それなりに有名な盗賊集団となった幻影旅団であるが、何も好んで目立つわけではない。ただメンバーの性格上派手好きが多く、結果として大事になることが多いだけだ。メンバーの集まり方によっては、痕跡も残さずに終わることすらもある。ただ最近は大きな仕事で騒ぎになることが多いせいで、犯人不明の大規模な盗難事件は大体幻影旅団の仕業にしてしまえという風潮が世間一般にあるような気がしてならない。
 「ちょっとクロロー。仕事あるなら誘ってって言ったじゃん」
 「今のニュースのか?あれはオレたちじゃない。じきに犯人は別に見つかるだろう」
 「なんだ違うのか」
 「近いうちに行くぞ」
 「オッケー。予定あけておく」
 そもそもあけておくほど予定が詰まっているのかが謎だが、ひとところにいるよりもいろんな場所へ移動するのが好きな彼女のことなので、また仕事の日に遠くにいないようにするよ程度の意味なのだろう。そうしろ、と呟く言うように言うと、ミランダは勝手にオレのコーヒーを持っていった。飲みかけなんだが、と言う間もなく飲んで冷たいと返される。勝手すぎる気もしたが、それを告げる間もなく彼女はどこかへいなくなっていた。そういえばミランダにいつ盗みに入るのかということを伝え忘れたのだが、本人は一体いつの予定をあけておくつもりなのだろう。
 「オレ三日後に気づいて確認電話かメールがかかってくるに一万J」
 「ならオレは五分後だ」
 「なんだ、ミランダの判断力をよく信用してるね」
 ミランダと入れ違うように入ってきたシャルナークが笑いながらそんなことを言った。オレは別にミランダの記憶力や判断能力を信用しているわけではない。ただ、現状を考えてそうなるだろうと予測しているだけだ。賭けにもならないな、と思っていれば案の定。ミランダが部屋に駆け込んできて、「そういや、盗みに行くのって今日なの?」とフェイタンと共に聞いてきた。
 「えー、なんだクロロ、フェイタンがいること知ってたの?」
 「今日このぐらいの時間に来ると言っていただけだ。オレのコーヒーに文句を言った人間が下でコーヒーを入れにいって、フェイタンと合って今晩の仕事について何がしか話すだろう。嫌でも確認に来る」
 「ちぇっ、賭けにもならないや」
 シャルナークは悔しそうというよりも楽しそうに笑って携帯の画面を見せた。金勘定にはうるさい男だ。一万Jの賭けにはあまり興味がなかったが、シャルナークは几帳面に一万Jを振り込んだことをオレに確認させる。これでオレが画面も見ずに確認したとでも言えばひどく文句を言われるのはわかっていたので、一目確認してから「確認した」と告げた。
 「今晩、個人の運営する美術館を襲撃する。詳細はシャルナークに聞け。メンバーはオレとシャルとフェイタン、シズク、それからミランダも参加するな」
 「もちろん。なに、対象は拷問器具?それとも美術品?」
 「幅広く集めてるよ。個人の資産家が趣味で集めたような、基本そんなに統一性なし。ミランダも一覧見て興味があれば好きなもの持っていけば?」
 「いいね」
 ミランダはシャルナークから目録を受け取ってぱらぱらと眺める。屋敷の主は何も一般人に向けてこの私立美術館を公開しているわけではない。美術館に展示されているそのほとんどは闇オークションて競り落としたもお、または盗品、または非常に特殊なルートで手に入れた売れば億を軽く超える価値のあるものばかりである。この美術館に入れるのは一部の上層階級と、屋敷の主と仲の良いものだけ。それなりの金を払えば入ることもできるらしいが、法外な入館料を払って入ったところで、見られるのは当たり障りのないものだけである。以前シャルナークと下見に行ったものの面白いものは何一つ表に展示はしていなかった。
 「シズクとクロロは基本美術品の回収。フェイタンとミランダは実行部隊。できればミランダには先に独立して動く監視カメラを狙っておいて欲しい」
 「あいさー」
 「今回は報復戦だ、派手にやれ」
 「報復戦?」
 「前に盗もうと思っていたものが先にこいつに持ってかれたんだよ。オレたちの名前を使って、うまいこと脅してね」
 目録の次はシャルナークが用意した詳細な屋敷の地図が載っている。オレもシャルナークから一部受け取りミランダも含めた動きを確認する。といっても蜘蛛の盗みなどあまり細かな決まりなど存在しない。実行部隊が二人、ある程度かく乱してからオレとシズクが盗むものを集めていく。シャルナークは情報操作に動くだろう。そのあたりは任せておいても何の問題もない。強いて言うならば二人が欲しいものを事前に確認しておくこと、それからどれが贋作で、どれが本物かよく確認させることだ。贋作ならば興味はない。いくら壊されても問題はないが、ここの美術品の中には世界で一品しかないものも含まれている。うっかりで壊されてはたまったものではなかった。
 「ふぅん・・・・んん・・・そんなに欲しいものないけど・・・・でもどうせ目的のもの以外にも一通り盗るんでしょ?それからなんか気に入ったものがあればって感じで」
 「・・・・気に入りそうなものを選んでおこう。フェイタンはもうピックアップしたか?」
 「ワタシが欲しいものここに書いてあるよ」
 オレはフェイタンからチェックリストを受け取る。かさばるもののオレかシズクの能力があればそう困ったものではない。了解した、とリストを覚えた上でフェイタンに目録を返す。
 「ねえそういえば壊して欲しい監視カメラってどこの奴?」
 「オフラインの奴ね。ええっと二階の地図」
 ミランダの能力は簡単に言えば自分の円の中に含まれるものの固定、である。細かな誓約はあるものの、基本的に物質の直径を示す単位がmm以下になるものはほぼ全てのものをその場に固定できる。たとえば空気中の塵、埃はもちろん窒素分子や酸素分子といったものも一瞬であるが動きを止める。さらに光の粒でさえも動きを止めるので、一拍おいて彼女の姿が一瞬見えなくなるのもミランダの能力「自己実体表現(ストップモーション)」の特徴である。この能力の最も恐ろしいところは、全ての物質がその場に固定される、つまりミランダは一瞬ではあるが強固な壁を手に入れることになる。一度試したが、タイミングさえ合えばウボォーギンのビックバンインパクトですらとめることができる。それどころか加減して撃ったはずのビックバンインパクトの威力がそのまま返ったためにウボォーギンの方が怪我を負うことになったのである。物理攻撃に対する絶対防御、これがミランダの能力である。もちろん誓約と制約によって得られるものであり、使い勝手がよいものとは言いがたい点は多くある。ただそれでも得られるものなら欲しいと思う程度には汎用性の高い能力だ。
 オレは一通り確認した資料をシャルナークに返す。シャルナークはそれをしまうと「それじゃ、今晩に」とだけ言って部屋を出て行った。ミランダが持つ一冊はシズクに一度目を通してもらうためのものだ。オレはシズクがきたらそれを渡しておけよ、とミランダに言って再び冷めたコーヒーと共に本の世界に戻った。




2014.12.14