「へぇそれ水晶髑髏?」
 「ふぅん?」
 オレがミランダに問いかけるとミランダはあまり興味なさげに鼻を鳴らした。
 水晶髑髏とは、古代人の遺物とも言われる不思議な水晶の塊である。髑髏の形に彫られたそれは、現代の科学をもってしてもどのようにして作られたのかがわかっていない。どのような道具を持って彫られたのか、加工の跡を調べても見つからずかといってこのような精密な頭蓋骨の形が自然に出来上がるとも考えがたい。その結果この髑髏が発見されて以降神からの何らかのメッセージなのだとか、悪魔の使いなんだとか色々言われているけれども明確な答えは出ていない。ゴシップ記事はいつだって物好きでこういった意味のわからないものにいつだって飛びつく。シャルナークがいくつか携帯を漁って見せてくれた過去の記事にはこの髑髏の写真と一緒に「呪いの髑髏!」という煽り記事がついていた。
 「へー・・・・・呪いの髑髏ねぇ・・・・」
 「そうそうこの髑髏に触れた奴はその日のうちに死ぬんだとか」
 「えい」
 「ってミランダ!なんでわざわざふれさせるんだよ!!」
 「死ぬか実験実験、ってかフィンクスとフェイタンも触っちゃってるんだよねあはは二人が今日中に死んだらどうしよう」
 ミランダは笑いながらそんなことを言った。このゴシップ記事は多分嘘、だ。どこが嘘かって、この髑髏のモデルとなった人物の呪いなんてところ。これは呪いなんかじゃないはずだ。呪いなんかよりももっと厄介なものをこの髑髏は持っている。だからオレは触りたくなかったし、冗談でもこの髑髏には巻き込まれるつもりはなかったのだ。あくまでミランダに忠告を寄せるだけのつもりで近づいたのに、ミランダの性格をもっと読んで動くべきだった。
 「まぁ、かかってるよねこれ」
 「はぁ・・・わざわざ近づくんじゃなかった」
 オレはため息を吐いて、ミランダが座るソファーに腰掛ける。
 何がかかっているかなんて凝をすれば簡単にわかる。死者の念だ。どのようなものかはわからない。長い年月の中でそこまで嫌な気分にはならないものの、それでも悪意のような、背筋が寒くなるような感覚を凝をするたびに感じる。果たしてクロロとシズクはこれに気づいていたのか知らないが、二人とも特にこれに手を触れることはなかった。ミランダがまず素手で触れて、次にフィンクスとフェイタンが興味を持って触れた。最初は気づかなかったのだという。もうかなり弱くなっているようだし、オレも記事を見つけて奇妙に思ってミランダの手元を凝で見るまでは死者の念がかかっているとは気づかなかった。
 「あたしも盗んできたときは気づかなかったって。でも昨日?今日?からなーんか色々おかしくてさぁ。あれーって思って色々見てたらこれに念が」
 「おかしいって?」
 「この世の全ての物体があたしを殺しにかかろうとしている気がする」
 オレは鼻で笑ったが、次の瞬間そんなことをしているわけにもいかなくなった。突然、オレたちが座っているソファーが消えた。ソファーが消えたというよりも、実際は突然何の前触れもなく床が抜けたのだ。大して古くもない木造の家を軽く改造したアジトの床は二人分の体重で崩れるはずがない。なのにまるで老朽化したような豪快な崩壊。今にもあふれそうな水の入ったコップに石を投げ込んだかのように床が崩れついでに天井の使っていないシャンデリアもオレたちの上に落ちてきた。シャンデリアの方は間一髪、オレたちの体に風穴を開ける前にミランダがオレの手をつかんで一緒に能力で弾き飛ばしてくれたものの、さすがにひやっとした。だがひやっとしたのはオレたちだけじゃなかったのだ。
 「うっ・・・ぐっ・・・・おいさっさとどきやがれ!」
 「げっフィンクスごめん」
 オレはミランダを急かして、床とソファーとオレたちとそれからおまけの天井の下敷きになったフィンクスの上から慌ててどいた。何の前触れもない今の事故は髑髏に触ったオレたちとフィンクスがちょうど一直線に揃ったために起こってしまったらしい。もしも強化系の彼じゃなかったら、と考えるとぞっとしない話だ。背筋が寒くなる。もしもこれがオレだったとしたらだいぶ痛い。
 なんとかかんとかフィンクスからすれば天井、オレたちからすれば床の下からはいずりでたフィンクスは、大きな怪我こそないものの、飛び散った木の破片やシャンデリアの破片でいくつも切り傷を作っている。畜生いてぇ!とぼやきながらフィンクスは今朝からなんだってんだ一体!と叫んだ。
