「思うんだけど、君の場合武芸者として致命的な持続力の問題を解決する方が先なんじゃないかい」
グレンダン外縁部、エアフィルターを突き抜けたらそこはもう汚染された大地だ。その汚染された大地を眺めているのは
イェルチェ
・ハーデンとサヴァリス・クォルラフィン・ルッケンスの二人であった。
汚染獣との戦闘の場になることもあることから、傷の多い外縁部の端に座り込んで、ゼェハァと荒い息を継ぐのは
イェルチェ
である。
本来ならばルッケンス家が得意とする格闘術と化錬剄をサヴァリスから学ぶ予定だったが、それ以前の問題として体の弱さが露呈したのである。もともと肺に病を持つ
イェルチェ
は、外力系衝剄の類を持続することが難しく、それが難点となって剄技を修められずにいたのであった。
(リンテンスさんはそれも含めて僕に教えろと言ったのか、それとも)
リンテンスの意図はいまいちサヴァリスには理解しかねる。そもそも何故サヴァリスを訓練の相手に指名したのかもわからないのだ。サヴァリスもこれがただの女であればさっさとお役目を放棄したところだが、先日、汚染獣戦で見せた
イェルチェ
の殺気を大いに気に入ったためこうして訓練に付き合っているというわけである。
リンテンスに娘がいたというのもリンテンスを知る人物からすれば大事であるが、サヴァリスがこうして他人に付き合っているというのもサヴァリスを知る人物からすれば大事だろう。何せ本人もそう思っているのだから。
「
イェル
、君も剄脈から発生した剄が内部を強化する内力系活剄と外力系衝剄に分けられることは知っているだろう?君の場合、まだ内力系活剄が不十分なように見える」
「内力系活剄が・・・・・」
イェルチェ
は荒い息の中でサヴァリスの言葉を噛み締める。
「リンテンスさんからは教わらなかったのかい」
「一通りは教わりました。内力系活剄に関しても剄脈から発生した剄を剄路に流すという理論はわかっているのですが、まだ感覚がつかめなくて」
「ふうん」
内力系活系は外面からその状態を掴むことは難しい。剄が体外へ排出されればそれは様々な形となって現れるが、体のうちを流れている間は目に見ることは困難なのである。だが触れればわかる。体の中でどのように剄が流れているかは、先ほどまでの軽い組み手でおおよそ把握できた。
「なら、その内力系活系の感覚を掴むところから始めるべきだろうね。それなら今晩僕の家にくるといい、内力系活剄の感覚とまだ開いてない剄路を開く手伝いをしてあげよう」
サヴァリスはにっこりと笑ってそういった。
「は、はい、でもサヴァリス様それはここでは教えられないものなのでしょうか」
「そうだね、ここで教えてもいいけど、多分君こんなところじゃ嫌だって絶対に言うと思うよ」
「は、はぁ・・・・・」
イェルチェ
はいまいち腑に落ちないといった風であったが、サヴァリスはそんなのお構いなしである。もういい時間だし、いこうか、と
イェルチェ
の手をとった。そのまま軽く横に抱いて、動けない
イェルチェ
を抱えたまま外縁部から都市中枢まで駆け出す。
内力系活剄によって強化された身体による跳躍と走力は武芸者ではない並の人間に真似できるものではなく、
イェルチェ
もまためまぐるしく変わる景色に目を回しながら、気付けばサヴァリスの部屋にたどり着いていたのであった。
「えっと、サヴァリス様ここは」
「僕の部屋だけど?」
「ルッケンス家では」
「ないね」
僕あの家うるさいからいやなんだよね、とあっさり言い放ったサヴァリスはドアノブに手をかけて引いた。鍵のかかっていないドアはあっさりと開く。
「サヴァリス様、鍵をかけていらっしゃらないのですか?」
「だって盗むものなんて何もないですからね」
ぱちり、と入り口のスイッチを入れると部屋がぱっと明るく照らされる。その部屋は簡素なもので、何一つ置いてなく、部屋の片隅にベッドが一つ。服を仕舞ってあるのであろう衣装ケースが一つあるのみで、それ以上の物が何一つない。本当に人が住んでいるのかと疑いたくなるが、バスタブの中に投げ置かれたバスタオルに唯一生活観を感じたのであった。
「何も、ない・・・・」
