セックスしないと出られない秘境
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 テイワットに点在する秘境と言うものは、その成り立ちによって大きく二つに分類される。一つは魔神戦争よりもはるか昔、龍の七王が支配するよりもさらに前に作られた祭壇としての役割と果たすと考えられるもの。もう一つは時代が下り、魔神や仙人たちあるいは実に強大な力を持つ一個人の人間がなにがしかの目的をもって、あるいは戯れのように作り出したものである。形状が似ているのは後に作成されたものが先に作られたものを真似することが多かったからだ。時代が下れば下るほどその形状も多様になっていくが、今はその歴史については置いておく。
 スメールの砂漠地帯にも秘境は非常に数多く存在している。ひとたび人が迷い込めば時に命を奪いかねない非常に危険なものから、全く持って無害なものまで、秘境の在り方は実に様々だ。(無害すぎる秘境は時に子供の秘密基地になることもある。)これらの秘境は冒険者協会が管理し、その調査を行うことが多いが、スメールでは学術研究絡む場合においてこの調査をマハマトラが担うことも多かった。
フィネフェル
「さほど古いものではない。装飾などから考えるにキングデシェレト文明の頃に作成されたものだという。学者の残した記録によれば、この部屋の中に研究結果を隠し置いているらしい。秘境に関してはその脱出条件も含めて口を割らなかったが、秘境の出入り口と思しき部分に複数の、デシェレト文明時代の言語で二人一組の入場を指示している、というのがアーラヴから上がった情報だな」
「要するに何もわからないということだな」
「だから俺たちが呼ばれたんだろう」
 セノは大きくため息をついてから、秘境の入り口を示す石門を撫でた。
 遺跡の奥深く、さらに隠し戸によって隠されたその小さな部屋は今でこそ朽ち果てているが、部屋中に華美な色彩による様々な装飾が施されていた痕跡がある。まるでこの秘境に入る為だけのようにデザインされた部屋のようであった。部屋自体は狭く、大勢の人間がたむろする場所ではない。せいぜい三人あるいは四人、二人で活動するのがちょうどよい広さであることを考えると、この部屋の装飾には本来この秘境の目的などが記述されていた可能性がある。塗料ははげ落ち、今や石に刻まれた文字だけが秘境の在り方を示しているのがなんとも嘆かわしい。
「どう見る?」
「変数が多すぎる。推測するにもそれはただの憶測にしかならないな。十分に注意して入るしかないだろう。フィネフェル、俺の後に続け」
「わかった」
 教令院の大マハマトラと補佐官が派遣されたのは、この二人が神の目の持ち主だからである。秘境の多くは元素力を行使してその秘境に隠された秘密を暴くものも多く、また秘境に充満する地脈の異常が神の目を持たない人間には強く影響しすぎることもあり、こういった秘境の調査は大マハマトラの仕事の中でも重要なものの一つだ。特に今回はこの秘境の中に証拠となる資料の保管がされている裏付けが取れていることもあり、冒険者やその他の者を雇って調査させることもできない。
 秘境の中はあまりにも予測できない世界だ。何を準備するにも諦めて飛び込むしかない。秘境調査についてはすでに草神クラクサナリデビに報告を上げており、一週間以上戻らなければ何らかの対策を講じることもすべて承知している。あとは自分たちの力量不足でうっかり命を落とさなければ一週間後には出られるだろう。
 セノは手荷物を簡単にチェックしてそのまま秘境に触れた。一瞬、秘境の入り口がセノの姿を大きく映し出しそして鏡面が揺らいだと思うとセノの姿はそのまま溶け込むように消えてしまった。フィネフェルも同じように秘境に触れてその深淵に飛び込む。目を瞑っても瞑らなくてもどの道何も見えない。時には恐怖を再現することすらあるのでどの選択肢をとっても失敗する時はする。
