夏休みも終わり、にぎやかな声が毎朝聞こえてくる時期になった。風も幾分涼しくなり、ワイシャツ一枚でも過ごしやすくなり、あの夏の猛暑が嘘のように日差しは和らいだ。
呪術高専を卒業した
天野曜次、夏油傑、五条悟、家入硝子の四人は各々の道へ邁進していた。悟と傑そして硝子は大学へ進学した。悟は教員免許を取るため、傑は純粋に知識欲を満たすため、硝子は医者になるため、それぞれ違う大学を選び、今も授業に励んでいると聞く。
天野曜次は大学に進学するつもりはなかったので、しばらくの間実家に引きこもっていたが、ある目的を達成すると再び呪術高専へと戻ってきた。呪術高専では、学生の他に、呪術高専を拠点とする術師のために門戸が開かれている。高専を卒業した術師であれば、希望すれば呪術高専の寮を使うことができるのだ。そういった術師は少なかったが、日常生活において金銭的な負担がないというのは魅力的だった。
曜次は金に困っているわけではないが、今後どうするか方針を明確に決めるまでの間、呪術高専を寝床にしようということにしたのである。後々は日本全国を行脚しながら、呪霊を祓っていく予定だが、それにしても少し気がかりがあったのは確かであった。その気がかりとは美々子と菜々子のことである。まだ小学生の二人を置いて東京を離れるのは心配だ。せめて彼女らが中学生に上がるまでは呪術高専を基点にしようと考えたのである。
高専は東京の中にもこんな山があったのかと思うほど山奥にひっそりとつくられていた。表向きは私立の宗教系学校ということになっており、時折、本当に時折間違って高専の門を叩く者もあるそうだが、あいにくと
曜次はそういった人物とは遭遇したことはなかった。彼らは一体どうやって高専を見つけたのか、謎である。さてそんな高専を出て、長いつづら折りの道路を下りに下った先に小さな町がある。小さな町だが、商業施設があり、小学校や中学校があり、犯罪は少なく静かで落ち着いた町として有名だった。そんな町の一角にアパートを借りたのが数年前のこと、美々子と菜々子をそこに住まわせ、
曜次と傑は頻繁に彼女らのところに足を運んだ。
曜次と傑が高専を卒業してからは美々子と菜々子のところに行く機会は少し減ったが、
曜次は今も任務がないときにはなるべく二人のところに遊びに行くことにしている。
「よし」
高専で与えられた一室で寝転んで天井を見つめていた
曜次は、ぱんと手を叩いて体を起こすと簡単に荷物をまとめる。いつ突然の任務が入るかわからない身であるため、数少ない荷物はほとんどバッグにまとめられ、あとは携帯と暇つぶしに読む本を放り込めば完成だ。刀袋を背負って、荷物を抱えて、
曜次は部屋を出た。向かうのは勿論美々子と菜々子のところだ。暇をしていたことだし、そういえば傑も今日は大学が休みだと言っていたから久しぶりに四人でご飯を食べに行ってもいいかもしれない、とそんなことを思いながら自室に鍵をかける。特に何もない部屋だが勝手に上がられるのは不快だ。昔はそんなこと気にもかけなかったのだけれど、変わったなと
曜次は自分自身に苦笑しながら、ポケットに鍵を突っ込んだ。しんと静まり返った廊下を大きな歩幅で歩いて、寮母さんのところで外出申請をして門の外に出るが、任務ではないため補助監督の車はもちろんない。
高専にやってくるバスはない。下町に行くには自転車か徒歩か、任務の際は補助監督の車を使う。今回は古びた自転車を借りて行くことにした。漕ぐたびにぎいぎいと不快な音をたてたが
曜次はあまり気にすることなくブレーキもかけずに坂を下っていく。あまり整備されていない道なので、自転車は時折大きく跳ねたが
曜次は気にもかけなかった。ただ下るだけでも二十分近くかかる道のりだ、