「必要なものがないからなぁ。化錬剄はそもそも身一つあれば修行できるものだから、物も場所も関係ないんだよ。
イェル
、とりあえず風呂に入ってきたらいい。着るものは僕のを貸してあげるから」
そういわれて
イェルチェ
はぽんと風呂場に投げ込まれたのであった。バスタオル一枚と、それからサヴァリスの物であろうTシャツが一枚。身長差ゆえ、丈が長く着たらスカートのようになるだろうことは容易に想像ができた。
イェルチェ
はため息を一つつくと、諦めて服を脱いでシャワーのコックをひねる。流されるままにサヴァリスの家に泊まることになってしまったが、剄技の訓練の一環ならばそれも仕方ないだろう。果たしてどういう訓練なのか知らないが、と
イェルチェ
は思いながら頭上から降り注ぐシャワーの水に目を瞑る。
二十分程度だろうか。体を洗い終わり、借りたTシャツに袖を通してみれば案の定スカートのようであった。肩口も大きすぎて気を抜くとすぐ落ちてくる。上の下着はともかく下は身に着けておいた方が無難だなと思いながら、
イェルチェ
は今まで来ていた洋服を一まとめにして、風呂場を出た。
「遅かったね。女の子は身支度に時間がかかるのかな」
「あ、も、申し訳ありません」
「いや攻めてるわけじゃないのでお気になさらず」
サヴァリスは相変わらず笑みを貼り付けたままで、どうもその真意を読みづらい。
イェルチェ
もそれ以上謝罪の言葉を重ねるか迷って、迷った挙句やめておくことにした。多分気にしないというだろうし、それは本心からの物であるように感じたからだ。
「さて」
と、サヴァリスは風呂から上がったばかりの
イェルチェ
を手招きする。招かれるがままにベッドの傍までやってきた
イェルチェ
はそこで、ベッドに座ったサヴァリスと真正面から目を合わせたのだった。
「まずは内力系活系から始めましょうか。やり方は簡単、僕が貴方に剄を送りこんで体内を剄が循環するということを感覚で掴んでもらう。それだけです」
簡単でしょう?というサヴァリスに、
イェルチェ
は頷いた。
「サヴァリス様、でもそれはどうやって・・・・」
「こうです」
言われるが先か、くいと腰を引かれ頬に手を当てられたその次の瞬間に二人の唇が触れていた。
イェルチェ
がサヴァリスに引き寄せられて反射的につっぱねようとした両腕が、サヴァリスの厚い胸板に当たる。
押し返そうにも力の差は歴然としており、いくら抵抗してもサヴァリスはその抵抗ごと軽く押さえ込んで、舌を
イェルチェ
の口の中に差し込んできたのだった。
「ん・・・・・んンッ」
くちゅりと唾液が入り混じり、卑猥な音をたてる。舌を吸われて、歯列を撫でられて、角度を変えながら口内をかき混ぜられる。
頭の中まで破裂しそうだった。
甘い吐息よりも呼吸の出来ない苦しさが徐々に増してくる。零れ落ちる吐息は吐きだすものばかりで息を吸い込むことができない。
どんどん、と抵抗の意味を込めて胸板を叩けば変わりに、慈しむように頭を撫でられた。
これ以上立っていることができない。膝に力が入らなくなってかくんと落ちると、サヴァリスに腰を支えられる。下に逃げることもできなかった。
「んんッ・・・・・!はっアっ・・・サヴァリス様何を・・・・!!」
「何って、キスかな?」
「どうして!こんな!」
「剄を直接流し込むためさ。頭は覚えて無くてももう体は覚えたはずだあとはそれを意識しながら循環させるだけでいい」
サヴァリスは、口を押さえて顔を真っ赤にしている
イェルチェ
の頭を撫でて、支えた腰をそのままベッドの上に連れて行く。
気付けばごく自然な動作で押し倒されるような構図になっていて、
イェルチェ
は抵抗とばかりに顔の横に置かれた手を叩いた。
「だめだよ、僕にダメージを与えたいなら外力系衝剄をきちんと扱えないと。ま、それより先に内力系活剄の方が先だけどね。次は
イェル
のまだ開いてない剄路を開くためにもっと多く剄を流し込むよ」
「ま、待ってくださいサヴァリス様!!すごくいやな予感がします!!」
「そう?気持ちいいと思うよ?」
「ま・・・・・んんッ!!」
抵抗の言葉も再び口を塞がれてしまえば何の意味もなさない。
