「いや、オレ、あんまり入る気はないかな」


さらりとそんなことを抜かしたイヴァンの頭をウボォーギンが思い切りぐしゃぐしゃとなでまわした。何でだよ、と吼えたが、イヴァンはさらっと耳をふさいで無視して、椅子に座った。彼があまり立っていたがらないのは昔からだ。体力がないわけではなく、昔は純粋に左足が動かないせいでバランスをとるのが難しかった。そして今は義足の左足が立ちっぱなしだとその付け根が痛んでくるからである。
幻影旅団、仲間内では蜘蛛と呼ばれる組織に入るにしては少々身体的に難がある。身体的な能力で言えばイヴァンは旅団内で下から数えた方が早い。だがそれを補う頭と技術が彼にはあった。流星街時代よりクロロたちと親しく付き合っていた彼が、空いた4番に入るということに関して批難するものは誰一人としていなかった。彼のことはよく知っているし、彼が唐突にいなくなってしまったとき血眼で探したのだ。ようやっとのことで見つけたものをいまさら手放す必要もないだろう。
だがイヴァンはへらっと笑ってクロロにそう返事をした。隣に座っていたマチも顔をしかめる。


「そうか、だがその選択肢も確かに蜘蛛の存命という意味で悪くはないな」

「だろ」

「ちょっと待ちなよ!なんでイヴァンは蜘蛛に入らないのさ、それに団長も!!」


マチの言葉はクロロとイヴァンを除く他メンバーの代弁でもあった。マチが誘った時点でイヴァンが蜘蛛に入ることは確定だと、少なくとも蜘蛛の初期メンバーは考えていたのだ。シズクやコルトピ、ボノレノフはイヴァンという人間に今日始めて会って、じっと観察をしているばかりだが、特に反論はない。
クロロはイヴァンが蜘蛛に入らないと言った理由に何がしか思い当たるところがあるようで、口元に手を当てて少しだけ驚いたような興味深いような表情をしている。その表情は蜘蛛を設立したときのそれに思えた。


「ひとつ、蜘蛛設立から随分たってお宅らそれなりに恨みも買ってるわけだ。オレが蜘蛛に入らないで生まれるメリットがここに一つある」

「メリット?何それ」

「念に対するって言った方がいいかな。人の恨みって面倒なもんだろ。正直な話ここから先、蜘蛛のみをターゲットとした恨みを持つ人間が現れてもおかしくはないと思う。できる限り強い制約と誓約を持つ。このとき制約と誓約に何が含まれると思う?」


イヴァンの問いかけにシャルナークも合点がいったようで、なるほどねと呟いた。フィンクスが不機嫌そうに舌打ちする。


「何なんだよ、もったいぶらずにさっさと教えろ」

「蜘蛛のメンバーにしか使わないって念能力にしちゃえばいいんだよ、フィンクス」

「蜘蛛を殺すためだけに存在する奴が居てもおかしくないのさ。ここから先な。オレは蜘蛛であっても正式に蜘蛛に所属しないことで、そういった連中の切り札になるんだ。どっちみち盗みに参加してもオレは実質役にたたないわけだし。シャルやパクやコルトピ?だっけ?が裏方なら、オレはさらにその裏方でいいだろ。多分オレシャルより肉弾戦は苦手だし」


クロロはイヴァンのその言葉に大層満足した様子だった。


「イヴァンの案は悪くないな。オレも似たようなことを考えていた。見知らぬ誰かを蜘蛛の外に置くのはあれだが、イヴァンなら問題ないだろう」

「んじゃオレ補欠ね」

「永久にな」


クロロはそういうと解散を告げた。三々五々に散っていく面子の中で、マチだけがイヴァンの隣に残る。イヴァンは今日はどこぞの警備会社の制服を着ていた。


「本当にいいのかい?」

「何が?」


クロロに話すときと比べて幾分柔らかな声使いのイヴァンに、マチは一瞬ひるんだような表情をしてから言葉を続ける。


「蜘蛛に入らなくて」

「似たようなもんだろ。オレは蜘蛛という組織に入らなくたってオレがマチやあいつらとの縁が切れるわけでもなし。むしろオレは蜘蛛を生かすための切り札だ。生かすべきは蜘蛛、だろうがオレは同時に蜘蛛に所属しないから誰を生かそうと構わないってわけだ。ただ個人的にクロロには死んで欲しい」


最後の一言は余計だよ、とマチは言ったがその言葉にとげはなかった。











2014/04/12 

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