「いまーわたしのーねがーいごとがーかなうなーらばーつばさがほしィィィィィ!!!!!!!おいこらちょっとまてまじでまじでまじで旦那旦那旦那おれら落ちてね!?やばくね!?」
「うっるせェよ黙れ禿!!!」
「禿てねェしッ!!」
耳元で唸る風音に負けないように怒鳴れば赤髪の少年もやはり同じように怒鳴り返してきた。といってもその内容は下品な言葉の応酬であったが。
さてここいらで状況を説明しておこう。
今ここにいる一人の青年と少年。旦那、旦那と呼びかけた声の主がおおよそ19歳くらいの男性。黒い髪は適当に切りそろえられ左目の縁から耳まで縫い跡が特徴的だ。それ以外何かあるかと聞かれれば特に何も無い。ごく普通のごく一般的なまァ強いて言えばそこそこ美男と呼ばれる分類に入る方だろう。名を那由多という。つい先ほど我愛羅を救出に来た木ノ葉連中を巻き込んで爆死したのはこいつである。
そしてもう一方。今度は旦那と呼びかけられたほうだ。まず一番に目に付くのは真っ赤な髪。血に染めたというのは言いすぎだが、まるで夕日のような鮮やかな紅。そして白い肌だろう。これでも一応男である。見た目は15歳ほどだろうか。美少年という呼び方が実にふさわしかった。名をサソリ。
はてさて先ほどから那由多が叫び続けている理由は勿論、御察しの通り二人は現在落下中なのだった。ものすごい勢いのせいで耳が千切れそう!と那由多が悲鳴を上げればサソリはうるさそうに耳を塞いだ。とはいえ一番うるさいのは風の音だからサソリのその態度はもう話しかけるなという拒絶の意味を含んでいるのだろう。
『ってかおれら死んだんじゃねーの?』
『話しかけるな』
『ちょっつれない旦那つれない。那由多困っちゃう』
『一遍死ね』
『だからもう一遍死んだっつーの』
この暴風の中で怒鳴るだけ無駄だとようやく悟った馬鹿一人。読唇術を使ってサソリに話しかけるが結局返ってきたのは暴言。風に言葉に先ほどから痛いものばかりだ。
『おい、おいおいおいおいおいおいほら見ろほら見ろ!!下下下下!』
『あァ!?下って・・・・もうどっちが下かもわかんねェよ』
『落ちてるほうだよ馬鹿じゃね旦那』
『いや案外何かに引き寄せられてるのかもしれねェ』
『旦那あったまいー』
残念ながら今回ばかりは那由多が正しく二人は頭からまっさかさまに落下中だった。そして下というのは勿論頭の方であり、とりあえずサソリも言われるがままに那由多の指す方向を見ればなんとも美しい青い世界が広がっている。
「あーああー!!!ついにおれらは青の世界へダーイブ!!!」
叫んだ瞬間、激しい水柱が立ち上がった。
「ぶほっ塩辛!!こりゃ海だな!!海か!!おい旦那ァ〜おれ海なんて泳いだことないんだぜ!」
「知るか!!そんなことより傀儡が錆びるのが問題だ!!早く__」
「おーい二人とも大丈夫かァ!?」
「お、人だ!!へーいもしもしそこのお方!?おれら助けてくんね〜!!」
「わかった!!ちょっと待ってろよー!!」
口の中に入り込んだ塩辛いもの。思わず飲み込んでしまい那由多は思い切りむせ込んでのどの奥に入った海水を吐き出す。隣を見ればやはりサソリも同じように思い切り水を吸い込んだようだ。とはいえ彼は傀儡だから大した問題ではないだろうが、錆びる錆びると先ほどからうるさい。果て困った、とナユタが思った瞬間背後から声をかけられそちらを振り向けば一隻の船。那由多が知っていた場所ではあまり見かけないタイプの、帆船というやつだろう。那由多はあまり船に乗ったことがないのでよくわからない。とりあえず手を振って助けを求めれば待ってろよ〜という気のいい返事が返ってきたので二人はきちんと待つことにした。しかし今まで人の言うことを素直に信じるなんてことをしたことがなかったものだからなかなかこっぱずかしい。だが今は自分で海から脱出するのもめんどくさかったので素直に言葉に応じた。
「いやー悪いね兄ちゃん助かった」
