ヨゴトノリトのパラドクス

剣舞

 季節は夏から秋に変わろうとしていた。紅葉はいつの間にか衣替えを済ませて、寒い風が時折ぴぃぴぃと窓の隙間で鳴っている。風でがたがたと窓が揺れるのを見ながら、二人しかいない教室の中で五条悟と家入硝子は特に楽しくもない自習を行っていた。何でも担任の夜蛾先生に急な任務が入ったとかで、急遽自習になったのだが、いつもなら騒がしく問題集と格闘している曜次が居ないだけで教室はしんと静まり返っている。
 この時期は呪霊の発生も落ち着きはじめて、呪術師としての活動は暇が多くなってくる。年中忙しい時期もあるのだが、それはどちらかといえば稀なほうだ。夏頃に多くの呪いが排出されて、それを祓う、というのが通常だった。だから傑と曜次の二人が任務に行っているのも、この時期にしては珍しいことだ。上級生はこの時期、京都府の呪術高専との姉妹校交流会が待っているので、それに力を入れているが、今回傑と曜次の呼び出しは交流会とは全く関係がない。
 そういえば、とふと悟は思う。もうじき月が替わるが、曜次は毎月月初めにどこぞへ仕事へ行く。授業の成績はなかなかひどいものだが、授業があろうとなかろうと、月初めには何らかの行事があるらしかった。それに必ず参加しないといけないというようなことをちょっと前に聞いたことが歩きがする。
 悟はいつも、月初めに仕事へ行く曜次に「どこへ行くの」と尋ねたが、その度に「昔からの慣わしで」という中途半端な答えが返ってくるので、要するにあまり言いたいことではないのだろうと察して最近はあまり聞かなくなった。曜次は傑と一緒に居ることが多いから、もしかしたら傑は知っているのかもしれないが、聞いたところで教えてくれるとは思わなかったので聞かない。
「ほんと、いつもどこ行ってるんだろうね」
「そんなに興味がある?」
 天野曜次の後に入学してきた家入硝子は、あまり関心がないと言った様子で本を広げていた。悟も傑もそうであったが、呪術師というのは基本的に自身の術式が人に知れ渡ってしまうと多くの場合、戦闘で不利になることが多いため、術式は明かさない、できる限り人と話さないということを徹底する場合が多い。曜次はその中でも例外的な存在だ。例外と言うのはつまり、術式がばれても全く問題ないと言うことである。曜次の術式は主に降霊術に寄ったものだが、それ以上に一級の呪具を扱えることが曜次の強みである。仮に術式が暴かれたとしても、曜次の刀を捌ききれなければ全く意味がない。故に、曜次は隠さない。
 悟と傑はそれなりに隠してはいる。同じ任務に出れば当然、お互いの術式を見ることになるため、お互いの術式についてはそれなりに知っているが、それをぺらぺらと人前で話すのは無作法というものだ。それ故に、呪術師は口が堅くなりがちだ。そういう意味でも天野曜次と言う存在は色んな例外を抱えた人物と言えるだろう。
 悟はそんなことを思いながら、前の席に座って大判の本を広げている硝子の髪の毛をくるくると指に巻きながら「何読んでるの」と言った。硝子はあっさりと答える。
「解体新書」
「それ面白い?」
「興味よりも実務」
「そっか」
 今日は傑と曜次が任務で居ないため、教室はいつにも増して静まり返っている。硝子は決して付き合いが悪いわけではなかったが、悟の軽口にほいほいと乗るほど暇人を謳ってはいなかった。悟が暇なのか、といわれたらそれも違うのだが。
「興味がある、というか、いや、うん興味があるのかな。友人がさ、何に興味を持っているのか、ってことに興味があるんだよね」
「なるほど、そういう意味なら解体新書は面白いよ」
「いや僕はいいや」