 秘境の内部は製作者の様々な思惑によって左右されるため固定された形式と言うものは存在しなかった。フィネフェルは自分の視界が戻ったことを確認するとまずセノの姿を探した。セノはフィネフェルの少し前を歩いており、すでに秘境の中を見聞している様子である。
 フィネフェルも簡単に秘境の中を見渡して、この場所が動いても即死のトラップが用意されたような場所でないことを確認した。簡単に見渡した限り、夜空に浮かぶ月に照らされた浮島の上という印象を受ける。部屋の中央には寝台らしきものが一つ、大きな木と水をたたえた泉が一つ、その他こまごまとしたものがいくつか点在しているがその細部までは一目ではわからない。
 フィネフェルより先に秘境の全貌をとらえていたセノは、小さくうめき声をあげる。
「七面倒な……」
「セノ?」
 セノはフィネフェルに顎で部屋の中央の寝台とそこに添えられた石碑を指し示す。
 古い文字だ。キングデシェレト文明の当時のものでさすがにセノもフィネフェルも一目では読み解けない。某書記官の話によればすべての若者は教令院卒業までに二十の言語を習得するというが、残念ながらその言葉は真実でもあり虚偽でもある。主語や挨拶、頻発する文面を理解することはできてもその細部を読み解くことができるのは知論派のごく一部の学者に過ぎないだろう。セノもフィネフェルもさすがに教本が必要だった。ただ、この石碑に書かれた文字は一つではない。大本となった文章の脇、あるいは石碑の横、そういったところにいくつもの文字が刻まれている。おそらく時代を重ねながら誰かが翻訳を繰り返しているのだろう。見慣れた文字も含まれており、その文面はセノとフィネフェルにも一目で読み通せた。そして絶句した。
「……フィネフェル、この場合性交は何を意味すると思う?」
「……射精までか?」
「男性同士の場合挿入する側はいいが、挿入される側はどういう判定になるんだ」
「そこまで聞かれても困るな」
 二人はそこまで話をして、大きくため息をついた。怒りか、あきれか、混乱か、処理しきれない状況に追われて瞼がひくついている。秘境脱出の条件として突き付けられたものから意識が飛んでしばしの現実逃避の後に、二人は迅速に動き出した。
 まず第一にしなければならないのは翻訳である。石碑の文字は複数の言語で翻訳されているようにも思えるが、そこに誤訳がないとも限らない。可能な限りすべての言語を照合しなにがしかのヒントがないか探るべきだ。そして同時にこの秘境にやってきた目的を果たさなければならなかった。幸いにしてこれはさほど時間がかからず、セノは秘境内を探索し学者の残した資料を発見した。次に秘境のほころびを発見することである。特に後世に作成された秘境にはポケットのように特殊な環境下で突然抜け落ちるように脱出できる場合がある。現実との整合性が取れない結果なのかもしれない。そのほころびを発見することができれば秘境の脱出の条件を満たさずとも脱出できる可能性がある。
 二人はこれを手分けして調査することになる。セノが秘境内の状況を一通り調査する間、フィネフェルは石碑にかじりついて文字を解読していく。幸いにして普段持ち歩いている手帳には、言語を照合するに必要ないくつかの情報は記載してあった。遺跡探索には時として古代文明の文字の読み解きが重要になってくるからだ。三十分ほどの調査の後に役割を交代することにして、そして交代を繰り返し半日後には二人は沈黙のまま床に腰かけていた。
 秘境は空中に浮かんだ浮島のようである。二人が座っている場所は明確に足場があるが、もともとこの足場は水に浮かんでいるものらしい。つまり土台となる浮島があり、そこはどのような形でか水で満たされている。その水の上にもう一つ足場を置いて今の形を作っている。水は浮島から流れ落ちて虚空へ消えていく。土台から下を覗いてみたが暗闇が広がるばかりでその先に何があるのかはさっぱりわからなかった。小さなものを落としてみると代わりに中央の寝台の上にぽつんと落ちてきたので、この空間はループしているらしい。この空間にあるものは中央の寝台と石碑、それから引き出し、木が一本だけ生えている。木の根元には大きなうろがあり、形状的にここが出口になりそうにも思えた。だが、結局何もない。木の根元には水が広がっており、美しい水が湧き出ている。引き出しの中身は見たくなかったが、潤滑油その他のものが置かれてり、とりあえず手に取って見聞してから戻した。石碑を翻訳するまでもなく、つまりそういうことなのだろう。