「ああ気にしないでくれ。それよりさっき空から落ちてきたみてェだったがなんだったんだ?」
「いやおれもわかんねェのよそれが。あんま聞かないで」
「そうか」
そういって那由多とサソリを引き上げてくれた男、那由多が兄ちゃんと呼んだがまさしく兄ちゃんにふさわしい年代のその男は陽気に笑って見せた。
「んんん・・・にしてもこの船は鉄くせェな。なんだよ漁船か?ここで魚でもさばいてんの?」
「あ?あ、ああそうなんだ。も、持って帰る前にさばいて必要な分は冷凍保存するからよ・・・」
那由多が甲板に船にこびりついた血の匂いを指摘するとその男は突然焦ったようにどもりながら言葉を返した。明らかに何かを隠しているな、しかも縁起がド下手。評価はH(HETA)。と心中勝手に評価(しかもその評価基準もめちゃくちゃで判定もめちゃくちゃである)を下して再び船を見回す。サソリは錆びる錆びると相変わらず言い続けており船の観察どころではないらしい。
(・・・・骸骨。んだありゃ)
船の一番高いところには旗が掲げられていた。黒地に骸骨。その背後には骨が十字に組み合わされている。黒地に赤の雲模様だったら暁なんだけどなァとどうでもいいことを思いながら那由多はそのマークの意味を考えていたが結局何も思いつかなかった。ナユタが知っている限りあんな奇妙な旗を掲げた里も国もなかったから、もしかしたら暁同様どこかの犯罪者組織なのかもしれない。まァどうでもいい。
渡してもらったタオルでごしごしと顔を拭いて口の中に残っていた塩を吐き出してさて、と顔を上げた。
「なァ兄ちゃん。この船は何処行くんだ?」
「今のところどことも決まってねェんだ。あいにくログポース任せだからな、次の島の名前もよくわかんねェ」
「へー」
聞きなれない名前はこの際スルー。とりあえず話を続けてみる。
「悪いんだけどさおれら二人どっか陸につくまで乗せてくんねェかな。あ、仕事するぜ。何でも言いつけろよ」
「そうか?ならちょいと頼まれてくれるか?」
「おう任せとけ!!」
ガッツポーズを作って見せた那由多に兄ちゃんはにやりと薄く笑った。何か裏があるな、と感づきながらも黙ってにこにこと笑顔を浮かべたままその兄ちゃんについていく那由多、とサソリ。
そして
気付いたら。
「あれおいおれ牢屋ん中?」
手錠つきで捕まっていた。
「あっはっは随分と間抜けた兄ちゃんだな!!」
「髑髏のマーク見て何も思わないなんざてっきり肝がすわってんのかと思ったがなんだしらねェのか!?ドンだけ平和な世界にいたんだよ」
「えええええええチョイ待ち兄ちゃん。何。髑髏って何」
「へェホントに平和な国の出なんだな。いいぜ最後だ教えといてやるよ。今は海賊王ゴールド・ロジャーが作り上げた大海賊時代。十字の髑髏といや死の象徴、つまりは海賊の印さァ!!血の匂いがするなんていうからよォてっきり気付いたのかとびびったじゃねェか!!」
「海賊ゥ?何それ抜け忍じゃなくて」
「ヌケニン?何言ってんだ頭おかしいのか?まァ安心しろよ。おれらはおまえさんらの脳みそに用はねェんだ。見たところ臓器は丈夫そうじゃねェか。そんなかわいそうな頭にくっついてるよか臓器だって他の人に使ってもらった方が幾分清清しいだろうよ!!はっはァ!!!」
「ええええええええええええええ」
キーボードを間違って押し過ぎたときのように那由多の口から出た言葉は「え」だけだった。とりあえず言っている意味がわからない。大体海賊ってなんだ。鬼鮫なら知ってそうだがあいにく内陸国育ちの那由多には縁の無い言葉で、大体海なんて砂浜でちょいと遊んだことがあるくらいだ。(ちなみにあのときは地下数十メートルまで穴を掘って飛段を生き埋めにした。ちょっと面白かった。)というよりロジャーって誰だ。死の象徴ってなんだ。山ほど疑問が頭の中に渦巻いてうっかり自分達が臓器をとられて売られそうになっているということはすっかり頭からぶっとんだらしい。手にはめられた手錠をぶんぶんと振り回してみるがあいにく簡単に取れてくれそうにない。サソリに助けを求めてみるも彼は相変わらず錆びる錆びると連呼するばかりで役に立たなかった。
