仕事は基本的に時間きっかりにはじまる。あたしとフェイタンは美術館に通じる一般道をのんびりと歩いていた。それこそ、ただのカップルのように、時折会話を交え、高級住宅街の丁寧に整備された生垣に時折触れながら美術館の入り口に向かった。すでに日も沈み、上流階級の人間が集まるところであるためにほとんど人のいない空間は、誰もいなくて歩いているだけでも気分がいい。あたしはフェイタンとそんなことをぐだぐだと語っていた。人が多いところは騒がしいとか、かといって静か過ぎると寂しいだとか、フェイタンは大抵あたしの言葉を否定したけれども、人が多いとうるさくてかなわないというところにだけは同意してくれた。
 角を曲がって広い敷地を眺めながらしばらく歩けば厳重な警備が敷かれた博物館の入り口に差し掛かる。ほとんど人がいないだろうこんなところで警備とは、と思うものの念能力者だ。油断のない目つきであたしとフェイタンのことを見ていたが、残念ながら実力はいまいち。あたしは入り口にいた五人目の額に銃を突きつけて引き金を引きながら、残念、と呟いた。あたしが一人をしとめる間にフェイタンは四人目に手をかけている。まったく仕事が速くてかなわない。
 「何やてるか。遅い」
 「フェイタンが銃弾より早く動くのがいけなーい」
 あたしは銃弾の速度以上はだせませぇん、と言えばミランダが遅すぎるね、と厳しいお言葉をいただく。だが良く考えれば普通の人間は銃よりも早く動く必要はないのだ。残り5発。基本的に肉弾戦は苦手。強化系だけど、強化系の全員がウボォーギンのように対戦車ミサイルまで弾き返せるとは思わないで欲しい。まぁあたしだって能力を使えばあれぐらい余裕なわけなんだけど。
 「ワタシ右、ミランダ左」
 「おっけ、あっ待った逆にしよう。右の方が階段近いや。二階に先に行かないといけないし」
 「そうだたね。ならワタシ左いくよ。どちが先に奥の部屋につくか勝負するか?」
 「勝負にならないからパス」
 あたしはあっさりとフェイタンの誘いを蹴った。大体あたしはフェイタンのように早く動けないと何度言えばわかるのだろうか。勘弁して欲しい。あたしはひとまず通路の監視カメラやらは気にせずにとにかく警備員を片端から片付けていった。圧倒的に数が少ないのはおそらくシャルナークが情報を操作して、フェイタンの方に敵を集めているからだ。多分あたしたちがこの建物の内部に入った頃にはすでにシャルナークが管理室を制圧している。あとは監視カメラであたしたちの動きを監視しつつ、外部への情報漏えいを防ぎつつ、あたしたちの援護をする。まったくなんでそんなに頭が回るのか知らないが、とにかくシャルナークが一人いるだけで仕事も仕事の後始末もはるかに楽になることは確かだった。逆に言えばその分すごい量の仕事がシャルナークに回っている気がしないでもないが、気にしない。あれは生まれついての社畜だとあたしは思う。
 二階の何の変哲もないように思える一室。あえてこんな中途半端なところにこんな部屋を設けたのはおそらく突発的に進入してきた賊の目をごまかすためなのだろう。確かにこんな手前に何か大切なものが隠してあるとは想像しにくい。今回はシャルナークが事前に下調べをしているからここだとわかっているものの。
 あたしは扉を押し開けてそれと同時に能力を発動する。
 "自己実体表現(ストップモーション)"
 能力そのものはいたって簡単、円を広げたあたしの体の周りの物質を全て固定する。といってもサイズ制限があるからなかなか面倒なのだ。物質がすごく小さければ問題ないのだが、大きな・・・・そうたとえば拳とか銃弾とかそういったものは事前に周で囲んでおいてからじゃないと固定できない。戦闘中にそんなことをするのはほぼ無理なので、あたしは銃弾を固定して止めたことなどない。そんな器用なことをあたしに求めないでくれ。ただその一方で粒からなる光は固定できたりするから、一拍おいてあたしの姿は突然見えなくなってしまう。ほんの一瞬のことだ。これは周りからやってくる光の粒が固定されて、改めて動き出しあたしの体に反射するまでの時間があるからである。時間にして二、三秒。だがこれだけあればあたしは監視カメラに姿を見られることなく破壊することができる。シャルナークがあたしを監視カメラ破壊係りに任命するのはそれがたとえ赤外線カメラであっても、あたしの姿を捉えることができなくなるからだ。