 石碑の翻訳は幸いにして簡単に済んだが、中身は簡単にはいかない。結局この秘境の出口を生成する条件は性交なのである。石碑の文字にはジンニーを呪う言葉が時々散らばっていたため、どうやらここはジンニーが作ったものと考えるのが妥当のようだ。
 秘境の中を調べる限り、ほころびは見受けられない。二人は顔を合わせるのも気まずく沈黙したまま床の一点を見つめている。口をきゅっと結んだままの沈黙がしばらく続いたがその先に口を開いたのはセノの方だった。
フィネフェル、挿入する側とされる側どちらがいい」
 こういった場面で思い切りがいいのは大抵セノの方だった。自分の知識を最大限駆使してこれ以上ないほどこの秘境を調べつくしたということはセノ自身が本当によく理解している部分なのだろう。だから、もうこれ以上調査するよりも早急に資料を持ち帰りたいのならばセックスをした方が早いのだと、セノの中では結論が出たらしい。
「セノ……」
「さっさと資料を持ち帰りたい。次の仕事もある」
「あのな……」
 思い切りと割り切りのよさはセノには叶わないとフィネフェルは自覚している。だからもう少しだけ悩みたい気持ちはあったが、セノの心はすでに決まっているようだ。
「俺はどちらでも構わないと思っているから、そうすると俺がされる側に回った方がいいか?」
「嫌だ」
「なら俺が挿入する側か?」
「絶対に嫌だ!」
 フィネフェルの口からついて出たのは思っていた以上に強い言葉だった。喉から絞り出したような、半ば怒声に近い声に脳を揺り動かされたのは、自ら発言したはずのフィネフェルの方だった。思わずと言った様相で口に手を当てる。目を大きく見開いてセノを見ると、セノは口をへの字に結んで、目を細めた。
「嫌なのはわかるが」
 そこでセノは口をつぐむ。先ほどよりも威勢もなく、しゅんと落ち込んだ様子のその姿を見てフィネフェルは慌ててセノの手を取ろうとする。だが、セノは反応しない。
「セノ」
 フィネフェルは大きく目を見開いて、セノの手に触れればその手は小さく震えていた。
「嫌ならいい。もう少し方法を探そう。一週間待つのも手だ。だが先ほど学者の研究資料を見聞した時、この研究はもう一つ別の研究に繋がっている話が記載されていた、加えてそっちには犠牲者が出る可能性がある。早く、この資料を表に出したい。だから、俺はあと二時間調査したうえで何も発見できなければお前を叩きのめしてでも条件を遂行してもいいと思っている。それはできればしたくないが、覚悟しておけ」
 冷たい声だった。しかしフィネフェルはセノがこういった淡々とした事実を突きつけるようなことを言い出すのはセノ自身がショックを受けているときであると知っている。怒りではないのだ。ショックを受けたから、平静を保つために言葉から平静さを取り込もうとしているのだ。
 セノは立ち上がろうとする。その手に縋ったときフィネフェルは泣いていた。思わずして感情が溢れて、セノの言葉を大きく拒絶してしまったけれども、実際のところその言葉の真意はそこにはない。早く否定しなければと焦れば焦るほど涙が止まらなくなる。セノのことが嫌いなわけではないのだ、決して、決して、決して。
「セノ、待って、お願いだから待って」
フィネフェル時間がない」
「違う! 嫌なんかじゃない!」
「……」
 悲鳴のような言葉は散逸した。どこまでも跳ね返ることなく虚空に消えていく。
「嫌じゃない、セノ。俺は……嫌じゃないんだ、むしろセノを、」
 抱きたいと思っている、と言う言葉はしりすぼみになって消えていく。セノの体が動揺するように一つ、震えたのがわかった。