曜次はさくっと下り終えて、町中に入るとまずはスーパーに寄ってお菓子をいくつか買い込むとそれもバッグの中に押し込んで、さらにチャリで走ること五分程度、
曜次は最近建てられた真新しいアパートの前にたどり着く。チャリをアパートの前に止めて鍵をかけてから、
曜次はバッグの中から携帯を取り出して傑にメールを一本打つ。美々子と菜々子のところにいるぞと連絡をして携帯を閉じると、荷物を背負いなおして、カンカンカンと階段を上がっていった。
303号室が美々子と菜々子の部屋だ。ピンポーンと呼び鈴を鳴らすと、ぱたぱたと走る音が聞こえる。しばらくするとガチャリと鍵が開いたが、ドアはそろりと少ししか開かなかった。
「どちらさまですか」
顔を覗かせたのは菜々子だ。チェーンはしっかりとかかっており、何かあればすぐに閉じるぞと言わんばかりの視線だったが
曜次は気にせず扉の隙間から手を伸ばして菜々子の頭を撫でる。
「おーちゃんと言いつけ守ってるな、えらいえらい」
「
曜次!」
ドアは一度閉まってから今度は大きく開いた。嬉しそうな声がアパートに響く。扉が開くと同時に二人の子供が飛び出して
曜次に飛びついた。
「最近遊びに来れなくてごめんな。元気してた?」
「うん! 夏油様は?」
曜次が来たなら傑も来ているだろうと思ったのか、菜々子と美々子は
曜次に飛びついたままぐるぐると周りを見回した。だが残念ながら探し人はおらず、菜々子と美々子はしゅんと小さくなる。
「そんなに露骨にがっかりされると
曜次お兄さん傷ついちゃうな~、傑も後で来ると思うよ」
さっき連絡したからね、今日は休みだって言ってたし、と告げればやったぁと菜々子と美々子は歓声を上げた。喜びながら美々子と菜々子は
曜次を部屋に招き入れた。その間にも話したいことはいっぱいあるのか、
曜次の洋服を掴んであれやこれやと学校であったことを二人は矢継ぎ早に話していく。
「あのね、この間のテストで八十点とった」
「すごいな美々子は」
「菜々子も八十五点取ったよ!」
「二人とも偉いなぁ、俺なんて最後の試験赤点で補講だったよ」
曜次は自分のことのように嬉しそうに笑うと、二人の頭をもう一度撫でる。そろそろ撫でるのは嫌がられるだろうか? と考えつつも、まだまだ背丈の足りない二人の頭の位置は手を置きやすく、何かと頭を撫でてしまう。
「
曜次って頭悪いの?」
「うっ、ストレート故に傷つく」
曜次はそんな様子は少しも見せずに笑いながら荷物を置くと、鞄の中から先ほど買ったお菓子を取り出してシンプルな机の上に置いた。
部屋はすっきりと片付けられている。荷物は少なく、子供机が二つ並んでいるが、机の上も物があまりなくよく片付いているといえばそうだが、華やかさが少し足りない気もした。自分の机をどう飾り立てるかは本人の自由であるし、
曜次自身はあまり関心がなかったので寮の机の上にはすっきりと何もない。時々スケジュール帳を開くばかりで、勉強に使ったことは数少なかった。なので特に二人に何を言うこともなかった。
「ほら今日はお菓子持ってきたけど、何か困っていることはないか? 少しでも困ったことがあったら俺か傑に言うんだぞ」
「……うん、大丈夫」
菜々子の言葉にほんの少し何か含みを感じて
曜次は首をかしげたが、そういう言葉の裏を探るのは
曜次が何よりも苦手としているところだ。何かありそうだなぁと思いつつ、どのように聞き出せばいいのかわからずに