 「これのせいらしい」
 ミランダとオレは髑髏と、それからこの髑髏にまつわる記事をフィンクスに見せる。フィンクスは髑髏を一瞥してぎょっとし、そしてシャルナークの差し出したゴシップ記事のスキャン画像をまじまじと見る。これだけでおおよそのことを把握したのだろう。触った今朝・・・というよりも深夜を越えたあたりの時間のことを思い出して頭を抱えてうめいた。
 「おいミランダ!!てめぇ念がかかってるって知ってたなら言えよ!」
 「あたしだって知らなかったってば~ほかの美術品にはもっとやばい念かかってたのもあったし、混ざってたときはそっちの念の方が強くて気づかなかったわ」
 「くっそおいこれいつまで続くんだ!?」
 「さぁ・・・」
 オレだってフィンクス以上に泣きたい気分なのだ。フィンクスとフェイタンは自分で触ったから自業自得だろうけれど、オレの場合はミランダがふいに触れさせるもんだからほぼ事故で触れたようなもんだ。オレから触るつもりなんてなかったのに、と泣き言を言えばうるせぇと一喝された。
 「あっところでフェイタンは?フェイタンもこれ触ったんだろ?」
 「フェイ?・・・・・・・・・・」
 そういえば、とフィンクスが黙る。フィンクスはとりあえず携帯を取り出してアドレス帳からフェイタンの名前を引っ張り出した。コール三回、わりと早くに出て、電話越しに聞こえるフェイタンの声は普通だったからちょっとほっとしたものの、続く言葉はあまり関心しないものだった。
 「フェイか?お前平気か?」
 『平気?何のことね、それよりもさっきからワタシが入る建物全部崩れる、仕込み傘の骨が折れる、電柱が倒れる挙句に賞金稼ぎに見つかるなんて悲惨なことばかり起こるよ。仕込みの剣は刃こぼれして使えなくなてる。どういうことか』
 「わぁお不幸の連続。フェイタン今どこ?」
 『お前たちこそ今どこいる。ちょと手伝え』
 「シャル」
 「フェイタン通話入れっぱなしで。今から逆探するよ」
 『もう電池n』
 それきりツーツーと途切れた電話にもう笑うしかない。多分フェイタンの奴、反撃に出ようとするたびに何かの不幸に巻き込まれて反撃ができない状態なのだ。オレたちだからこそこんなことを不幸と言ってのけることができるものの、一般人からすれば即死級ののろいだ。
 さすがにフェイタンがかわいそうだし、と言うことでオレたちはまず大急ぎでフェイタンの居場所をつかむことになった。といってもそんなことができるのはオレくらいなものなので、持ってきたパソコンをつけて賞金稼ぎのサイトにアクセスする。ちなみにこのサイトにアクセスするには賞金稼ぎ用のコミュニティーに入る必要があるのだが、ネット上でいくつも顔を持っているオレにとっては擬似的な賞金稼ぎの顔を作るのは簡単なことだ。ネシーという誰だか知らない名前でログインして、オレは最新の記録をざっと見ていく。フェイタンに関する情報はすぐに見つかった。そりゃ天下の極悪盗賊集団幻影旅団の一人が見つかったとなればあっという間に情報も出回るだろう。といっても今シャルナークがアクセスしてるのは、コミュニティーの中でもさらに限定された一部の人間のみが見れるチャット欄である。そこに随時更新される情報によれば、今フェイタンを追っているのはある賞金稼ぎの集団だ。個々の力は対したことはないものの、集まればそこそこの情報操作能力とフットワークを見せる、個人で動く盗賊にとっては厄介きわまりない賞金稼ぎたちである。
 「そう遠くはない・・・・よし・・・ここから車で二十分。フィンクス車準備しておいて」
 「おう」
 「髑髏捨てるか」
 「いや一応持っておいたほうが良いかも。とりあえず注意書き書いてそこにおいておきなよ。捨てるのは尚早だけどもって行くのもちょっと嫌な気分」
 「確かに」
 フィンクスが車を出す間に、オレはもう少し情報を集めるのとそれから追加の情報操作を始める。これ以上フェイタンの情報が表に流れるのはまずい。大体どうやってフェイタンのことを幻影旅団と突き止めたのかも問題でそこを調べようとしたのだが、そこで再び呪いが発生。突然ぷつん、とブラックアウトした画面にオレは悲鳴を上げることになった。
 「ちょっシャル何事!?」
 「ウイルス!?嘘だろ!!どんなウイルスがオレの組んだセキュリティーを潜り抜けてくるっていうんだ!!」