「抱きたかった。ずっと。セノのことが好きだった。セノを抱いて全部俺のものにしたかった。でも俺はセノを犯したいわけじゃないんだよ。セノが受け入れてくれて俺のこと好きだって言ってくれて、それでセノが許してくれたら、って思ってた……だからこんな強制されるような形で、同意じゃなくて理性で、なんて、嫌だ……って」
 ごめん、とフィネフェルは言ったきり俯いてそれ以上何も言わなくなる。片手でセノの手を握ったままだったけれども、顔を見るのが怖いとでもいうように足元の石畳を見て唇をかみしめている。
 フィネフェルの頭をセノの手が撫でる。
フィネフェル、すまなかった。お前はそういう風に思っていたんだな。俺もお前のことが好きだよ」
「……」
 嗚咽と涙の合間でフィネフェルは何かを言おうとしたが言葉にならない。
「俺は、お前のことが好きだよ。それはお前の出自に関係しているものじゃない。性愛を伴ったものなのかはよくわからなかったが、でもお前が俺をそんな風に見ていたと知って、それならいいかと思った。お前は……俺を抱きたいんだな」
「……うん」
「ならさっさと準備してくれ、あ、いや、俺が準備するのか?」
「俺がやりたい……」
「わかった」
 セノがフィネフェルの手を取って立ち上がらせる。兜だけを脱いで、セノはフィネフェルを泉の中に突き落とした。
「わッ」
 びしょぬれになったフィネフェルが慌てて水の中から顔を上げると、恥じらいもなく服を脱ぎ捨てたセノがフィネフェルの上に着地するように飛び込む。水がはじけて涙も消し飛んだ。
「わッ!」
フィネフェル! 俺は初めてだ、のちのことも考えて傷はつけるなよ」
「わ、かった」
 セノを抱えてフィネフェルはどうにも視線のやりどころに困ったように目を泳がせたが、考えてみると今まで何度も風呂に入っている上に、一緒に抜きあった経験もある。今更かと思えば今度はこの状況に対する高揚感・興奮・欲求が湧き上がってきた。ずっと抱きたいと思っていた、好きだった相手がこのように身を許してくれる状況で勃起しないほどフィネフェルはまっさらではなかった。
「早いな」
 セノが兆したフィネフェルの陰茎に触れるので、さすがに気まずさと恥ずかしさを覚える。それを隠すようにセノの唇にかみつくと、セノは腔内で笑い声を響かせる。セノは声を出して笑わない。フィネフェルの方がずっと人前でよく笑うけれども、セノはフィネフェルの前では大口を開けて笑うことこそないけれど、口の中で笑いをかみ殺すようにわずかに笑うのだ。それがフィネフェルは好きだった。自分だけに許されたセノの喜怒哀楽を知っているからだ。
 舌を絡めて、腔内を丁寧に撫でていく。直接触れる粘膜の熱が心地よく、いつまでもこの場所にいたいような気がしてくる。セノを抱えて半身水に漬かっているから、下半身は冷えていくばかりのはずなのに気づけば全身が熱を持っていた。もっと触れてその奥まで全部犯したいと思う。喉の奥まで舐め尽くしたいけれど、さすがにそこまで舌が届かないから、代わりに歯を撫でてその形を丁寧になぞった。熱が触れ合って溶け合って、だんだん何を触っているのか感覚が崩壊していく。柔らかな肉の合間にある粒の塊がなんなのかわからなくなって、つい力を入れると鋭い犬歯で舌を切った。それを皮切りにフィネフェルはセノから口を離す。
「血なまぐさいキスだな」
「勢い余った」
「だろうな。息が途切れるかと思った」
 フィネフェルはセノを体の前で抱えたまま、水の中から立ち上がる。体を拭ってもよかったが、その時間も惜しい気がして、セノを寝台に降ろすとそのままお互い濡れたままもう一度口づけを交わした。ズボンが濡れて体温は常時散逸し続けているはずなのに、下半身の熱は冷める気配がない。
 それから口づけを何度も交わしながらフィネフェルはセノの細い体に手を添わせていく。この体は自分よりもずっと細いのに、自分よりもずっとしなやかに動くのだ。その筋肉の一筋一筋をいとおしむように丁寧に撫でると、セノは口づけの合間にくすぐったそうに身をよじって笑っている。