 硝子は表情を変えずに振り返るとどん、と解体新書を悟の机の上に置いた。家入硝子という人物は存外肝が据わっている。硝子のように反転術式を使える呪術師は貴重であるため、硝子はほとんど実戦に出たことがなかった。実戦に出ずとも、高専内の任務は山のように降ってくる。二日に一度は誰かが怪我をして硝子の元を訪れるので、硝子はわずか十五歳にして、緻密で複雑な反転術式をかなりの精度で扱えるようになっていた。腕を生やせだの足を生やせだのといったものは無茶が過ぎるが、かなり大きな傷でなければほとんど傷跡もなく塞ぐことが出来る。呪術師になって傷跡が残ったり残らなかったりを気にする存在は少ないが、傷跡が残らないなら、ないにこしたことはないといった程度だろうか。
「私の術式の都合上、人体に関する知識はあればあるだけいいんだ。だから」
「なるほどね」
「あまり興味がないなら聞くな」
 呆れたような硝子の言い方にごめんごめんと誤りながら、窓越しに晴天の広がる空を見た。雲ひとつなく、からりと晴れ上がった空は高く、どこまでも続いているように感じられた。そういえば傑が、空を飛べる呪霊を飼っていたな、今度乗せてもらってどこまで高く飛べるか試してみたいななんてことを考えていると、何の前触れもなくがらりと教室の扉が開いた。
「硝子! 悟! でかけよう!」
 曜次の楽しげな声がする。それから教室内にぷん、と漂ってきた臭いに悟と硝子は思わず鼻をつまんだ。
「くっさ! 何これ、曜次何したの」
「どろどろだし」
 白いはずのワイシャツは泥まみれで元の色がわからない、ズボンにも顔にも、乾きかけの泥がへばりついていてひどい有様だ。唯一綺麗なのは曜次が持っている刀ぐらいなもので、あとはもう見るに耐えない。
「肥溜めに落ちたんだよ、先に風呂に行けって言うのに話を聞かないから」
 その後ろから悟と硝子と同じように鼻をつまんだ傑が出てきて言う。
「説明は私からするから、とにかく君は風呂に入って来い。校舎にひどい臭いをばらまいているんだ君はさっきから」
「はーいじゃああとでね」
 曜次はそういうとばたばたと騒がしく廊下を走っていった。どこにいても騒がしい。
 傑は、はぁ、と一つため息をついてから教室の扉を閉めた。そしてやれやれといった様子で自分の席に座るともう一度ため息を吐く。
「ため息を吐くと幸せが逃げるよ」
 こそっと悟がからかうように言うと、傑がすぐに言い返す。
曜次と一緒に任務に出るとため息しか出てこないんだ、今度は君が曜次のお守をやればいい」
「断るよ」
 けらけらと笑いながら悟は答えた。同感、と言葉を続けたのは硝子だ。
「で、でかけるってどこに?」
「先に行っておくけど私パス」
「ああ、あれね。月初め曜次が毎回どこに行くのか、悟も気になってただろう」
 まさに先ほどまでその話をしていたので、思わず悟と硝子は顔を合わせた。
「なんだよその顔は」
「いや別に、ちょうどさっきまでその話をしてたところなんだ、で?」
曜次が夜蛾先生に許可を取ったらしい。次の仕事についてきてもいいってさ」
「へぇ! 面白そう!」
 悟はすでに乗り気で身を乗り出している。
「傑も行くの?」
「行くよ」
「へぇあんまり人に興味がないと思ってたけどそうでもないんだね」
 それで、と悟は話を続ける。
「結局出かけるってどこへ出かけるんだい」
天野神社だってさ」

 これからいく天野神社について詳しいことは知らなかったから、結局曜次がどこへ行くのかと言うことがはっきりしたのは、次の日のことだった。
 肥溜めに落ちて染み付いた臭いはそう簡単に落ちてくれなかったらしく、曜次はシャツとズボンを捨てたらしい。その他は捨てられないので、何度も何度も洗ったのか、若干皮膚が赤くなっている。しかしそのおかげか、昨日のようなひどい臭いはさっぱりとこそげ落ちていた。
「で、でかけるってどこへ?」
「だから天野神社、天野に縁のある神社だから、俺の家の神社って言い換えてもいい。刀鍛冶の神様を奉っている神社だよ。地元じゃそれなりに有名なんだけどさ」
