ミランダとの出会いは、ずっと昔。流星街のどこかで物心がつくころに出会って、そして今に至る。2年前死んだと聞いたときは勿論悲しかった。彼女は蜘蛛の中でも特に明るくて快活で、そう強くはないものの機転を利かせて生き残っていたから、死んでしまったのだと実感したのは彼女の愛用していた銃をマチが持って返ってきたときだった。
 「あなたの銃、まだ取ってあるのよ」
 「うっそー!ほんと!?新しく買ったんだけどいまいちなんだよね」
 「私の家にあるわ。今度一緒に出かけましょう、その時に渡すわ」
 「パク大好き!!」
 私もよ、と言って頭を撫でればミランダは抱きついて、そしてすぐに離れた。彼女は昔からあまり触られるのも触るのも好いていなかったから、そのときは何の違和感もなかったのだけれどもしかしたら昔からそれは私に対してだけなのかもしれない。私の念は触れれば相手の記憶を私の思うように読めてしまうから、私に積極的に触れようと思わないだろう。ミランダが何を考えているのかわからないけど、彼女はちょっとだけ私に抱きついてそれからすぐに離れてしまった。約束の日時だけ決めて、彼女は窓から空中へ飛び出す。
 思考も本人もあちらこちらへと常に動き回っている彼女を捕まえるのは難しい。私もその日約束をしてから、約束の日までミランダに会うことはなかった。機械嫌いの・・・というより機械が苦手な彼女はそもそも携帯にもほとんどでない。本人曰く出ないのではなく通話ボタンを毎回忘れるそうだが、かける側からすれば出ないのと大差ない。
 
 「ミランダ」
 「あっいたいた」
 休日のショッピングモールは人が多く、ちょっとしたことで簡単に迷子になる。迷子になったところで大したこともないだろうが。私はミランダに服を買おうと提案したものの、断られてしまった。考えてみたらこの間会って以来彼女と会うときは同じ服を着ている気がするのだ。マチはマチでジャージばかりだからもう少し可愛い服でもと思うのだが、ミランダもミランダだ。たまには違う服もどう?と聞いてみたが本人は別にこれでいいという。ポケットの中に銃を入れて、さすがにこんな人ごみで銃をひけらかすように太もものホルスターに入れてなくてよかったと思う。一応このあたりは法律で銃の携帯が許されているといっても、相手を脅すように見せびらかせば反感を買う。ミランダがいつも着ているパーデフォルト苗字の内ポケットに銃が閉まってあるのを見ながら、パーデフォルト苗字の前を閉めてやる。そうすればメッシュの入った赤い髪が幾分目立つものの、どこにでもいるような女の子になれた。
 「パク、パク、まずは甘いものいこうよ」
 「私あんまり食べないわよ」
 「ダイエット?十分細いってー」
 「違うわよ」
 あっらそ、とミランダは笑った。その表情も2年前と全く変わらない。
 私とミランダは適当なカフェに入って席を取る。休日とはいえこれだけ店の数があればどこかは空いていた。特に二人ならば席は十分。私はコーヒーとパフェが届くのを待ってから、ミランダの昔使っていた銃を出す。
 「おお素晴らしい。さっすがパク。ちゃんと手入れしてくれてたんだ。血がこびりついて大変だったでしょ」
 「ええ。いくつかは勝手だったけど私の使いやすい部品に変えたの。全部が昔のままってわけじゃないわ。本当は私が使わせてもらおうと思って」
 「なんだ、だったらこのまま使う?」
 ミランダはさっと軽く銃を分解して中を確認する。ミランダがいつも使うのはベレッタ。一方で私が使うのはリボルバーなので使い勝手が随分と違うのだが、彼女が死んだと思ったときにはそのまま一つ形見として持っているだけでなく使おうと思ったのだ。そちらの方がまだ彼女が生きている気がする。
 「いいえ、あなたがここにいるなら使って頂戴。なじんだものの方がいいでしょう?」
 「うん助かった。やっぱり新しいのってなんか手になじまなくてさー。命中率は変わんないからいいっちゃいいけど」
 やっぱなじんだ重さがあるよね、というミランダの言葉に私は同意する。なんとなくなじんだ重さと硬さは長く使えば使うほど出てくる。ミランダは一通り確認し終わるとすぐに組み立ててパーカーの内側に銃をしまった。受け取りばらし、そして組み立ててしまうまで時間にして五分もかからなかっただろう。それからほんのちょっとだけ汗をかいたパフェの器を手元に引き寄せて、長いスプーンを左手に持つ。彼女は一度右手の爪を全部はがされて以来、両利きになった。
 「ミランダ」
 「何さ」
 「あなた2年前何があったの?」
 私はほんの少しだけ間をおいてからたずねた。この質問で多分ミランダも私がこれから何をしようとしているかわかったはずだ。パフェを食べる手を止めて唇についたクリームを舌で舐め取る。
 「クロロに言われた?」
 「・・・・ええ。それもあるし後半分は純粋に私の興味よ」
 ミランダが肩をすくめる。本当ならここでさっさと身をかわして逃げることもできたはずだ。私はその時間を作るためにこうやって前もって問いかけたのだ。触れながら問えば一瞬で彼女の記憶を見ることができる。クロロは多分それをしろと言っていたのだと思う。だけど私はそれをミランダが本当に嫌がるのならやめるつもりで前もって問いかけた。
 「パクがどうしても気になるってのなら別にいいよ。でも他のメンバーには言わないで欲しいかな。どうせシャルとクロロはそのうち気づくんじゃない?」
 「・・・わかったわ」
 私は一拍おいてそう答えた。ここで私自身がやめてもよかった。でもそれ以上に2年前死んだと思っていた彼女がこうして目の前に現れたことの驚きと喜びとそれから、目の前にいるミランダが、私の知っているあのミランダなのか確信が持てなかった。できることならばこの2年前間を埋めたいと思う。埋めてしまって、目の前のミランダが確かに昔の彼女である確信を持ちたかった。
 ミランダは右手でパフェのスプーンを持ったまま、左手を差し出した。私はその手に自分の手を重ねる。
 「2年前に何があったの?」
 ミランダはきっと今全く関係ないことを考えているのだろう。だがそんなことは私の念には関係がない。質問を放つと同時に浮かび上がってくるのはミランダの2年前と、そしてこの空白の2年前間の記憶だ。記憶の量が多くなればなるほどそれを整理し理解するのに時間がかかる。私はしばらくの間黙って目を瞑っていた。何度か頭が痛くなるような光景があったものの、それでも私はミランダから流れ込んだ全ての記憶を受け取って、そしてその半分ほどを理解した。残りの半分はミランダが記憶としてもっていても本人も理解していないためにあまりにもごちゃごちゃなのだ。空白の2年前の間に本人さえ整理できないことを、外部の人間が整理するのは難しい。
 「・・・・・・」
 「誰にも言わないで欲しいな。クロロにもそう言ってよ」
 「・・・・ええ・・・そうね」
 「ちょっとパク?泣かないでよ。あたしはさ、ここにいるじゃん」
 「ええ・・・そうね」
 「何も理解できなくたって、あたしはあたしとしてここにいるんだからそれでいいんだよ」
 私には理解できないことが多かったけれども、それでも目の前にいるのは確かに昔から私達が知っているミランダだった。昔も今もそして、これからも彼女が彼女であることに代わりはないのだろう。



2014.12.14