 この部屋のオフラインのカメラは、録画データを保存しているブラックボックスを探すよりもカメラそのものを破壊してしまったほうが早い。あたしは部屋に設置された三箇所と、それから隠されるようにおかれた二箇所を破壊してこの部屋の仕事を終えた。これで五発。あたしは改めて弾を銃に込める。部屋を出て廊下の監視カメラに向かって軽く手を振ると、監視カメラが一度ぐるりと回転した。なんてこったい、どうやったらそんな芸当ができるんだ。あたしは肩をすくめて残りの殲滅に走る。

 


あたしは銃を使うほかたいしたとりえはなかったりする。強化系の能力「自己実体表現(ストップモーション)」は物体が動く力を超えて強制的に押さえつけるいわば力技だ。強化系は動くものに更なる力をなんてイメージがあるけど、それは電車を後ろから押しているようなもの。あたしは逆に電車を前から同じ力で押して電車を止めているようなものだと思って欲しい。力のベクトルをどこに向けるかってことだ。女じゃどうしたって体を鍛えるにも限界があるし、その上にある肉体のパワーを強化するなんて無茶だ。まぁウボォーにあこがれないわけではないけれども、現実は見ておこうと思う。あたしだって一応肉体の強化だってそこそこできるのだ。
 警備員の撃った銃弾はあたしの能力発動よりも早くあたしに到達した。といってもたいした威力もない銃だ。このぐらいなら、と思ったもののやはり衝撃はある。額にぶつかって「痛ァっ!」と叫ぶとそれよりも大きな悲鳴を警備員が上げた。そりゃそうだ。普通の人間は銃弾を真っ向から食らって痛いなんて可愛い悲鳴は上げない。今の悲鳴は可愛くないという意見にはあたしは耳を貸さない。まっすぐ手を上げて引き金を引けば警備員はあっけなく倒れた。どうでもいいがあたしは両利きだからどっちの手でも銃は撃てる。
 銃弾の残数を数えてからゆっくりと角に近づく。あたしだったらこういう曲がり角では相手が出てくるのを待つ。待ってうかつに相手が体を覗かせたら撃てばいい。たとえそれが体のどこでも健康体と違って必ず何らかの負の影響を与えるはずだから、たとえ掠めただけでもとりあえずあたしの方が優位に立てる。うん、ウボォー相手じゃ多分銃弾を掠めることすらも難しいだろうけど。
 曲がり角の向こうには確かに何かがいる。ただ呼吸すらも聞き取れないほどに気配もなく、あたしは少し緊張しながら壁に張り付いた。一呼吸おいてから能力を発動しながら一気に角の向こうへ身を躍らせる。これだけの能力者ならどっち道隠れていてもあたしの位置はばれていると思ったからだ。それならば逆に相手の攻撃を待つこともない。能力が発動していればどんな物理攻撃もあたしには到達しない。目の端を細い何かが動いた。だがそれは当然あたしの作った物質の見えあい壁に阻まれて弾き返される。よっぽど力が強かったのか、手を外れて飛んでいったそれはふわふわとした絨毯に突き刺さって動きを止めた。
 「ち・・・ミランダか」
 「ありゃフェイタンじゃんごっめーん」
 「何度食らってもタイミングが掴めない」
 「はっは、そうじゃないと使えない」
 あたしは反作用で思い切り攻撃を食らったフェイタンが右手を押さえてぶつくさと文句を言うのを見ながら、弾き飛ばされたフェイタンの仕込みの細い剣を拾う。まるでレイピアのようだが、一応両刃だ。軽く手に触れただけなのにあっけなく皮膚が割けてげ、と呟く。
 「ミランダ、あまり勝手に触るな。ワタシの武器の切れ味が落ちるよ」
 「あたしの心配は?」
 「いっぺん死んで生き返った人間が何を言うか」
 にやっと笑ってフェイタンが言う。要するに2年前のことを言いたいのだろう。あたしここにいるじゃーんと言えばフェイタンは「知てる」と返された。
 「お前ゾルディックからどうやて生き残たか」
 「なーいしょ」
 にやっと笑えば相変わらずフェイタンは仏頂面で不機嫌をあらわしたが、あたしはそんなの構っていられない。首筋に剣を突きつけられて拷問して吐かせようかという物騒な一言をいただいたが、あたしは全力で遠慮した。昔流星街にいたころ、フェイタンと拷問ごっこをしていて遠慮容赦なくつめをはがされたのをあたしは今でも覚えている。あの時は痛かった。しかも泣いて叫んでも面白いとのたまう目の前のこいつはあたしの右手の指の爪を全部はがしたのだ!!フェイタンが左手にかかったところでパクノダがとめてくれたが、あの時とめてくれなかったら多分爪全部はがされていた気がする。拷問ごっこであたしが拷問される側って言ったのは確かだが、実際に爪をはがすとは思わなかった。いつかやり返してやると思っているものの、あいにくとそんな機会はきそうにない。
 それからフェイタンと一緒に残った警備員を片付けながら歩き回ればやがてざざっという砂嵐の後にシャルナークの声が館内に響いた。