フィネフェル、くすぐったい、さすがに無理だ」
「もっと触りたい」
「またいつでも触らせてやる。今は、少し時間がない。初めてが性急で悪いが、急ぐぞ」
「……それは俺のセリフだと思うけど」
「知らないな。それに俺も少し苦しくなってきた」
 見ればセノの陰茎もすでに兆していた。フィネフェルほどではないが、十分に持ち上がって先走りをこぼしている。
「……無理かと思ってた」
「今から抱かれると思いながら触れ合ってればこうもなる。お前は知らない仲ではないし、お前のことが嫌でもない。それに俺もつまりそういうことなんだろう」
 セノの表情はほとんど変わらないのに、その瞳がいたずらっぽく揺らいでいる。まるで子供が親をだませたようなしてやったりと言う感じを感じて、フィネフェルはしゃべっている最中のセノの陰茎を握りこんで軽く上下にこすった。声を出すのは嫌なのか、とっさに唇をかみしめたので傷にならないように指で唇に触れて、口を開けるように促す。あいたところに指を入れて「声を出して」と頼めば否定された。
「お前相手に悲鳴などあげてやるものか」
 セノの意地にフィネフェルは笑う。親友であり、思いを伝えあった今でも自分たちはライバルのような関係でもある。確かに自分が逆の立場でもセノに啼かされるのは癪に障る気がする。……先ほどぼろぼろと泣いたことはこの際記憶から吹き飛ばすことにしたフィネフェルは、セノにもう一度口づけして「中をほぐすから力を抜いて」と言う。
 とはいえその一言で力が抜けるのならばそんなに難しいことではない。意識を快楽に持っていってセノ自身も達することがなければそれはフィネフェルの一方的な痛みを与える行為に過ぎない。
「自分で握って刺激して。俺はこれから中をほぐして挿れられるようにするから、その間その感覚を快楽に置き換えて」
「難しいことを、い……ッ!」
 手早く潤滑油を引き出しから取り出して、手の熱を移す。そのまま尻のすぼみに指をあてて軽くも見込むようにするとさすがに抵抗があったのかセノは身をよじった。それでも律義に自分の陰茎を握ったままわずかに刺激を続けている。とはいえ手が震えているので意識は完全にフィネフェルの手に持っていかれた様子だった。
「セノ、続けて。挿れるよ」
「さ、す、がにキツいな」
「うんキツい」
「いや俺の気持ちの話だ」
「俺はキツくないすごく楽しい」
「そんな話は聞いていない」
 仰向けに寝かされ大きく足を開かされたセノは抵抗する術が少ない。フィネフェルの方を膝で小突くような形で抵抗を示した。とはいえこのような状態でもセノが抵抗したいと思ったのなら、二人の体格差も不利すぎる態勢の差も関係がない。この状態を甘んじて受け入れているのはセノの方だった。
 フィネフェルは指を中に進めていく。まずは一本、熱を持って絡みついてい来る体温をかき混ぜるようにかき分けるように少しずつ中に推し進めていった。異物に対してセノの中は困惑したように、フィネフェルの指を取り囲んで触れてその状態を探ろうとしているようだった。口の中以上に強い熱と締め付けが指を通して伝わってくる。揉みこむように動く体温にフィネフェルの熱はさらに上がっていった。
 潤滑油を足しながらさらに奥に進めていくと、セノの手は完全に止まって自身の陰茎に軽く触れるばかりになる。意識が完全に体の中に持っていかれている様子だった。それを見てフィネフェルは空いた片手をセノの太ももから離す。状態をよく見たくて足を大きく上げさせていたが、それよりもセノの感覚を前に持って行った方がうまくいきそうだ。セノの小さな手ごと陰茎を握りこんで上下にしごくとさすがのセノも口を閉じる方向に意識がもっていけなかったようだ。
「あッ!? くそっ、フィネフェル声をかけろ!」
「可愛いよ」
 セノはもう一度膝で小突く。