 今回は任務と言っても高専から直に降りてきた任務ではないので、送り迎えはない。そのため三人は電車を乗り継いで、東京の山奥からさらに山奥へと向かっていた。
 電車にがたんごとん揺らされながら、三人は人の少ない車内で、先ほど止まった駅で買った駅弁を広げる。合間合間に曜次がしゃべるのだが、口にものを入れてしゃべるものだから何を言っているのかさっぱりわからない。最終的に傑に足を蹴っ飛ばされて、食事が終わるまで口を開くなといわれた曜次は無言で食事を終えると、弁当が入っていた袋をゴミ袋代わりに何もかも詰めてきゅっと口を結んで、ようやっと続きを話し始めた。
天野神社って昔からある神社なんだけどね、刀鍛冶の神様を奉っているところなんだけど、天野家が昔から呪術師を輩出してきたように、神社では憑き物のお祓いなんてのを生業にしてきたわけ。剣舞ってわかる?」
「けんぶ?」
「剣に舞で剣舞?」
「そうそうそれそれ。けんぶとかけんばいとか色々言い方はあるんだけど、俺の家は昔からそれをやってきたわけ。呪霊が見えない人にとってはさ、刀軽く振って「はい終わりました」じゃなかなか納得できないわけじゃん。だからそういうパフォーマンス的な」
「つまり呪霊を祓うための剣舞を毎月月初めにやっていると?」
 ごちゃごちゃとわかりにくい曜次の話をさらりとまとめた傑に、曜次は「そうそれ!」と返す。そろそろ説明が面倒になってきているらしい。
「俺のところの神社は有名だからさぁ、まぁ色んな人が集まるわけですよ。その中には結構ヤバイ呪いを抱えてる人もいて、そういう人の呪いを別のものに憑依させたり封印したり一時的に神社で預かってるわけ。でさ、それをまとめて祓うのが月初めの禊、なんだよね」
「集めてまとめて斬るのか、効率がいいっちゃいいね」
「結構重要なお役目なんだよ」
 曜次は悟の言葉に頬を膨らませる。
「そう、そう、でさ、憑依・降霊は俺の家の術式だから、まぁ俺以外にも使える奴はそこそこいるわけ。でどうしようもない奴は俺がでるけど、普段はそういう小さな呪いとか集めておいて、月初めの禊なわけ。まぁ要するに大祓いを毎月やってるって感じ。普通は半年に一度でもいいんだけどさ、俺のところは有名だからもう呪いをどっさり集めてきちゃうわけなんですよ」
「やっぱり、当主は強いの?」
「当主が強いっていうより、強いから当主みたいな」
「わかりやすい制度だね」
「といっても才能が見込まれれば五歳ぐらいから当主になっちゃうから」
 そこからは話がそれて、この間の任務で見た奇妙な呪霊の形だとか、刀の話だとか、色々な話をした。三人はまだ付き合いが短いから、お互いについて知らないことは山のようにあった。だからその距離を縮めるように、溝を埋めるように三人は、空っぽの電車が目的の駅にたどり着くまでの三時間ほど、ただ話をすることに費やしたのだった。
 話をしていると三時間と言う時間は思っているよりもはるかに短く感じるものだ。座りっぱなしだったせいですっかり凝り固まった肩や背筋を伸ばしながら、電車から降りると、少し肌寒い風に体を震わせる。電車の中が温かかったから余計に、外へ出ると寒く感じた。脱いで適当に鞄に詰めていた上着を引っ張り出して着なおした三人は、曜次の案内で屋台の間を歩いていく。別段、大きな祭りがあるというわけでもないのに、天野神社の境内までの道はにぎわっていた。今日が休日ということもあるのだろうが、それ以上にどうやら剣舞目当てにやってくる人も多いらしい。
 鳥居の向こうに続く長い階段を上りきると、曜次はまっすぐ社務所に向かった。
 神社の境内もたくさんの人が集まっている。お参りに来た人も、早くから剣舞の行われる神楽殿の前で待っている人も様々だ。
 社務所の裏口から入ると誰も彼も曜次に声をかけてくる。そのひとつひとつに「はぁい」と手を振って答える曜次は、社務所の奥でなにやら気難しい顔をして刀と向き合っている初老の男性に声をかけた。