曜次は黙ってお菓子の袋を開けた。冷蔵庫には小さなホワイトボードがぶら下げてあり、そこには傑の字で「食事前のお菓子は禁止」と書いてある。その下には冷蔵庫の中に入っている者が小学生らしい字で書かれていた。こういうことをするのは大体美々子だ。几帳面で色々と細かいところに気が付く。菜々子は流行に敏感だ。それに人の気持ちを察する能力が高い。クラスでは少し浮き気味の美々子を引っ張って友達の輪に入れるのは大体菜々子の役割で、そのおかげか二人とも小学校では友人も作り仲良くやっているらしい。小学校にも中学校にも通ったことのない
曜次にはわからないことだが、二人が楽しんでいるのならそれで構わないだろうと
曜次は思った。
そのあとは特になんということもない話をして、時間は過ぎていく。二人は後退で
曜次の髪を梳かしたがったので、自由にさせていたが、その結果とんちきな髪型になったのは言うまでもない。さすがの
曜次も鏡を見て頬をひきつらせたが、元に戻してくれるというのでもう一度為すがままに任せるのだった。
携帯がブーブーと鳴ったのはそんな時だった。
曜次は髪の毛を菜々子に任せたまま机の上に置いていた携帯を手に取る。開くと、傑からの連絡だったので通話ボタンを押して携帯を耳に当てた。
『
曜次?』
「おーっす、返信遅かったな。俺もうみみななの家にいるよ」
『私も今から行くよ。何か持ってきた方がいいものはあるかい?』
「傑も来るなら鍋にしようぜ。まだちょっと暑いけど」
『鍋よりどこかに食べに行くのはどうだ?』
「あ、いいね、そうしよう」
『どこがいいか決めておいてくれ、じゃあ四時頃にはそっちに着くよ』
それだけ言うと傑からの電話は切れて、あとは話中音が残るばかり。
曜次は携帯を折りたたんで、もう一度鏡を覗き込む。さらさらと美しい髪が肩から胸元までかかっている。髪の毛ははじめと同じように、ハーフアップにまとめられ、綺麗な簪が挿してあった。
「この簪菜々子の?」
「うんとね、夏油様と
曜次にあげようと思って……それで」
「菜々子ー!!」
曜次はくるりと後ろを振り返るとそのまま髪の毛を弄っていた菜々子をぎゅーっと抱きしめた。
「美々子も」
つんつんと指さす美々子も合わせてぎゅーっと抱きしめると、くすぐったいのかきゃっきゃと笑って身をよじらせる。
「嬉しいなぁ、大切にするよ」
曜次はにこにこと笑いながら言った。今まで装飾品には欠片も興味がわかなかった。石もきらきらとした飾りも興味がなく、長い髪をハーフアップにするときはいつも適当なゴムを使っている。美々子と菜々子が用意した簪は女物だった。だがそんなことは気にならないほど、
曜次の胸の奥が温もりを得る。「嬉しいなぁ」と繰り返し呟くと、美々子と菜々子は照れたように顔を赤くした。そしてぎゅっと
曜次に抱き着いたのだった。
ちょうどその時ピンポーンと玄関のチャイムが鳴る。夏油様だ! と色めき立つ美々子と菜々子だったが、
曜次はそんな二人の頭を撫でて「俺が出るから」と言った。
もし本当に夏油傑ならチャイムをならす必要などない。特に
曜次がいるとわかっているなら合い鍵を使って入ってくるのがいつものことだった。ただの荷物の配達ならいいが、と思いながら
曜次は腰に刀を佩いて、鍵をとチェーンを外した。扉越しに伝わってくる気配は二人、明らかに荷物の配達などではない。
「……」
ドアを開けるとそこにいたのは二人の男だった。片方は金髪にピアスをいくつも開けている。髪を片側に流して、ツーブロックにしたデザインは男をひどく軽く見せていた。もう一人の男は黒髪だが舌にピアスを開けている。
男二人は
曜次が出てきたことに多少驚きつつも冷静を保って会話を始める。
「あーえっと、おっかしいな~ここ、女の子しか住んでないって聞いてきたんだけど」
「そうそう、女の子二人じゃ生活も大変だろうしってことで見に来たんだけど、お姉さんもここに住んでるの?」
こういったことに慣れている様子の男二人、目的ははっきりしている。
