07.
モルト研究所は、とある独裁国家の所有する研究所であった。その内部では非合法研究をしているという噂があるものの、外部の人間を一切寄せ付けないその国は流星街の閉鎖を強く要望する国の一つだった。
流星街はありとあらゆる物が捨てられる、そこに捨てられた物は名もなく、国籍もなく、存在することの証明すらない。つまるところ最初からこの世の中にいない人間であり、裏世界では便利な人間として重宝されていた。このことを懸念して流星街の閉鎖を求める国家もそれなりにある。その数多くがマフィアによって荒らされ、その存在を否定する国ばかりだ。だが、同時に廃棄物処理場としての役目を果たすそこを求める国も多く、数百年も昔からそこは相変わらずの空白地帯として存在し続けるのである。
何故、その独裁国家が流星街を疎むのかまではわからなかった。その国の税関を捏造した身分証明証と入国許可証でごまかして、その独裁国家に入国した幻影旅団は、その国の内部の有様が流星街と大して変わらないことを鼻で笑った。


レイジー、ここがレイジーの故郷?」


レイジーはビリー=パペットを抱えたまま首を横に振る。


レイジーはどこから来たの?」

「あそこ」


レイジーは国の中央にそびえる大きな、ビルを指差した。


「シャル、あそこがそうか」

「うん、モルト研究所の中央研究所ってところだね。一番情報が出てこなかったのはあそこだし、多分あそこが大元じゃないかな」

「よし、定刻であそこに進入する。情報だけは一切傷つけるな。邪魔する奴は、皆殺しだ」


クロロはいつもとはまったく違うオールバックにした髪と十字架の黒いコートを着て、電話口に向かってそう言った。特に返事は無かったが、それで全員に伝わっただろう。これが、幻影旅団結成しての始めての仕事だった。
モルト研究所の入り口はやはり面倒な警備が多かったが、正面突破となるクロロとシャルナーク、それからフィンクスは何も言わずにそれらを全て殺した。レイジーは先ほどまで生きていた人間が死ぬことにも、噴出した血が身体にふりかかることにも何も思わないのか、顔色変えずにシャルナークに手を引かれて歩いていく。ビリー=パペットは何も言わずにレイジーに抱えられていた。
正面玄関を通り抜ける頃には、そこかしこから騒ぎが聞こえてきた。せいぜい建物は崩すなよ、と忠告はしてあるから大丈夫だと思うが、ウボォーギンの力の上限が未だはっきりしないせいで、途中建物が崩れると言う危険性は少なからずあった。早めに必要なものを取りまとめて、トップを殺してしまおうと思う。
クロロたちが進む廊下にはもうほとんど人がいない。どこぞに逃げたのか、隠れたのか知らないが、人の気配だけは数がある。適当に人の多い研究室内に入ると一気に空気がざわつき、それから悲鳴が上がった。Lazy Girl、という言葉が研究員の中で何度も繰り返される。ここは確かにレイジーの居たところのようだった。フィンクスはシャルナークとクロロがいるせいで存分に暴れられないのが不服なようだが、この研究所と流星街を結びつける要であるレイジーの護衛代わりであることを認識しているため傍を離れることだけはしない。
クロロたちはシャルナークが調べた通りの道順で、最上階までたどり着くと、そこでこの研究所のトップであるDr.Mortとついに対面した。


「Lazy Girl何故殺さなかった」


レイジーはこの研究所に入ってからはずっとシャルナークの手を強く握って絶対に傍を離れようとしなかった。それを顕著に表すのはどうやらこの真っ白な白衣のようで、レイジーは「白い人だ」と呟いて、シャルナークの影に隠れる。


「流星街にLazy Girlともう一人の男を差し向けたのはお前か」


クロロが一歩前に進み出てそう問うたが、Dr.Mortはそれに肯定も否定もせず「Crazy Twistはまったくの失敗作だった」とだけ言った。


「我々が目指すのは、真の兵器である。我々は、独立した一つの国家として、兵器を持たねばならない」

「お前の持論はどうでもいい。答えろ」

「Lazy Girl、今からその男たちを殺しなさい」


レイジーはシャルナークの影に隠れたきり出てこない。しかしその手が震えているのだけはわかった。そして、ふいに事切れたようにレイジーは床に崩れ落ちたのである。気絶しているだけ、しかしそれと同時にビリー=パペットが動き出した。
シャルナークもクロロもフィンクスも、そのときDr.Mortの何らかの暗示でレイジーが昏倒したのだと考えたし、そうならばビリー=パペットは真っ先にシャルナークを狙うはずだとも考えた。だからこそ、フィンクスはシャルナークをかばうように前に出たのだが、死んだのはDr.Mortであった。


「Lazy Girl殺したぞ!Lazy Girl殺したぞ!!」


頚動脈から脈打つように噴出した血は、透明な窓ガラスにこびりつく。ビリー=パペットはやはり執拗に鉈を振り下ろした。


「シャル。こいつの研究成果を探し出せ」

「わかった、ちょっとフィンクス、その間レイジーを・・・・」


シャルナークがそこまで言って、フィンクスが頷いてレイジーに手を伸ばしたとき、二人の間を通り抜けて壁に刺さったのはビリー=パペットが持っていた鉈である。未だ血を滴らせる壁に突き刺さったそれに、ビリー=パペットは軽く跳躍して飛び乗ると、明らかな殺意を持ってシャルナークとフィンクス言葉を発する。


「Lazy Girlに触れるのはお前だけ」


つまり、寝ているレイジーにはシャルナーク以外触れるな、ということだった。クロロはフィンクスに護衛代わりについていけ、とだけ指示をだして、それからDr.Mortの死体に近づく。ビリー=パペットは寝ているレイジーをシャルナークが抱えたことに満足したのかぴょんぴょんと飛び回りながら部屋を出てどこかへ行ってしまった。今まで彼女から片時も離れなかったのに珍しい。
研究所内の警報音はすでにすでに途切れ途切れになっており、人の気配も随分と減った。この騒ぎが知られて警察が駆けつける前にさっさと情報を引っ張り出して逃げてしまおうとシャルナークは思った。





2014/02/10


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