ちゅっ、ちゅっ、と音を立てながらついばむように成される行為に、徐々に頭が働かなくなってくる。
Tシャツの裾はいつの間にか捲り上げられて、サヴァリスの手に収まる程度の乳房と乳頭はむき出しになっていた。
「なんだ下は履いてたのか、履いて無い方が話が早かったのに」
そういいながらもあっさりと脱がされてしまった。これで身にまとうものはたくし上げられたTシャツだけ。だがそれももう本来の意味を成しておらず、サヴァリスの手は軟く乳房に触れる。
焦らされているように感じるのは錯覚だろうか。時折外気に晒されぴんとたった乳頭に指が触れるたびに体がびくんと跳ねた。乳房に触れている間も、キスは止まない。意識をどこに持っていけばいいのか。
「ふっ・・・・う・・・・あ・・・・」
必死で鼻で息をしながら、首に、乳房に、腹にサヴァリスの大きな手が触れるたびに吐息が洩れる。
そして、いまだ誰も触れたことの内下半身の奥に触れられたときは、思わず舌を噛みそうになってと息がかかる位置でたしなめられる。
「おっと舌を噛むのは勘弁してくださいね」
「待って、ください、やめてくださいサヴァリス様・・・・!」
「ここまできてやめるという選択肢はないと思いますよ」
こにくたらしい敬語を使うサヴァリスは、
イェルチェ
の頬にキスを落としてから再び口元を唇でなぞるのだった。
「やめて、触らないで、やだ・・・・・!そんなところ・・・・!」
「おやおや、未通ですか?それなら余計に時間をかけないと痛いでしょう」
ね、なんて微笑まれても応えることなど出来ない。
すでに蜜の滴るそこにぬるりと指をこすり付けられ、入り口を開放する。
「あ、あ、や、あっ」
異物が中に入ってくる感触が気持ち悪かった。指一本を差し入れられかき混ぜられる。
その遺物に意識を集中すれば、自然と膣は締まり、サヴァリスに「よく締まる」とからかわれ、そうでなくても熱い頬がさらに熱くなるのだった。
「初めてなら最低でも三本は入らないときついかもしれないですね。じっくり慣らしましょう」
「ああっ・・・ンンンッ・・・・」
乳首をつままれて、もう片方の手で中を弄くられる。サヴァリスの指はしっとりと蜜で湿った中をいじめるように折り曲げられて、強制的にその存在感を知らしめるのだった。
「そろそろもう一本入れられますかね」
当の本人はもう肯定も否定も出来ずになされるがままだった。二本目の指がきつい膣の中へともぐりこんでくる。
「っつっう、あああ!」
強制的に広げられる、それと同時に
イェルチェ
を襲う鈍痛と快楽。背筋を走る寒気のような感覚がどうしようもなく気持ち悪いはずなのに、徐々に慣れてくるとその感覚に病みつきになりそうだった。この体が始めて受ける感覚、それは徐々にだが心地よいものに変わりつつあり、それを自認してしまったらもう止めることすらできない気がした。
「サヴァリス様・・・!」
やめて欲しいという抵抗の意味で名を呼んでも彼は笑みを貼り付けたままだった。
「そろそろ気持ちよくなってきた頃合だろう?君は気にせずにその感覚に体をゆだねればいい」
「い、いや、です!こ、こんな恥ずかしい・・・・ああンん」
反論は嬌声になって消えた。
快感は膣の中からだけではない、ただ体を触れられるだけでも敏感に、鋭敏に脳に快楽として伝わってくる。
三本目の指が侵入してきたときは、さすがに息が詰まった。二本目までとは違う、自分よりも大きく太い指の圧迫感に息を継ぐだけで精一杯だ。だと言うのに、サヴァリスは
イェルチェ
の唇を奪う。
呼気ごと、
イェルチェ
の全てを支配しようとしているのは決して間違いではない。体の触れたところから送り込まれるサヴァリスの剄は、
イェルチェ
の不活性であった剄路を無理やりに開き、そこに剄を流しとおしていく。体の内部を循環する剄の全てがサヴァリスの物ではないかと錯覚するほどに、自分の剄の感覚が薄れ、それと同時に今までつかめなかった内力系活剄の体内循環の感覚を強制的に体に教えられていた。
くちゅり、と生活観のない部屋の中に卑猥な音が響く。
「さてもう十分だろう」