「ちょっと待てェェェ!!何何々何が起こったおれはどこここはだれきみはそこあそこはきみ!?」
「落ち着け兄ちゃん。何すぐ殺すわけじゃねェさ。海の上で殺しても需要なんざねェ島で買い取り手を見つけたらかっさいてやるから安心しろよォ」
「うおおおおおおおおお」
海賊、と自称する連中はどうやら那由多がこれから殺されるということに気付いてテンパッていると思い込んだらしい。げらげらと下品に笑って(飛段でももう少し上品な笑い方をした、ような気がした)手錠で動けない那由多の頭を檻越しにぽんぽんと撫でて船の最下部に用意された牢屋から出て行った。
「旦那旦那旦那!!ここどこだよ霧隠れ!?ちげェよな!?あんな隙丸出しいつでも殺してください万全準備オッケーみてェな奴らが霧の忍じゃねェだろォ!?ここどこォォォ!!!?」
「錆びる錆びる錆びる錆びる」
「ちょ、旦那ぁぁ・・・・・」
こちらを一目も見ずにぶつぶつと呟き続けるサソリに那由多は情けない声を上げた。
飯が定期的に運ばれてきてそれ以外はゆったりと波が船底に押し寄せる感覚を享受するだけの生活。とりあえず状況は何にもわからなかったがふむなかなか落ち着いていて良い生活じゃないか、と那由多が思い始めた矢先だった。
突然壁をぶち破り那由多の頭を掠めて鉄球が飛んでくる。その風圧にぶぼっと情けない声をひねり出して床にぶっ倒れた那由多は開いた穴と飛んできた鉄球を交互に見回した。
「うおっびっくりハプニング!!何の予兆だこれ。おーい旦那ー・・・・やべェ旦那がマジで錆びたかも」
船に乗ってからぴくりとも動かないサソリに那由多は恐る恐る声をかけた。だがサソリからの反応なし。「いやん無視!?那由多泣いちゃう!」なんてふざけてみてもノーリアクション。
さすがに焦った那由多が「油ァァァ!!!」と叫ぼうとしたときだった。食事以外は静かだった牢の中にこの船の所謂海賊達がいきなり入ってきて那由多とサソリの腕を掴んで外に引っ張り出す。
「あらやだもうお時間?」
「ッるせェッ!!!てめェらは黙っておれらの盾になりゃいいんだ!!」
盾ってなんだーと突っ込まれる暇もなくよくわからない筒を頭に突きつけられて那由多はなんとなく降参のポーズをした。ふと振り返るとサソリが今だ部屋の隅に座ったままで男達が結局腕を持ってずるずると引っ張ってくるのが見える。
「動くんじゃねェ!!!これがみえねェか!?」
甲板に持ち上げられると久々の太陽光が目に眩しい。うおーと意味のわからない奇声を上げながら目を瞑った那由多に男はぐりぐりとその筒(銃)を突きつけていた。
「はァ?お前らなァ・・・おれらは海軍じゃねェんだぜ人質とったぐらいで逃げられると思ってんのか」
「最初からおれらと戦りあいたくなけりゃ親父の島に手つけるんじゃねェよ」
甲板は血で溢れかえっていた。死んだものまだかろうじて生きているもの、そしてその中央に立っているのは二人の男だった。一人はテンガロンハットを被り上半身にはシャツを一枚羽織っただけ。そしてもう一人は和服を纏い長そうな髪を結い上げた、こちらも体格から男だろう。そいつは今那由多に突きつけられているのと同じ筒をこちらへ向ける。
「なー兄ちゃん。おれのこと離さねェ?あいつらおれごとまとめて殺す気まんまんじゃん。おれ死ぬ気ねェんだけど。つか一遍死んだし」
「う、うるせェ!!!てめェは黙っていやがれェ!!」
ヒステリックに叫ぶこの船の主。あーようするにこれは圧倒的実力差の前にビビッているという奴だろうな、と那由多はどこか冷静に考えていた。ちらりと男の手元を見れば何が棒のようなものに指がかかっている。がたがたと震える指が今にもその小さな棒に触れそうだった。
(むーん・・・怪しいぜ。こりゃようするにあれをどうにかしたらこれがどうにかなるとかそういう展開か?)
