「リーリンを都市戦にあわせてマイアスからツェルニまで運んだのはサヴァリス様ではなく私、ということで話をあわせればいいですね?」
「ああそうしてくれると助かるな。
イェル
の実力ならそれも疑われないだろう。殺剄がまだ甘いけどね」
サヴァリスに指摘されて
イェルチェ
は顔を赤くする。
「じゃあ僕はもういくよ。あとよろしく」
「は、はい!!」
サヴァリスからの頼みに少し頬を紅潮させて、気合の入った返事をした
イェルチェ
は、サヴァリスの姿を見えなくなるとくるりとリーリンのほうへ向く。
「とりあえず旅券は、」
「大丈夫」
「それだけもってれば放浪バスを使って無くても大丈夫・・・・だよね?不法侵入になっちゃうかなぁ・・・・」
イェルチェ
の言葉には少し自信がない。
「うーんそれは私も自信ないけど、大丈夫なんじゃないかなぁ・・・・・とりあえずシェルターに行く?」
「あ、うん」
イェルチェ
とリーリンは同じ上級学院の学生だ。同い年、同じ学年、同じような境遇で、出会ってすぐに仲良くなった。レイフォンのことを知っていた、というのも理由のひとつだろう。そして
イェルチェ
がレイフォンのことを敵視していなかったことも。
シェルターを探すために歩き始める。
イェルチェ
の手には錬金鋼が握られていて、それなりの緊張感がリーリンにも伝わってきた。
「向うで戦闘がある・・・・・都市の構造が同じならちょうど戦闘のあるあたりにシェルターがあるんだけど・・・・」
「別のを探す?」
「遠回りしなきゃいけないかも、ええっとそれか上からいく?」
「えっ」
リーリンは驚いた表情をした。サヴァリスは男だ。身長もリーリンより高いし、筋力もある。内力系活剄を使わなくともリーリンを持ち上げることは容易いことだったろう。だが目の前にいる
イェルチェ
は同い年の女の子で、腕も細くほとんど同じ身長のリーリンを抱えられるとは思いにくい。
「大丈夫、鋼糸があるから」
イェルチェ
はリーリンの心配を読み取ったように少し笑っていった。本人もたとえ内力系活剄を使ったとしても、リーリンを抱えてサヴァリスのように動くのは難しいとは自覚しているのだろう。
建物の影で戦闘の状況を見ながら、どうするかと相談をしていたときだった。ふいに背後から声がかけられる。
「何をしてるんですか?」
「ひゃっ!!」
リーリンが突然の声に驚いて声を上げるがそれは
イェルチェ
によって口をふさがれた。
イェルチェ
は最初からそこにフェリがいることをわかっていたかのように振り向くと「なんでしょうか」とあくまで落ち着いて返事をした。
「あなた方は一体何をしているんですか。白髪のあなたは武芸者でしょう。ツェルニでは見たことがありませんね、ならマイアス?でもそれなら何故一般人を連れているんです?」
「私たちは__」
イェルチェ
がそういいかけたとき、頭上で爆発が起きる。戦闘がすでにこちらがわに移動し始めているのだ。それと同時に建物の角が崩れ、まさに三人がいるところへと降ってくるところだった。
「・・・ッ!!走って!」
「えっ、あっ」
リーリンはまだその状況に気付いていない、足元に置いたトランクに手を伸ばそうとしている。それがフェリにはもどかしい。そんなことをしている場合ではない。人一人を軽く潰すであろう大きさの瓦礫が地面に衝突するまであと二秒もないだろう。念威操者であるフェリには二人を抱えて移動する手段がなかった。
(潰される!!)