 『お疲れ様、二人とも。とりあえず館内は全部殲滅終了。もうクロロとシズクが動いているから二人とも合流してもいいし、このまま帰ってもいいよ』
 「あいあーい、クロロとシズクどこにいんの?」
 館内放送は基本一方的だから、返事をしたところでシャルナークには聞こえないだろう。だが監視カメラを見てあたしの唇を読んだのか、シャルナークからは『二階の中央』という返事が返ってきた。さすがシャルナーク。
 フェイタンはこのまま帰るというので、その場で別れて、あたしはクロロとシズクがいるという二階に向かった。屍累々。あたしはほぼ二階を回ったものの、フェイタン一人で一階と三階のほぼ全部を片付けてしまったらしい。しかもシャルナークの情報誘導によってあたしよりもはるかに多い敵を片付けているのだ本当に恐れいる。
 あたしがクロロとシズクのいる部屋に入るとちょうどシズクが掃除機で大層なつぼを吸い込んでいるところだった。ぎょっとして「ほえあっ!?」と変な声が出たが、クロロもシズクも気にもかけない。つぼはどう考えても入りそうにない掃除機の口からあっさりと吸い込まれてしまう。大体掃除機の本体だってつぼよりはるかに小さいのに・・・・と思ってシズクの回りをぐるぐると回っているとシズクに「目にうるさい」と言われた。あたしの方が蜘蛛にいた期間は長いし、蜘蛛の8番の先輩なのに!と悲鳴を上げるとクロロにもうるさいといわれた。だけど一応クロロからシズクの念であることは説明してもらった。つっても「シズクの能力だ」という一言だけだったけど。掃除機の中はシズクでさえもどうなっているのか知らないらしいけど、とにかくたくさん入って最近入れたものだったら表に出せるのだそうだ。なんて便利な能力なのだろう。よっぽどあたしよりも盗賊集団の蜘蛛っぽい能力で、こりゃあたしより8番に居たほうがいいななんて思ったのは内緒だ。何も8番にいなくてもいいんだから個人的には8番はあたしが戻って別の番号にしてくれないかなと思ってる。
 なぜあたしが8番にこだわるのかって?そりゃ丸っこいからである。あたしは昔から丸いものが好きなのだ。なぜかはわからないけど、流星街ではたまに見つける綺麗なビー玉を集めるのが好きだった。たくさん集めてたくさんたくさん箱の中にためていた。大きくなって盗賊をやるようになってからは、目玉を集めるのも好きになった。目玉そのものが好きと言うよりもあの綺麗な球体が好きなのだ。人によって違う色合いを持つのも良いし、形も綺麗だし、本体にくっついた状態でまん丸な瞳孔を見るのもいいけど、抉り出して瓶の中に浮かべているのも綺麗だと思う。まぁ瞳孔も何も丸っこいから綺麗なのだ。たことかいかとかは微妙。猫も瞳孔が細くて微妙。全体の形は綺麗だけど、やっぱり人間の目玉はいいなと思う。といっても好きなだけで集めるほどの趣味でもない。くれるなら、もらうけど。だからあたしは丸っこい8番が好きなのだ。球体が二つくっついていて綺麗。
 だからあたしは8番がいいというのに!シズクは理由は特にないが、8番を動く気もないらしく結局あたしとシズクで8番争いが勃発。しかし旅団に入りたくてあたしの8番を狙うならともかく、あたしもシズクもすでに蜘蛛に所属しているものだから、今更番号争いをするというのはマジ切れご法度の蜘蛛のルールに違反する。クロロにどうしようと言うと、あたしの番号をそもそも保留にされた。なんてことだひどい。何度も言うけど蜘蛛の中で言えばあたしがシズクより先輩だし、あたしの方が付き合いが長いのだ!!それを主張したところでクロロは理由になってないと却下し、もう一度蜘蛛をやめてやる!と叫んだらクロロに頭を殴られた。まったくせっかく戻ってきたのにひどい話である。
 ところで、クロロとシズクが一つずつ盗むものを回収している間に、あたしも面白そうなものがないかと物色した。丸っこいものがいいので丸っこい宝石か何かないかと思って探していたら奇妙なものを見つけた。裏っかわから見たときは完全な球体に見えたのだけれど、表から見ればそれは頭蓋骨だった。脳みそが収まっているところがすごく綺麗な球面を描くクリスタルの髑髏。クロロにこれがいいーというと、シズクが掃除機を向けてあっさりと吸い取ってくれた。ありがたい・・・ありがたいけど・・・・今掃除機の口の部分に舌が見えた気がしたし、口に入る直前髑髏によだれが絡みついた気がしたのだ。あれ・・・表に出てくるときはどうなってるんだろう・・・・・。




2014.12.14