とちょっとかっこよさげに考えてみるも何もわからなかった。だがこれを突きつければ脅しになると考えているところを見るとどう考えてもこれは自分を殺すものなのだろう。
殺されるのも、めんどくさい。
臓器引っ張り出されるのも、めんどくさい。別に那由多は飛段のように自虐趣味はない。
そして捕まっているのもめんどくさいや、と那由多が思った瞬間、那由多に銃を突きつけていた男の腕がふっとんだ。
「!?」
「なんだ!!」
「にーちゃーん。手錠ってのはな忍にはあんまり意味無いんだぜ。知ってた?」
海賊白ひげエドワード・ニューゲートと言えばこの大海賊時代においても一目置かれる存在だった。モビーディック号という白い鯨を模した船首の船を足にする彼らは偉大なる航路の様々なところに領土を持っており支配している。だがその支配というのも名だけ。時に補給に立ち寄ることはあれどほぼ放置であるそこは、むしろ白ひげの名によって他の海賊達から守られていた。
そんな白ひげの領土に手を出した無謀な海賊こそが那由多とサソリがあっけなく捕まったあの海賊船で、ついに追いついた白ひげ海賊団は今その制裁を下そうとしたところだった。乗り込んだイゾウとエースによりあっけなくその海賊船が沈みかけたとき、地下から連れて来られた人質らしき連中。海賊とはいえ一般人を巻き込むのはあまり趣味じゃない。が、人質というにはあまりに不遜な態度の二人にイゾウとエースは実力者だろうとあまり気にすることなく挑発をした。
そして次の瞬間だった。二人のうちどちらも攻撃など仕掛けていないというのに黒髪の男に銃を突きつけていた船長らしき男の腕が突然消えた。いや切り落とされた。背後のモビーディック号から見ていた隊長たちの中からもざわっと声が上がったのがわかる。
ぎゃあああああッ、と叫び声を上げて転がる男。先ほどまで手錠をつけられ人質のように振舞っていた黒髪の男の手にはいつの間にか一本の刀。そして手錠は甲板に転がっていた。
「あああああめんどくせー!!!旦那ァ!!何これぶっちゃけ全然状況がわかんねェんだけど!!」
「錆びる錆びる」
「うるせェよ!!」
「あァ!?おれにはな死活問題なんだ黙れ!!」
「だ、黙るのはてめェだ!!」
銃を突きつけられている十五歳くらいの赤髪の少年も人質というにはやけに落ち着いていてむしろそれが逆に怖い。赤髪の少年に銃を突きつけていた男は黙らせようと引き金に指をかけたが、突如として血を吐いた。
「アッがァッ、ぐぅおああああああああ!!!」
銃を取り落とし断末魔の叫びを上げる。喉をかきむしっているところを見ると毒だろうか。
だが先ほどから何が起こっているのかさっぱりわからない。
「うるせェよ」
少年の手の中で何かが光った。がそれはすぐゆったりとした袖の中に消えてしまい残ったのは白く未発達の小さな手だけ。エースとイゾウは思わず顔を見合わせる。
「あーもう陸に着いたら皆殺しにしようと思ってたのになんだよこの状況。何何々おれらにこの海で餓死しろと?ヘイ!!そこの兄ちゃんズ。おれらに飯を恵んでくれ」
血まみれの刀を持ったままびしりとエースを指差したその男。能天気な笑顔を顔に浮かべていて先ほど目にも見えぬ速さで抜刀し挙句顔色一つ変えずに腕を切り落とした男と同一人物には見えなかった。
「おいイゾウ」
「ああ__」
「グララララ面白いじゃねェか。いいぜ乗って来い」
「「親父!!!」」
「あァ、構わねェさ」
突如現れたのは角都や鬼鮫の身長ですら遥かに超すであろう男だった。胸に見える大きな傷跡は何がしかの戦いを乗り越えた猛者ということだろう。
あっさりと乗れ、といった白ひげにエースとイゾウは多少の不満が残らないでもなかったが敬愛する親父がそういうならしょうがない。
来いよ、と血の海に立つ二人を手招きすると特に黒髪の男はスキップでもしかねない陽気さでエースの方に飛んできた。
血まみれの刀はもうどこかに消えていた。
2010/10/29