリはとある組織、にいたんだけどさ。そこで任務下されてあっさり死んだわけよ」
「あっさりじゃねェよ。大体チャクラ切れの上に二対一は卑怯だろ」
「あらら〜旦那、ババアだから本気出せなかったくせに〜」
「黙れ那由多」
「とまァそんな感じでお互い死んだわけだ。ここまでオーケィ?」
「いや全然OKじゃねェけどいいよ。話進めろよ」
「了解いたした。まァそんな感じであーこりゃ死んだなー・・・という感覚の後、なんと聞いて驚け気付いたら空から落下中!!いやー・・・まー空からダイブなんてよくあったけどよ。あんな高さからは初めてだ。それからてめーらの言う海賊にとっつかまりだな、内臓を売り払われそうになっていたところで今ここに居る」
那由多の話を胡散臭いと言わずして一体何を胡散臭いと言うのだろうか。そもそも格好からしてここいらでは見ないものだし彼らの話ている内容にも聞きなれない言葉がいくつか含まれている。
那由多とサソリ、と名乗った二人の話からは結局彼らが敵なのか味方なのかすら判然としなかったが、少なくとも今は敵ではないようだった。一番隊隊長として白ひげ海賊団の中でも古株としてマルコは隊員の命を預かっている身であるので、疑わしい目をずっと二人に向けているが当の白ひげはそんな二人を目の前にして少し楽しそうに見える。
「おれらがなんでここにいるのかとかそういうことは聞くなよ。おれもわかんねェんだから」
那由多はそういうと出された飯の最後に一口を口の中に押し込んで咀嚼し飲み込んだ。
「で、結局お前ら何やってんの」
「飯食ってるな」
「そうじゃねェよ」
「何って・・・基本忍だろ。つか忍以外に仕事があるのか聞きたいところだ」
「シノビ?」
「何だお前らワノクニの奴か?」
「ワノクニ?どこそれ何ソレどこの隠れ里?」
イゾウが尋ねればそれも違うらしい。お互い食い違いまくる話に首を傾げてはてどの辺りから突っ込めばいいのかお互いに迷っていた。
那由多やサソリからすれば自分達は一応各国から目をつけられるほどの犯罪者。ここが何処の国か知らないがそうそう簡単に素性を明かすわけにもいかず暁のことも適当に誤魔化すしかない。エースたちからすればそもそも海賊を知らないという時点で論外で、何から話をしていいのかわからないのだ。
「あのさあのさ、正直おれらも今ここがどこかよくわかんねェからちょいちょい説明してもらえると嬉しいんだけど?ところでそっちのでっかいおっさん、誰?」
「グララララおもしれェ餓鬼どもじゃねェか!いいぜ、何が聞きてェんだ?」
「おう、そんじゃーなーまず海賊だな。んでここがどこなのか。あ、あと木ノ葉がどこにあるかも教えてちょ」
「木ノ葉?なんだよそれ?」
「えー・・・お前ら火の国は有名だろうよ。何処の奴でも知ってるぜ、好きか嫌いかは別として」
「ワノクニ、じゃねェんだろお前らが言ってるのは」
「ちげェって火の国」
エースとイゾウは一度顔を見合わせると首をかしげた。だが、このまま問答を続けても意味がないことは確かなのだ。だからイゾウは全員を代表して那由多の問いに答え始めた。
「わァお。おれ様びっくりかも」
「驚いたな」
どこが驚いているのかはよくわからない表情だが、彼らはイゾウの話を聞いてからしばらく沈黙したままとなった。海賊やらなんやらとこの世界では基本的なことから話をはじめたわけで、それが終わる頃には集まっていた隊員達もそれぞれの仕事に戻り、残ったのは白ひげとイゾウとエースとマルコだけとなる。
「んじゃお前ら犯罪者なわけだ」
「ま、ありていに言うとそうだな」
「どーりで血生臭いと思ったぜ、いやそれはいい。じゃここじゃ忍も隠れ里もないっと」
「ああそういうことになるな。ただワノクニには忍や隠れ里といった風習は残っているが__」
「おれらの知ってる奴とは全然違う・・・ってな」
那由多は肩をすくめた。
ここは本当に別世界だった。グランドライン、大海賊時代、忍などほとんど誰も知らない。那由多の知ってる世界は忍を中心に世界が回転しているようなものだ。隠れ里と忍の質がその国の実力を示し、いたるところで戦争が起きる。戦いが多いという点ではこの世界とあまり大きな差はないようだったが、彼らはチャクラとはまた違った方法で戦うというのも興味深い話だ。
「旦那ーどうするよ」
「・・・ようするに、だここはおれらが知ってる世界じゃねェんだろ。だったら話しても追ってくる奴なんざ誰もいねェよ」
「嘘ついてないって保障は?」
「お前はもう少し人を観察しろ。ここまで綺麗に嘘を隠しとおせる奴なんざいねェよ。数が多くなればなるほど嘘を隠すのは難しいぜ」
「旦那どんだけ人間観察好きなんだよ」
サソリの言葉にぞっとしたのか那由多はぶるりと身体を震わせた。元からサソリは人間を見抜くのが得意だ。傀儡の材料として、というのもあるがそもそも傀儡師は接近戦に弱い。だが弱いからと言って必ずしも敵との距離を取れるとは限らず、万が一接近戦になってしまった場合、傀儡師が勝つためにはどれだけ敵の動きを先読みできるかということに限る。実際サソリは暁内ではそう体術が得意な方ではないのだ。勿論彼の場合接近戦でも自分を傀儡にしているからそうそう負けることもないが、純粋な体術だけでは最弱といっても良いかもしれない。
見て、相手が何をしようとしているのかを知る。それに先手を打って傀儡を動かせば傀儡師といえども体術のエキスパートにすら勝つ確立は充分にあるのだ。それが天才と名高いサソリならなおさらだ。
