マチがぱっと目を覚ますと、視界に入って来た天井に見覚えがあって、そのまま一気に体を起こす。美術館で最後に覚えているあの重い体の感覚はもうない。頭も目も冴えていて、冴えた頭は今までのさまざまな事象をたった一つにつなげてくれた。布団からはなんとなく、長い間離れていた懐かしい匂いが染み付いていて、マチは膝を立てたまま顔を布団の中に埋めた。
「起きた?」
植物越しに
イヴァン
の顔が見える。頷くと
イヴァン
はまた笑った。
「・・・・あんた・・・・昔からそうやって笑ってたね」
「やっと思い出してくれたの?遅いよ、マチ」
イヴァン
は手に持っていたペンを机の上に置いて、ベッドに腰かける。広い背中に見覚えがある。あの時はもっと小さくて、こんなに自由に動けなかった。いつも棒で体を支えながらゆっくりと後を着いてきていた姿だった。
流星街で幼い時間を共に過ごした、あの頃は、
イヴァン
は左足が動かずにいつも引きずるようにしてシャルナークとクロロに着いていっていたのだった。そのさらに後をマチが追いかけて、ウボォーとパクノダもいて、フェイタンは端っこで座り込んでいた。フィンクスに担がれていたときもあった。ウボォーが首根っこを掴んでつれてきたときもあった。
「・・・・いつの間にかいなくなって・・・何処行ってたんだよ。シャルもクロロも必死で探したのに見つかんなかった」
ずっとこんな日々が続くと思っていたのに、
イヴァン
は急に彼らの前から姿を消して、それ以降
イヴァン
が蜘蛛の初期メンバーと会うことはなかったのだ。
「所謂誘拐ってやつ?うーん、あの時はタイミング悪かったな。俺も動ければよかったんだけどさ。でも拾われて逆に知識もつけられたし、最終的に拾い親は自分で殺したけど、よかったよ。俺にとってはね」
左足が動かないのに、お腹がすいているはずなのに、痛いはずなのに彼はいつも笑っていた記憶がある。マチはそうやっていつでも笑っている
イヴァン
が好きだった。
「なんで・・・・クロロと」
「最初から話すとね、俺、一番最初にシャルナークと会ったんだ。マチのことずっと探してて、それでようやっとシャルと出会ってマチが蜘蛛にいることも教えてもらった。シャルは俺のことクロロに教えたらしいけど。そんでクロロが俺のところにきて蜘蛛に来いって言ったんだよ」
「断った?」
「そうじゃなきゃあんな傷負わないさ。思い切りやり返してやったけどちょっとアイツのこと殺すには足りなかったなー」
次は殺すよ、と笑顔で言うが、きっとそんな日は来ないだろう。クロロと
イヴァン
は妙なところで気が合って、別のところでは本当に犬猿の仲だったから、いつも殺す殺すというが結局最後ではお互いが助け合う。クロロも頭がいいが、
イヴァン
もまたクロロと違う頭の良さを持っている。二人が組めばより蜘蛛は強固なものになるのだろう。
「蜘蛛に入りなよ。皆いる」
「知ってる。マチがクロロのこと諦めて俺の物になってくれるなら蜘蛛に入るさ」
マチは
イヴァン
の言葉に目を見開いた。彼の言葉は冗談でもなんでもないことは目を見ればわかる。
「製薬会社の主任研究員ってのは嘘じゃないけど、所詮肩書き。本当は警備員の方が本職。シャルナークと会う前から流星街の連中で幻影旅団を作ったってのは知ってたし、大方クロロが頭だと思ってた。だからクロロが狙いそうな美術館とか博物館をずっと警備員してたわけ。旅団を追っかけながらさ。ずっと探してたんだ。いい加減クロロは諦めろよ」
「ば・・・・っかじゃないの」
布団にぼすんと顔を埋めたが、果たしてこのごまかしは何処まで効くのだろうか。マチー?と言って布団を剥ぎ取ろうとする
イヴァン
の首にもう一度念糸を巻きつけてやるとごめんごめんと謝られた。
彼はきっと明日にもクロロに会いに行って、旅団に入るのだろう。何番か欠番があるからどこに入るのかわからない。でも明日には、また昔のように皆で駆け回る日が来るのだ。
2013/04/30
2014/07/08 加筆修正
end.
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