曜次はさらりと肩に流れる黒髪を少し揺らして「俺、男だけど?」と言った。男たちは先ほどよりもあわてた様子を見せた。
「あっ、保護者の方いたんですね、あははそれじゃあ心配いらないな、じゃ俺たちは……」
「待てよ」
曜次の声のトーンが一段下がる。男二人はびくりと肩を振るわせたが、見栄をはるように「なんだよ、男には興味ねーの」と言った。
「そっちにはなくてもこっちにはあるんでね。なぁ、なんでここに来たんだ?」
「女の子二人だけじゃ色々大変だからと思ったからっつったろ」
「へぇそれで?」
「それで……何か手伝えることがあればって……」
「何を手伝うんだ」
「もういいだろ、いくぞ」
ガンと大きな音が鳴った。
曜次が手すりを思い切り蹴り飛ばすようにしながら足を乗せたのだ。ドアを開けた時の少しかがんだ姿ではわからなかったが、立つと
曜次はすらりと細い。それを見て男たちは勝てると思ったのか急に強気になる。
「どけよにーちゃん。せっかく女の子二人だから楽しもうと思ってたのに男つきじゃ意味ねぇんだよ。俺、空手の黒帯だぜ? やめといた方がいいんじゃないの?」
黒髪の男は一歩下がってしゅっ、と手で打つふりをする。金髪の男もにやにやと笑みを浮かべて
曜次を見ていたが、次の瞬間、二人の前髪がパツンと切られ頬に一本赤い線が入って、男二人は「えっ?」と声を上げた。男の目の前にはいつの間にか抜き身の刀が突きつけられている。
「空手黒帯なんざいくらでも相手にしてきたんでね。さて、少し話をしようかお兄さん」
男二人は明らかに狼狽していた。逃げ道は
曜次が塞いでいる。ここから逃げるには手すりから飛び降りるか、部屋に入るかの二択だ。金髪の男は悲鳴を上げて美々子と菜々子の部屋に入ろうとする。だが
曜次の刀はそれを許さない。男二人の目に見えない速度で回転した刀は金髪の男の手首にぐるりと、アクセサリーのように血の線を刻んだ。
「ぎゃあああああ! いてぇっ! いてぇぇぇ!」
「みっともなくわめくなよ。こっちは聞かないといけないことが山ほどあるから舌を切り取らないでやってるんだしっかりこたえ」
曜次の言葉を最後まで聞かず、黒髪の男は一歩踏み込むと同時に拳をまっすぐに
曜次に向かって振り抜いた。だが、拳は
曜次ではなく刀の側面にぶつかり男の手が切れる。
「いっ……」
「へー、黒帯ってのはホントなんだ。じゃああんたでいいよ。金髪の男は使い物にならなそうだしさ。なあ、ここに女の子二人だけで住んでるって誰から聞いた?」
「い、いわな……」
「言わない? じゃあ指とおさらばするか?」
曜次が刀を振ると黒髪の男の指にぴっと切り傷が入る。
「次は骨ごといくぞ」
「言う! 言う! お、俺らの大学の裏掲示板で、ここには女の子二人しか住んでないって書いてあったんだよ! 二人しかいないしほかの住人は休日の昼間は出かけるからヤリ放題だって」
「へぇ」
曜次はぐるぐると手の中で刀を回転させた。
「ほ、ほかにもいっぱい乗ってて、今日は下見のつもりで……」
「ふぅん、下見ってことは本番があるわけだ」
「ち、ちがっ」
「今すぐその掲示板に書き込め。この部屋には怖い男がいるってな」
「け、携帯忘れちゃって」
「ふぅん、じゃあお前いらないな」
ぱんって
曜次は黒髪の男の足を払いながら刀の峰で男の頭を軽く打った。バランスを崩した男は悲鳴を上げながら手すりを越えて三階から落下する。
「下に木と灌木があるから死なねぇよ、じゃお前だな。携帯持ってるだろ」
曜次は手首を握ってこくこくと必死に頷く男ににっこりと笑いかける。
男から見て
曜次はどれほど恐ろしい存在に見えただろうか。金髪の男は震える手で携帯を取り出すと、裏掲示板にアクセスして