だから彼が嘘をついていない、というなら本当なのだろう。何人いようと彼には関係ない。一つ一つの小さな動きまで見逃さず確実に次へ繋げることが可能だということを、暁内ではもっとも身近にいた那由多が一番よく知っていた。推定年齢五歳の頃サソリに拾われ暁に入った那由多は、基本サソリとずっといたのだから。
「んー・・・じゃ次はおれらが話すとしますか。何からがいい?」
「なんでもいいぜ。じゃ忍ってやつから聞きてェな」
屈託のない笑顔でエースと名乗った青年はそういった。
あ、こいつとは気が合いそうと那由多はこっそり思った。
「忍者、隠れ里・・・でお前らも犯罪者っと」
「おうよ。んでもってつい先ほどおれは爆死」
「おれは核を貫かれて死亡」
「クグツ?だっけか。クグツって何だ?」
「おれの武器だ。あー・・・・人形みたいなもんだと思えばいい。それを操って戦う」
「チャクラってのはなんだよい」
「お前らのとこで言う覇気みたいなもんだ。おれらはそれが主力だな。能力者じゃない」
「へー面白いな」
「おれらからすればお前らの方がすんげー面白いけどな!」
那由多の話が終わる頃にはすでに日が沈みかけていた。しかしそこにいた連中は誰一人として動かず那由多やサソリの話に聞き入る。
「あ、ただチャクラに関しては推測な。イタチがいればもうちょいわかるんだけどよー・・・おれらもチャクラっつっても目に見えねェから」
「ああおれらも覇気ってなんだっつわれてもな、説明できねェしなんとなくでいいさ・・・・・・ふーつーことで大方終わったわけだけど結論まとめていい?」
「ご自由に」
「おれらはここの世界の奴じゃ、ない!!」
「突飛な結論だよい」
マルコはそう言ってみたものの、実際那由多の結論がそう突飛でないことはわかっていた。
世界があまりに違うのだ。例え彼らの世界がグランドライン上のどこかにあるとしても、能力者も海賊もましてやグランドラインそのものを知らないとはあまりに考えがたい。世界政府、海軍が樹立してからもうかなりの年月がたち、新世界を除きほとんどの島が国が政府の知るところとなっている。勿論新世界にはまだまだ未知の世界が広がっていることは確かだったが、それでもここまで話が食い違うとなるとどうもおかしかった。
「でな仮説なんだけどよ、おれらのとこに時空間移動忍術って奴があるのよ。あ先言っとくぞ何って聞くなよ!おれもわかんねェから」
「・・・・」
先手を打たれてマルコは黙った。
「でなよくパラレルワールドって奴があるじゃん」
「異世界って奴だな」
「おれそれだと思う」
那由多は真面目な顔をして言った。
頭がおかしいのか、世界がおかしいのか。最早何がなんだかわからないが、少なくとも那由多の言うような異世界と時空間移動という観点から考えれば彼らと自分らとの話の食い違いなども一切合切説明できてしまう。説明と言っても異世界から来ました、で終わりなのだが。
並行する世界の中の一つに自分達は生きている、ということだ。それが何らかの原因で交差して向こうの世界から紛れ込んでしまった、彼らはそれが自分たちなのだと言い切る。
「グララララ面白い奴だな那由多」
「あんがとー白ひげもでっけェな!」
身体が、というだけではないだろう。那由多の突飛な発想と言葉と全てを否定せずにそう言えるだけの器が、ということが那由多の言葉の中には含まれていた。
「で異世界からのお客サマはどうする気なんだ?」
エースが言えば那由多とサソリはぴたりと動きを止める。
どうする、と言われてもまさか当てなどあるはずもなかった。なにせ向こうでも居場所なんてものはほんのちっぽけな部分しかなかったというのに、異世界だと考えられるここで彼らに用意された場所など端からない。生きろ、と言われても通貨も戦い方も何から何まで違うのに生きれるはずもない。というかまず船の動かし方がわからないのでここを出て行くことも出来ない。
「やっべ何も考えてなかった」
「お前の場合いつもそうだろうが馬鹿野郎。だが確かに困ったな。デイダラがいねェから飛んでくこともできねェ」
「走ってく?」
「チャクラ切れだ」
「おれもー」
「親父、」
「グラララララ本当に飽きねェ奴らだな!いいぜお前らおれの船に乗っておれの息子になれ!」
「はっ?ちょいまちちょいまち、おれら犯罪者」
那由多は白ひげの言葉に呆けた顔をした。サソリも予期していない言葉にぽかんとしている。
「おれらだって世間のはみ出し者だ。それにエースの奴はすっかりお前らが気に入っちまったみてェだしな。場所がねェならおれがお前らの居場所をつくってやる。今日からここがお前らの家だ」
「・・・白ひげッ・・・・いや親父ィィィ!!!やっべェ惚れる!!!おれってば一生着いていっちゃう!!!」
「・・・・世話になる」
生きてこの方、リーダー以外の人間からこんな言葉をかけられるのは始めてのことだった。いやリーダーですらどこか世界に押しつぶされそうであって、お互いが支えなければ生きていけなかったというのにこの白ひげという男はどうだろうか。たった一人でこの世界のはみ出し者にあっけなく場所を与えた。仲間ではなく息子と血まみれの彼らを呼ぶのだ。これに惚れずして誰に惚れるというのだろうか!
そんなわけで白ひげ海賊団のメンバー入りを無事果たした二人の行く末やいかに。
新たな場所で彼らは新たな生を与えられたのだった。
2010/10/29