「じっちゃーん! 友達連れてきた! 今日の祓い一緒に手伝ってくれるって」
「おい!」
 そんなこと聞いてないぞとばかりに傑が慌てて声をかけたが、曜次はいいじゃんいんじゃんと二人の手をとってそのまま男性の前に立つ。
「いいじゃん、手伝ってよ、今回すごい厄介なの拾ったらしくって」
 それから全く可愛くないのだが、動作は可愛らしくお願い、と手を合わた。曜次がこうして誰かを頼るのは珍しい。彼は基本的に呪霊祓いんに関しては自分でなんとかできるので、わざわざ他人に頼みごとをしないのだ。
 そんな三人のやり取りを聞いていた初老の男性は「なんだお前の妄想じゃないんだな、友人ってのは」と随分なことを口にしたが、曜次はあまり気にせずに答える。
「じっちゃんひどいな、俺今呪術高専にいるんだから友達ぐらいできたよ」
少し嬉しそうにそう報告する曜次の言葉に、呆れた顔をしていた傑と悟は少しばかり照れくさくなって、結局仕事を手伝う流れに乗せられてしまったのだった。傑と悟は一応義務教育を終了した上で呪術高専に所属しているが、曜次はお家の事情と言うやつで、小学校も中学校も通った経験がないという。それを知ったうえで、友人ができたなどと嬉しそうに言われては、断るにも断れない。仕方ないと諦めた二人はいつも通り曜次の勢いに呑まれたといってもいいだろう。
 天野神社、と言うだけあって、神社に所属している人達は、皆曜次のことをよく知っているらしい。そこここで声をかけられながら、本殿の方へ向かい、途中、なにやら白い着物を調達して、そのまま裏口から山道へと入る。
「どこいくの」
 悟の問いに「すぐわかるって」と笑いながら答えた曜次は、持っていた着物を二人に渡すと、そのまま山道を一気に駆け上ってしまう。傑と悟は少しばかり顔を合わせてから、追わないという選択肢はなかったのでそのまま曜次を追いかけていった。
 さして高くもない山の山腹にたどり着くと神社の全貌がよくわかる。本殿だけを見てもかなり大きな神社であることが明白だった。人が米粒みたいに小さく見える程度には山を登ったらしい。そこにはそれなりに大きな滝と滝つぼがあり、曜次は服を脱いで着物に着替えると、ぴょんと滝つぼの中に飛び込んだ。ばしゃんと水が大きく跳ねて、冷たい水が二人に降りかかる。
「おい!」
「早く着替えてこっちこいよ! 死ぬほど寒い!」
 曜次はけらけらと笑いながら二人を誘う。
「今日剣舞やるだろ? 傑と悟はやることないけど、一応神楽殿に上がってもらうから禊が必要なんだ! だから早く!」
 断る理由が思いつかなかったので、悟と傑は一度お互いに顔を見合わせてから、やれやれと天を仰いでから襦袢に着替えた。
 曜次は寒い寒いといいながら滝つぼでぐるぐると泳いでいる。
 曜次のように思い切って飛び込む自信がなかった二人は、白い襦袢に着替えてからそっと足先を滝つぼの水のつけたが、その瞬間寒気がぞわりと背筋を伝う。
「ここに入るの!? 嘘だろ!」
 悟が叫ぶがその顔面にぴゅっと水が飛んできて、悟は頭から水をかぶることになる。
「つめたっ」
「傑も」
「おい、待」
 待て、と言い切る前に、傑は足をつかまれて滝つぼに飛び込むハメになった。全身が突如氷水にでもつけられたかのような冷たさにさらされて、心臓が大きく跳ねた。感覚が一気に麻痺して、思わずごぼりと口の中の息を吐き出してしまう。まずいと思って手なり足なり引っかかる場所を探すが、一瞬のうちに感覚がなくなった手足では、触れているものがあるのかないのかも判然としなかった。
 水の中で暴れる傑を水面に押し上げたのは曜次だ。
「ぷはっ」
「悪い悪い、傑ってもしかして泳げない?」
「泳げる、だけどこんな冷たい水の中にいきなり飛び込んでなんともないと思うのか!?」