 中で指がグネグネと大きく動く感覚と、陰茎に触れられるいつもの感覚にセノの体が小刻みに震えている。そろそろ前の限界が近いかなと察して陰茎を触る手はそのまま、フィネフェルは指を一度抜くとそのまま二本目を挿入した。痛みが多少強いかもしれないと思いながら、この感覚を前につなげられたら話が早い。セノが達したのはそれからすぐのことだ。白濁を吐き出して腹を汚す。前から思っていたがセノの褐色を肌に白い精液が飛び散る様はひどく扇情的だ。可能ならば自分のもので汚したいと思えば、下半身にさらに熱が集まったような気がした。
 荒く息をついて脊髄から脳まで錯綜する快感に一瞬身じろぎしかしなくなったセノに三本目の指を追加した。感覚が麻痺している間に挿入できる準備を済ませておいた方がいい。まだまだ慣らしが足りないが、一度達したせいで体が弛緩している。指は比較的安定して中に飲み込まれていった。これほどあれば十分か、あと一本入れたい気もする。
 尻のすぼまりこそ弛緩しているものの、体の中身は今まで通り指に絡みつく。まるで吸い付いてくるような感覚に脳がくらくらとしてくるのを感じた。自分もそろそろ限界を感じている。直接的な刺激を与えていないせいでまだぎりぎり達していないものの、これ以上じらしたら触らないうちにそのまま出してしまいそうだ。
「セノ、挿れたい」
「うっ……いけそうか……」
「少し痛いかもしれん」
「いい……あまり長く時間をかけてもられない。あまりにも出血しないならそのまま進めろ……」
 達してから少しばかり冷静になったのかセノの口調がはっきりしている。
 ズボンを降ろせば限界にまで張り詰めた陰茎が、セノの中に挿入するのを今か今かと待っていた。セノは自身の足の間からその様子を見てさすがにいたたまれないのか、顔をそらす。
「……そんなに興奮したか……?」
「そりゃあ……」
「そうか、それは……健全、な、こと、だな」
 セノは困惑したように感想を漏らした。さすがに何を言えばいいのかわからないらしい。
 手のひらから熱を移した潤滑油を自身の陰茎に垂らして、尻のすぼまりに先端を当てる。指を引き抜いたばかりであるからまだわずかに口が開いたそこが挿入されるのを今や今やと待ちわびているようで、その光景に頭が沸騰しそうだ。
 ぐ、と腰を推し進めればセノは息をつめた。そのまま手のひらで口を覆って声が一息を漏らさないように必死な様子である。可能であればセノがなりふり構わず喘ぐのを聞きたくもあったが、今はその時間はなさそうだ。これから、これから何度もこういった機会は訪れるだろう。今回は許してやろうとフィネフェルは思う。次の時には声を聞かせてもらいたい。喉の奥からひきつるような快楽の悲鳴を耳の中に残したい。
 熱で溶けあっておかしくなりそうだ。セノの体をなでるときゅうと中が締まる。それはあまりにも気分がいい。
 先端を飲み込んで、一番深いところをゆっくりと推し進めていく。フィネフェルは同時にセノの前に触れた。痛みか、混乱するような感覚のせいか、一度出したことも相まってセノの陰茎はすっかりとしぼんでいたが触れてやれば少しだけまだ芯を残しているようだ。
「セノ」
 フィネフェルが呼べばセノは視線だけをよこした。
「今誰に抱かれてるか思い出して、これからも何度も抱く相手のことを考えて」
 この腹に出すのは誰か、セノが今この行為のすべてを許しているのは誰か、全部、思い出せと命ずればセノも自然とそのことについて考えたらしい。瞳がうるんで、同時に陰茎が芯を持つ。挿入されている強い違和感から自身が今抱かれていることにきちんと意識が戻ったようだ。
 根元まで入り込んだ。今、セノのすべてを暴いているのはフィネフェルにほかならず、これからもフィネフェルただ一人だと思うと気がおかしくなるようだ。
「セノ」
