「君は」
そんな言葉で夏油傑は話を始めた。
呪術師の繁忙期がようやく終わりかけた、そんな夏の終わりのある日、悟と硝子は任務でおらず、本日の予定は授業だけだった傑と
曜次は、その授業が終わると屋上で昼飯を食べているところだった。授業が長引いたところで、誰かと競争する必要もなく購買で安いパンを買い口に押し込んでいたところで、ぽつりと呟いた傑の言葉を
曜次は一度聞き落とす。
「なんだって?」
「もういちど言えと?」
「話が進まないからもう一度お願いします」
「……はぁ、まぁいいけれど、君はフラットだなと言ったんだ」
「一応三次元に生きてるつもりだけど」
「そういう話じゃない」
曜次と話をするといつもこうして脱線する。脱線するのがあまりにも日常だったので、傑はあまり気にすることなく話を続けた。
「君の感情の話さ。なにを言われてもなにをされても大きく揺るがない、あるがままを受け入れる」
「それで?」
「ちょっと気になっただけだよ。君は呪力がほとんどないんだね」
「うーん」
曜次は傑の言葉に首を傾げて紙パックのみかんジュースを空っぽになるまで吸い込んだ。そしてくしゃりとパックを潰すと「ちょっと違うかも」と言う。
「傑の言いたいことは正しいよ、大抵いつも正しいけどね。俺はフラットというより感情が動かないんだよ」
「だろうね」
「いつから気づいてた?」
「里で君が刀を打ったとき」
「へぇ、勘がいいな」
「あのとき何故君が刀鍛冶として失格なのかずっと考えてただけさ」
傑はそういいながらそれ、と腰の刀を指差す。
「呪力を篭めるんじゃない君の場合は降霊によって呪力を集める、最低限の呪力はあるけどそれ以上はない」
「あたり」
「よくそれで二級になれたよな」
「刀が使えたからね。呪力は産めなくても別にいいのさ」
「いや違うな」
へ? と
曜次は間抜けな顔で傑の方をみた。
「君は呪力が産めないんじゃなくて他人を呪わない人なんだよ」
「……それは、初めて言われたな」
「そう? 私も私の術式を見てかっこいいだなんて君に初めて言われたからおあいこだね」
「そういうのおあいこっていうのぉ?」
曜次は眉を寄せてそんなことを言う。
「おあいこさ、それに私は君のそんな有り様を美しく思うよ、他人を呪わない君は美しい」
「傑って時々恥ずかしいことをさらっというよね」
「君もね」
「自覚ないなぁ」
2019.01.30