 傑は痺れた手で曜次の襟元を掴んでぐわんぐわんと揺らすが、曜次はあっはっはと笑うばかりであった。
 そんな二人の様子を見ていた悟は、襦袢姿で冷たい風にさらされ腕をこすっていたが、これはもう覚悟を決めて入るしかないとばかりに、思い切り地面を蹴って水の中に飛び込んだ。
 ばしゃんと盛大に跳ねた水が傑と曜次の顔を濡らす。
「あーっ! 冷たい無理無理無理!」
 悟は思い切り飛び込んだはいいものの、あまりの寒さに悲鳴を上げて、せり出した岩に捕まってぶるぶると震えている。
「嘘でしょ!? 死ぬよこれ!」
「大丈夫だよ、雪降っててもやるし、まぁ冷たいけ……ヘクシュッ」
「君も寒いんじゃないか! これいつまでやるんだ!?」
「とりあえず水に入ればOK」
「じゃあもうあが__」
 傑が痺れる手で曜次の体を支えて滝つぼから押し出そうとした時だった。
 空気が変わった。
 ぴりっと張詰めたような感覚には覚えがある。呪霊が、近くにいる。
「傑、押し上げて」
 曜次は傑の耳元で囁くように言うと、傑は頷いて、曜次を滝つぼから押し出した。曜次は濡れた全身を気にすることもなく、脱ぎ捨てた服と一緒においてあった刀を握ると、そのまま、そろりそろりと移動しながら、滝つぼを囲む木々の間に身を潜める。すでに刀は抜いていた。
「私たちも上がろう」
 傑の言葉に悟は無言で頷くと体を持ち上げようとして、その瞬間、ぱっと手を離し、傑の襟元を掴んで水の中に飛び込んだ。
 ずぅん、と大きく地面が揺れるような音がする。低音が響き渡り、びりびりと空気を揺らしていた。傑と悟は水中から天を見て、そこに今まで見たこともないほど呪力に満ちた呪霊が、雲のようなものに乗ってゆっくりと移動していくのを見た。
 そは曜次たちの存在に気づいて無視したのか、はたまた気づいていないのか、滝つぼを越えてゆっくりとどこかへ消えてしまった。
 悟と傑の息もそろそろ限界が近く、二人は揃って冷たい水の中から飛び出すとぜぇはぁと荒い息をする。
 曜次がさっと縁に駆け寄って二人に手を伸ばすと、二人は痺れた手で曜次の腕を掴むと、なんとか滝から上がる。
「アレを祓うのか?」
「いや、今回集まった物の中にあれほど大きな呪力の塊はなかったと思う、なんだろう」
 曜次の表情は真剣だ。彼にとってもよい事態であるとは言えないのだろう。
「一級? 特級?」
「撒き散らしてる呪力だけで相当だ、特級じゃないか」
 傑の言葉に曜次は頷きながら、呪霊が消えていった方角を見る。神社とは逆の方向に向かったようだが、あの呪霊は何かを探していた、そんな様子だった。もしやすると、その探し物は今回集まった呪物の中にあるのではないかという嫌な想像が曜次の頭の中で木霊する。
「アレに勝てるか自信ないな」
「なんであんなのがここに、もしかして集めた呪物に関係があるんじゃないの」
 悟はそう言ったが曜次には未だ思い当たるものはなかった。
「先に確認しておこう。同じ残穢を残す呪物がもしかしたらるのかもしれない」
「呪霊はそもそも物に憑いているときが一番安定するからね……片割れとまでは行かないけれどなんらかの理由で分離してしまった呪霊が自分が憑いていた呪物を探していたのかもしれないよ」
 冷たい水に飛び込み、濡れた襦袢のまま寒風にさらされた三人はいそいそと襦袢から着てきた制服に着替えた。それで寒さが落ち着くわけではなかったが、それ以上にあの特級にもなりうるだろう呪霊の方が気がかりであった。
「やっぱり、夜蛾先生に相談すべきだと思う?」
「本来ならね……社務所に電話があるから一応高専に掛けてみよう。夜蛾先生が居るといいんだけど」
 まだ携帯が普及する以前のことであるため、三人はすぐ担任の夜蛾に連絡を取る手段を持ち合わせていなかった。
「なんとなく嫌な気がするなぁ……」
 ポツリと曜次は呟いた。

2019.01.08