 ざっとバックプログラムを見てもすぐに穴が見つからない。だがどんどんとHDを侵食してくるウイルスをとめるにはもうパソコンを壊すしか今は手がなかった。時間があるならともかくも、今はちょっとしたことが次の大事につながりかねないのである。オレは意を決してパソコンを閉じて硬をした拳をパソコンに振り下ろす。さらば、オレのパソコン。わりと気に入っていたのに、という感傷に浸る間もなくそのまま再び床が抜けてオレとミランダは悲鳴と悪態を盛大についた。
 「「くそったれ!!」」





 今日はなんという一日なのだろうか!驚くほどに運がない、本当にこれは呪いとしか表現のしようがないレベルで、だ。
 フェイタンの助けに向かおうと車を出そうとしたフィンクスは突然のエンストで動かなくなった車を蹴り飛ばす羽目になったし、オレとミランダはもちろん本当は机ですら壊れるはずのないオレの一撃で抜けた床材に挟まれそこから抜け出すのに一苦労した。壁も崩れていたせいで、ドアから出ることかなわず、窓から出ようとすれば、ダブルハングの上げ下げ型の窓が突如として落下。割と重たいそれに首を挟まれたミランダはぐえっとカエルのつぶれたような声を出す。多分一般人だったらこれ死んでたと思う。窓をぶっ壊し表に出たとたん今度はオレの足の下で過去の戦争の遺物、つまり地雷が爆発した。ここは確かに戦争に巻き込まれた市街地で、地雷が埋められているということもありすっかりと廃墟になってしまったとある町である。ただ一応政府の一大事業で地雷や不発弾をはじめとしたものは一通り撤去されたはずなのだ。政府側も安全を保証したものの誰も好んですまない場所だというのに、なぜ今更になってという感が否めない。何があるかわからないと注意をしていなければ割りと痛かった気がする。ミランダと二人で地雷に吹っ飛ばされ、うめき声を上げたところでフィンクスが車がうごかねぇとやってきた。
 「走るか?」
 「車で二十分、最高速度ですっ飛ばしてって意味だから、走って四十分ぐらいかな」
 「笑えなーい」
 「フェイタンもオレたちのほうに向かってきてくれてると信じよう。となるともうここは廃墟にした方がいいかな。オレここ始末してからいくから、二人で先に行っててよ。あっと髑髏はミランダよろしく」
 「えー!!」
 「ミランダのだろ、オレだってこんな髑髏と一緒にすごしたくない」
 「ちぇっ!」
 ミランダは悪態をつきながらも髑髏をいつもいつも使ってるウエストポーチの中にしまった。サイズ的にウエストポーチの口が閉まるかぎりぎりだったが、なんとか落ち着いたらしい。落ちないかな?と気にしながら軽くアップをしてから、ミランダとフィンクスは走り出す。強化系の二人だから多分オレがいるより早くフェイタンのところへつけるだろう。念のためミランダにはオレの二代目の携帯も持たせているから、いざとなればすぐに追えるはずだ。
 オレは今回の件についてまずはクロロに報告しなければと電話をかける。また何かあるかと思ったが案外あっけなくつながった電話で、オレはクロロに事のあらましを説明した。クロロはちょっと興味を持ったようだが、人をあれだけ惹きつけるカリスマ性を持つクロロは呪いもとっても大きなものを引き寄せそう・・・というなんとも主観的な理由で今回クロロの介入はお断りさせていただく。とりあえずそんなわけだから、今オレたちがいるアジトは放棄する旨を伝え了承を得た。
 『シャル、シズクは直接触れてないから平気だと思うが一応忠告を入れておけ』
 「わかった。悪いんだけどクロロ、オレが連絡するとまたなんかありそうなんだ、このアジト放棄することほかのメンバーに伝えてくれない?」
 『伝えておこう』
 「シズクにはオレから。あとクロロ除念師知らない・・・よね?」
 『あいにくだがな、調べることはできるが』
 「じゃそれも頼みたいかも」
 オレはクロロに簡単にそんなことを告げてから、電話を切った。もう一発地雷を踏み抜きながらもオレはオレたちがここに居たという証拠を全部抹消してから、家を出る。シズクに電話を三回かけて三回ともつながらず、結局一度簡単な説明を入れたメールを送信した。フェイタンの救助は強化系の二人に任せようと思う。そもそもオレはそういうの得意じゃないし、それよりも先に賞金首のサイトにさらされているフェイタンの情報の源を突き止めることとこれ以上の情報拡散を防ぐことそれから除念師の捜索が先だ。
 「こっから近い町って・・・どこだっけかな」







2014.12.14