何が、と問うよりも先に、膣の入り口に指とは違う硬いものが押し当てられる感覚に、ざっと血の気が引いた。
「サヴァリス様、や、嫌です、やめて、お願い」
「僕もやめるのは嫌だな」
あははと笑う声は軽い。これから何をされるのか、何をするのかわかっていて言っている。
そしてその瞬間は訪れた。
まるで嵐のように猛烈な勢いであった。何が起こったのかを理解する間もなく、膣内の最奥まで一息に押し込められた陰茎の腹部に対する圧迫感は先ほどの指で弄られていたのとは比べ物にならないほどで、思わず
イェルチェ
は息を止める。
止めた息を飲み込むようにまたキスをされた。触れるだけではなくまた舌を吸われ唾液が絡み、そして零れる。膣もまた陰茎を受け入れるようにしとどに濡れて染み一つ無かったシーツに点々と染みを作っていった。
いつの間に彼は服を脱いだのだろうか。何も気付かなかった、とすでに正常に機能していないぼやけた頭で思いながら、厚い胸板を押し返そうと無駄な努力をする。
上からも下からも責め立てられて、正気を保てるはずが無かった。
「あ、あ、あ」
サヴァリスの動きに合わせて思わず声が洩れる。こらえようにもこらえられない声は、部屋に響いて、もう一度自分の耳に戻ってきて羞恥心を煽るばかりだった。
いつ終るのだろうか。まさかハジメテがこのような形を迎えるなんて思いもしなかった。
「___ッサヴァリス様__」
優しく頭を撫でられて、その手にすがりついた。何か支えがないともう体が自分という枠組みから滑り落ちそうなのだ。
やめてほしい、でもやめないでほしい。
お互いの翡翠色の目が交わる。その瞬間
イェルチェ
は全てを投げ出して、サヴァリスに身を委ねたのだった。
朝。
カーテンの内部屋の中には朝日が直接降り注いでくる。そのまぶしさに、意識がゆっくりと浮上した。
さらさらとしたシーツの心地よさに、もう一眠りしたくなるが、その瞬間胸を圧迫したのは部屋を埋め尽くすような剄の流れだった。
起き上がることなく、ゆっくりと顔だけを向けると、下半身のみ身に付けたサヴァリスが、背を向けて座っていた。長い銀色の髪が剄の放出と共にかすかに揺れる。目で見るだけでもはっきりとわかる、彼に向かって収束する剄の流れはよどみなく、そしてサヴァリスの気性とは裏腹に穏やかなものだった。
と、その剄の流れがぷつんと途切れた。
「起きましたか」
「あ・・・・えっと・・・・・おはようございます・・・・」
昨日はほとんど何も見えていなかった、むき出しにされた上半身に少しばかりの羞恥心を覚えてシーツで半分顔を隠しながら小さく朝の挨拶をした。
「昨晩はよく寝れましたか?」
「えっと」
昨晩は、と考える、その瞬間蘇るのはサヴァリスとの行為だった。始めてであったその行為は出来る限り優しくされたのだろうと考えて、考えて、そして羞恥のあまりに悲鳴を上げてシーツの中にもぐりこむ。これ以上サヴァリスの顔を見ていられる自信がなかったのだ。
「そんなに隠れなくても。内力系活剄が安定したのは自分でもわかるでしょう。あれが一番手っ取り早い教え方なんですよ」
体に直接覚えこませる。一度開いた剄路は閉じることなく、剄の循環を一度覚えた体はもう二度とそれを忘れることはない。
「で、でもあんな・・・・・」
「そうですね。僕くらいの武芸者ならあれくらい手を合わせるだけでもできるんですけどね」
「は、はい!?」
思わぬ一言は流されるようにさらりと付け加えられる。昨日の行為は必要だから、と思いこませようとしていた
イェルチェ
の努力が瓦解する。
「粘膜が触れ合った方が早いのは事実ですけど、あんな面倒なこと毎回誰にでもやるわけないじゃないですか」
嘘だ、ならなんで私は抱かれたのだと目で問いかければ「僕が抱きたかったからです」と人間の三大欲求の一つを直接ぶつけられて
イェルチェ
は頭が痛くなる。
「ああ、子供が出来ても問題ありませんよ。貴方と僕の子供ならルッケンス家が大喜びで引き取るでしょうし」
そういう問題じゃないのだ、と口にすることはできなかった。
「・・・・少し疲れました・・・・もう少し寝かせてください」
イェルチェ
にはそう言うだけが精一杯であった。
20160919