ヨゴトノリトのパラドクス

その後の話

  傑と曜次が子供を連れ帰ったという話題は、数少ない高専の関係者の間で一気に話題になった。そのおかげで、美々子と菜々子が将来術師として働く、という条件を担保に高専からお金が降りたのはラッキーなことだったのだろう。
 みなしごを育てるというのは大変だった。美々子と菜々子は今までまともな教育も受けていない状態だったので、小学校に行かせる前に教えるべきことは山ほどあったのだ。
 傑と曜次は高専から一番近い町に一室を借りて、そこに美々子と菜々子を住まわせた。二人は頻繁に様子を見に行った。お金に関しては困ることがないとはいえ、お金の使い方も教えなければいけなかったので授業が終わり任務がない日はほぼ毎日美々子と菜々子のところへ通っていたと思う。教えるべきマナーや電車の乗り方、基本的な日常生活の送り方などを教えて、学校に通うことができるようになってからは、学校で困っていることはないかといった話が中心になる。
 そのうちに美々子と菜々子は曜次があまり役に立たないことに気づいたのか、傑のことは夏油様と呼ぶのに、曜次のことは曜次と呼ぶようになっていた。確かに美々子と菜々子の心を救ったのは傑だ。だがその差はないんじゃないか、不公平だ、と曜次は言ったが、遊んでやる以外にほとんど何もしていないので不公平ということはないのだろう。
 美々子と菜々子の世話で忙しい中、傑と曜次自身も進路を考える時期が差し迫ってきて、余計にせわしない毎日を送ることになっていた。
「うーん進路か参ったな」
「俺もう決まってるよ」
「どうするんだい?」
「今までの天野家の当主と同じことをするんだ。要は全国の寺社仏閣をめぐって呪霊を斬って回って刀を育てるの」
「大学にはいかないのかい?」
「俺の成績で行ける大学があるのか疑問だろ」
 それもそうだと傑と悟が笑うと、曜次はむっと頬を膨らませた。
「悟は?」
「俺……僕は大学に行く」
「どうして?」
「教師になる」
「へぇ」
「ほぅ」
「なんだよその反応」
「いや別に?」
 ちょっと意外だと思っただけ、と曜次が言うと傑もそうだねと同意した。
曜次の件とか、灰原の件とかで俺も色々考えたんだよ。呪術高専の教師になる。そのために教員免許をとるんだ」
「悟が教師とか全然イメージわかないわ、傑は?」
「私は心理学を学びたいからやっぱり大学に進学することにするよ。その後はどうしようかな、教祖にでもなってやろうか」
「傑が教祖かー……似合うな」
「似合うね」
 悟と曜次は顔を見合わせて笑った。
「宗教はわかりやすくていいだろう? 私の場合呪いを集める必要があるから、そういう宗教にしてしまえばいい。そうすればいくらでも呪いを集められる」
 傑もからからと笑いながら言った。
 進路希望届にそれぞれ思い思いのことを書いて、提出する。夜蛾は「放浪者」と「教祖」と書かれた進路希望届を突き返すか心底悩んだようだったが、結局それらはすべて受理された。あの三人に何を言っても意味がないと、この三年間で夜蛾も身をもって知った、というところであろう。
 卒業式を迎え、大学に進学する者は進学し、放浪の旅に出る者は放浪の旅に出て、しばらくの間連絡をとらなかった三人だが、大学卒業後、悟が高専の教師になるころ、誰からともなく連絡をしてまた三人でつるむようになる。その頃には傑は教祖になっていて、何千人という人を従えていた。
 悟と傑と曜次の友情は今も変わらない。二十八歳になってからも、曜次はふらっと傑の前に現れて、ニ三日ぐーたらすると、またふらっとどこかへでかけてしまう。悟の方がよっぽど真面目に仕事をしているように思えた。美々子と菜々子は高専で友人ができたらしい。灰原は今日も元気に傑にくっついている。

 物語はこれでおしまい。しかし同時に始まりでもある。この続きはいつか、気が向いたときに書くことにしよう。

 ヨゴトノリトのパラドクス 完


20201004