 十分に芯を取り戻した陰茎に触れながら、わずかな間の後に少しずつ腰を送る。大きく出し入れを繰り返してもよかったが、初めてであまりにも強すぎる刺激は後に響きそうだ。今日は、不本意ながらも完全な状態ではない。もっと激しく追い求めるのはまた今度にしようと思う。どの道セノの中はぎゅうぎゅうと締め付けてくるのでそれだけで十分に達することはできる。それは体の反応でしかないとわかっていても、先端から根元まで、自分のものをセノのすべてが求めているようでその興奮は計り知れなかった。フィネフェルがわずかに動くたびに息が漏れるように小さく叩くような音が喉から漏れている。潤滑油で十分に滑る中はもう少し動かしても大丈夫そうだった。陰茎をしごきながら、片手でセノの足を支えて持ち上げて、そして少しばかり抜き出した自分のものを少し勢いをつけてセノの中に押し込む。終わりがあるわけではないのだ。なのに自分の根元とセノの尻たぶがぶつかって音がするとまるで先端がセノの体の最奥を突いたような感覚を覚える。錯覚だ、すべて、なのにその錯覚がセノのすべてを暴いた実感になってフィネフェルはその最奥ですべてを吐き出した。同時にセノの陰茎への刺激も強めたのでセノもほぼ同時に達したようだった。
 愛しさが頂点に達し、一息つくとすぐに冷静さが戻ってきた。中に出されたセノはさすがに感覚の面で復帰が遅い。口から手が離れてよだれが頬を伝う。目を瞑って必死に息を継いでいるのでフィネフェルはその唇にもう一度触れてから、ゆっくりと自身のものを抜いていく。
 セノの中はまるで抜かないでくれとばかりに縋ってくるようだった。その感覚にもう一度気が狂いそうになったが、泉とそれを守るように生えた木の根元で空間がよじれる感覚がある。扉は開いた、脱出までの時間がないかもしれないことを考えればもう一度セノを抱く余裕はない。
 小さな水音を響かせて抜き去ると、セノの尻の穴はまだフィネフェルの形を覚えているようにぽっかりと穴をあけている。その中から白濁が流れ落ちる様は実に、実に心地よい。
 フィネフェルはまだ湿っているズボンを手に取って、それをもう一度身に着ける。気分は悪いがあまり気にしている暇もない。兜と共に置いてあった資料を拾い上げ、まだ完全に元の状態に戻っていないセノを抱き上げて服を簡単に着せてやりセノを抱えたまま秘境の出口に足を踏み入れる。

 ジンニーが作った秘境の真の目的は残念ながら読み取ることはできなかった。ただあの秘境の入り口を覆うように用意された部屋がやけに華美な装飾であったのは、そのために用意されたものだったのだろう。
 濡れた服は砂漠を歩く途中ですべて渇いた。秘境から持ち帰った資料はマハマトラに引き渡され、関連するもう一つの研究もすぐに調査の手が入ったらしい。
 あの秘境に関してはクラクサナリデビによって封鎖を命じられ、今はその情報も秘匿されている。調査のために足を踏み入れる者は、恋愛関係にある者同士に限られる旨を含めて今後はある程度開放もされる予定だが、その詳しい脱出条件について明確にした者の名は誰にも明かされないことになった。その事実はクラクサナリデビと何かを察したアーラヴのみが知るところである。
 ……つまるところクラクサナリデビにはすべてが明らかになっているのだった。茶会のようにして呼ばれた報告の会で、セノはいつもの無表情のまま秘境の話を全てつまびらかにした。フィネフェルはそのくだりで絶望して頭をテーブルに打ち付け熱いお茶を頭からかぶることになったがもはやそのようなやけどの痛みなど、自分たちのセックスを克明に草神の記憶に刻まれた事実からすればさしたるものではない。クラクサナリデビがからかうこともなく真面目に話を聞いていたところがさらにいたたまれなかった。笑い飛ばしてくれた方がよっぽどよかったかもしれない、などと思ってスラサタンナ聖処を後にしたセノの顔を見ると疲労がひどい。
 なんだ、セノも同じ気持ちかと思うと気持ちは少しだけ落ち着いた。



2024.01.22 初出


新しい連載にしようか迷っている男主のお話ですが、とりあえず迷っているなら単発SSとして出していけという気持ちです。
攻主系のお話ではとにかくえっちぃお話を書きたくて書きたくてしょうがないのでえっちお話ばっかりたくさん上げるかもしれない。