曜次が言ったことを一言一句間違えずに打ち込んだ。それを確認して
曜次は刀を横に振る。バカッと携帯が真っ二つに割れて男は情けない悲鳴を上げた。
「俺が犯罪者なら殺してた。そのことを忘れずに二度とここに近づくな」
わかったな、と言い終ると
曜次は道をあける。男はぶるぶると冷蔵庫の中にでもいるのかと思うほどに震えていたが、道を開けられて走って逃げ出す。カンカンカンカンと階段を軽快に降りる音がする。
それと入れ違いになるように黒髪をハーフアップにした男が階段を上ってきた。
「おっと」
途中で金髪の男とすれ違った夏油傑は目ざとく、金髪の男の手首についた傷を見て、目を細める。
「
曜次」
「殺してない。あいつらが悪い」
「人を上から落とすときは下に人がいないか確認してからだと前に教えなかったかな」
「あっ」
「ほら、刀をしまって。美々子、菜々子、久し振りだね」
今度こそ本物の夏油傑だ。美々子と菜々子は歓喜の悲鳴を上げて荷物を持ったままの傑に飛びついた。
「夏油様お荷物持つー!」
「これなぁに?」
「
曜次も早く!」
菜々子に急かされて、
曜次と傑は狭い玄関に入った。靴を脱ぎリビングに手荷物を置くと傑は買ってきたアイスを冷凍庫にいれる。
「それで、さっきのは?」
「裏掲示板見てやってきたクソヤロー。なぁやっぱり呪霊の護衛つけるべきだよ。弱い奴で良いからさ」
「そうだね。ああいうことが今後もあることを考えると三級いや二級ぐらいの護衛を」
「あれ、傑実は怒ってる?」
「そんなことはないさ」
「目が笑ってないんだよなぁ、二級はさすがに人死にがでるよ。三級がいいって。ちょいとポルターガイストが起きれば十分十分。ま、当分は来ないと思うけどねさんざん脅したし」
曜次は腰にぶら下げた刀をベルトから外してちゃぶ台の上に置いた。クッションの上に腰掛けると菜々子が膝の上に乗ってくる。同じように傑の膝の上には美々子が乗っていた。
「お菓子食べよ!」
「おーそうだなでも夕飯が食べれなくなるから少しだぞ」
「えー!」
机の上にはきらきら輝くあめ玉から、おせんべいスナック菓子、知育菓子が乗っている。なんだかんだと美々子と菜々子に傑と
曜次は甘いのだ。
曜次はあめ玉を選んで包装を解いて口の中に入れた。コロリとした小さなあめ玉はイチゴの味がする。美々子と菜々子は慎重にどれを食べるか選んでいる。そんな美々子と菜々子を見ながら
曜次は後ろに手をついて、ぐーんと背伸びをした。その時ふと、ゴミ箱の中に入っているものに気づく。それがただのゴミであれば
曜次も気にしなかったかもしれないが、そこには保護者の方へ、と書かれていたのだ。これは見過ごすわけにはいかなかった。
手を伸ばしてゴミ箱の中からその紙を一枚引っ張り出す。ぐしゃぐしゃに丸められたそれを丁寧に開いていくと、そこには授業参観のお知らせが丁寧に書き綴られていた。
「あ!」
菜々子が気づいて慌てて
曜次の手からプリントを奪おうとする。だがそれより早くプリントは傑の手に渡った。
「美々子、菜々子」
少し怒ったような口調で傑が二人の名前を呼んだ。
「だめじゃないか、保護者へのお知らせは私か
曜次に渡す約束だろう?」
「でも」
「でも、なんだい」
「二人とも忙しそうだから……」
そう言った美々子の頭を傑は撫でた。
「そんなこと気にしなくていいんだよ。私と
曜次は君たち二人の保護者だ。何かあれば何が何でも二人を優先する。だから気にしないでこういう大切なお手紙は見せなさい」
「……はい……夏油様」
傑の言葉にしょん……としおれて美々子は答える。そんな美々子の頭を優しくなでて、傑は学校からのお便りを眺めた。
「授業参観か……」
「なー傑」
「なんだい」
「授業参観、って何?」
20201102