救助を呼ぶために反射的に髪が光る。だがソレよりも早く反応した者がいる。
「レストレーション01!」
イェルチェ
の声と共に錬金鋼は剄を走らせ金色に輝く鋼糸へと姿を変えた。それは一秒にも満たない間で、巨大なネットを編み上げ、落下物を受け止めたのである。あと一秒でも遅かったら三人ともただの怪我ではすまなかっただろう。
「鋼糸・・・・?」
「え、あ、知ってるんですか?」
イェルチェ
は少し驚いたように言う。
「いえ、今はそのことについて議論している場合ではありません。お二人はマイアスの武芸者にも思えませんし、ひとまずシェルターへ移動します・・・・・が、今はどのシェルターも生徒会棟も遠回りをせざるえませんね・・・・・どこか安全な場所に隠れていましょう」
フェリがそういうと同時に念威で新たなルートを検索する。
リーリンはフェリの光る髪に驚いて口がふさがらないようだ。
イェルチェ
もデルボネという念威操者を知っているとはいえ、彼女自身とは対面したことがない。ゆえに髪全体を光らせるほどの念威操者に会うのは初めてなのだ。純粋にその実力に驚いた。
「すごい・・・・」
「こちらへ・・・・」
「いたぞ!!」
声がした。三人が振り向く。
そこにいたのはフェリの知らない武芸者だった。念威操者であるフェリが一度も接触したことのない武芸者ということはマイアスの武芸者だろう。事実活剄を使ってみれば胸元にマイアスの旗印が刻まれている。
相手はフェリを見ている。性格にはフェリの学生服を、だ。そして光る髪。彼らはフェリをツェルニの中心的名念威操者であると思ったに違いない。
「走ってください!!!」
リーリンの足が動く、フェリがその手を引く。相手の武器は歯引きされているとはいえ、当たれば骨折は免れない。
イェルチェ
だけがその場に佇んだ。
「レストレーション02」
イェルチェ
の手は腰に巻きつけた剣帯からもう一つの錬金鋼を抜き復元言語を口にする。それもまた剄を満たした金色の鋼糸。
イェルチェ
はそれを建物の上へ伸ばすと同時にフェリとリーリンの体にも巻きつける。傷つけないように丁寧に、そして建物の屋上の突起物に引っかかったと同時に、
イェルチェ
は鋼糸を引いた。
「きゃっ!」
マイアスの武芸者には突然三人が浮き上がったように見えただろう。
三人はあっという間に屋上にたどり着き、ひとまずの戦闘からは離脱できた。だが武芸者ならこの程度の高さの建物に登るのに時間はかからない。すぐに追っ手がかかる。
「念威操者さん!」
「フェリです」
「フェリさん!リーリンをつれて逃げてください!」
「追いつかれます」
「私が、止めます」
「無茶です、かなりの人数がいますよ」
「これでもグレンダンの武芸者です、学生にはそうそう負けません」
イェルチェ
は困ったように笑んで、両手の錬金鋼を振る。
フェリはその言葉にレイフォンの影を見た気がした。
「とはいえ部外者が都市戦に参加するのもよくないですね。あくまで自衛の防戦一方にします。レストレーション」
復元言語と共に
イェルチェ
の手に現れたのは肘まで覆う手甲だ。サヴァリスのものと同じ。
外力系衝剄の化錬変化、蛇流
まっすぐに拳を打つ。一打、二打、三打。直接打つのではない、相手との距離がある中で、まるで型の練習のように正確に拳を打つ。その変化は、三人を追ってきたマイアスの武芸者の目の前で突如としておこったのだった。
白銀の炎が爆発する。直撃したわけではない。ちょうど目の前で炸裂した光と音は、マイアスの武芸者を混乱に陥れた。
イェルチェ
はそれを確認するとフェリとリーリンを追う。二人は屋根伝いにすでに三軒向うまで足を進めており、それを追いかける、旋剄、
イェルチェ
の体が加速する。二人は屋根伝いに進んでいったはいいものの、下方でまた別の戦闘に阻まれ動けなくなっているようだった。
ウーーーーーーーーーーーーーーー
戦闘終了のサイレンが鳴り響いたのはそのときだった。
20160922